手櫛。月光。砂場の鉄棒。







  親指以外の四本の指を
  1センチ弱の間隔を開けて、
  あなたの顔の両脇を滑らす。
  おおいかぶさってくる
  たれさがってくる
  あなたの髪を指で梳く。
  あなたの顔が見えてくる。


   もっと、見せていて欲しい
   あなたが、あなたであることを
   こうしているときにも
   確認させてほしい。
   もっと、あなたを見せてほしい。


  ばさりと前髪が垂れたとき
  あなたは、こにりと微笑んだ。
  微笑みながら、僕の舌をむさぼった。
  時を置かず、口を離したとき
  あなたの笑顔は、泣くように歪んだ。

   あなたはその白い腕を僕の背中に絡ませ
   嫋々と撫で、ゆっくりと上に伸ばす
   そして、僕の濡れた後髪を掴んだ。
   後髪を掴まれた僕は
   抵抗せずに自然に顔を上に向けた
   そこでまた、あなたは舌を絡ませた。


     汗ばんだ素肌が密着し
     あなたの乳房はひしゃげた
     ひしゃげたまま、僕の胸を上下に動いた。
     乳房はひしゃげたまま、こすりつけられた。


  うなじに舌を這わす僕の目鼻は
  いつだってあなたの髪に邪魔をされる。
  だから、また、手櫛を入れる。



   顔を見せてほしい。
   あなたがあなたであることを
   僕に見せて欲しい


  櫛となった僕の指先に
  あなたの濡れた後髪が触れた
  濡髪と共に、あなたの頭蓋骨を掴んだ。
  両つの掌底に、小さな頭蓋骨はすっぽりとおさまった。
  そのまま離さないで−−−

  優しい月光のなか
  あなたの顔は、僕の知らないあなたで
  僕の知りたかったあなただった
  呼吸を忘れて
  僕たちはただ見つめ合った


 

  日溜まりの中で見た
  小学校の校庭の鉄棒。

  夜の校庭には月明かりが射し込み
  鉄棒は鈍く輝いているのだろう。


  あの鉄棒に掴まりたいと、あなたは小さく呟いた。

  あの月を、あなたは欲しいと言って哭いた。





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