ESSAY／公共貸与権 public lending right

　今日も今日とてエッセイのネタに困ってインターネットをさまよっておりましたところ、以下のような記事をみつけました。NEWSWEEKSの最近の記事（03年２月３日号）です。記事の原文サイトはhttp://www.msnbc.com/news/864413.asp?cp1=1#BODY にあります。

　以下訳とともに原文を引用しておきます。まあ、英語の勉強方々にどうぞ。900ワード以下の小論ですから、手ごろですし、素直な英文ですから。




Japan’s Book Battle Libraries are the rage: should the booksellers get paid? By Kay Itoi NEWSWEEK INTERNATIONAL 　Feb. 3 issue 日本の書籍戦争 怒れる図書館：出版社は図書館から支払を受けるべきか？ Japanese publishers say they are getting clobbered by an unlikely upstart: the local public library. It was not until the 1970s that public libraries first appeared in Japan, and while still relatively rare in remote areas, they are growing fast. 　予想もしなかった新参者、すなわち公立図書館の台頭により日本の出版各社は存続の危機に追いやられているとうったえている。日本の公立図書館は、70年代になってからその姿を現したに過ぎず、今もなお地方に行くほどその数は少ない。しかし、急速のその数は増えつつある。 THE NUMBER OF books libraries lend out doubled to 546 million in the past decade, and libraries all over the country are packed, particularly on weekends. Supported by taxpayers’ money, free library books have an obvious appeal in a nation suffering a chronic economic slump. Money-management gurus on TV often advise viewers to save money by borrowing books, and consumers like Sachiko Hiraishi, mother of two preschoolers, take the tips to heart. “I don’t want to buy books kids will grow out of while we find all the wonderful ones at the library,” she says. 図書館で貸し出された本の総数は5億4600万冊。10年前の二倍である。そして全国の図書館は利用者でいっぱいであり、特に週末の混雑は激しい。税金によって運営されているこれらの公立図書館で無料で本を借りること、それは慢性不況にあえぐ日本社会において益々魅力的に映っているようだ。テレビに登場し、家計の知恵を授ける評論家センセイ達は、しばしば図書館で本を借りてお金を節約しなさいと説く。二人の小学生を抱える平石幸子（←漢字はいい加減な当て字です）さんは、この教えを忠実に実践している。「子供が大きくなったら読まなくなるような本なんか買ってられないですよ。図書館に行けばいい本が沢山あるんですからね」という。 As the publishers tell it, the library boom now amounts to unfair competition that is helping to kill their business. Book sales in 2001 amounted to only .946 billion ($7.9 billion), down 13 percent from 1996, according to Tokyo’s Research Institute of Publications. After years of blaming their troubles on the rising popularity of videogames, mobile phones, music CDs and successful used bookstore chains like Bookoff Corporation, publishers and authors began looking for ways to get some of their money back. Now the publishers are asking libraries not to lend out popular new titles for a period of six months, and for authors to get paid for the books the libraries loan. Outraged librarians have called the proposal a commercial assault on an ancient sanctuary of free information and learning. 出版者達が指摘するように、日本の図書館ブームは、出版業界に重大な脅威を与える不正競争として映るほどに高まっている。東京の出版調査期間の調べによると、2001年の出版物のセールスは9460億円であり、96年から13％も減少している。ビデオゲームの台頭、携帯電話、音楽ＣＤ、ブックオフのような大規模古本チェーン店の出現などで、長いあいだ出版不況に苦しんできた出版社と作家達は、ここにきてなんらかの方法で損を取り返そうと動き始めている。目下のところ、出版各社は、図書館に対し、新刊本については半年間の貸し出し禁止と、貸し出しにあたっての作家にロイヤリティを支払うことを求めている。これに怒った図書館側は、この要求を、古来から自由な情報と貸出しの聖域だった図書館に対する商業主義の攻撃であると論難している。 The libraries appear likely to lose. Publishers point out that Japan is, along with the United States, one of the few developed nations that has not fully adopted the idea of public lending rights. Based on the British system, these require the government to set up a fund that compensates authors for each time their work is borrowed from the library. In Britain, the rate per loan is a little more than seven cents, and the most an author can earn in one year is capped at $9,800. More than 17,000 British authors received pay under the plan last year. More than a year ago, famous Japanese authors like novelist Masahiro Mita began advocating for the British system, saying the current situation is “antidemocratic” and violates writers’ copyrights. Now Tokyo is signaling its willingness to rewrite the copyright laws. 　しかしながら図書館側の旗色は悪い。出版社側は、日本はアメリカと並んで、先進国では数少ない公衆への貸し出しに関する権利（公共貸与権）を充分に定めていない国であると指摘する。たとえばイギリスのシステムは、政府に対して、貸し出しに際して作者にいくばくかの補償がいくような財源の確保するように求めている。イギリスにおける貸し出し一回あたりの費用は、わずか７セント程度であり、多くの作家達のこれによる年収は9800ドルという上限が定められている。イギリスにおいては、昨年、１万７０００名以上の作家がこの給付を受けている。１年以上前、有名な日本の作家である三田誠広氏は、現状は非民主的であり、作者の著作権を侵害するものだととしてイギリス方式を提唱しはじめた。現在、政府も著作権法改正の意思を示している。 It’s not quite clear how public lending rights would help the publishers, since the money goes to authors. And the biggest publishers have been silent about a proposal from one of their peers that would charge library users, rather than libraries, a rental fee for borrowing books. Masahiro Oga, president of Shogakukan publishing, has argued that the rental fees could be used to shore up the finances of both the publishing industry and the libraries. To critics who call this a direct assault on the principal of free public access to libraries, Oga points out that a scattering of libraries in the United States are already charging a nominal fee (typically about 25 cents) for popular new books and novels. 　貸出しあたりの補償金が作家にいくとするなら、この公共貸与権は出版社側にどのようなメリットをもたらすのだろうか？このあたりは必ずしも明らかではない。図書館ではなく、図書館の利用者に貸出の際の貸し出し料という形で請求してはどうかというある同業他社からなされた申し出について、日本の最大手出版社は沈黙している。小学館の相賀昌宏社長は、この貸し出し料システムは、出版社と図書館の双方における財政テコ入れの方策として活用しうると論じている。図書館への自由利用への直接的侵害であるとする批判者に対しては、相賀氏はアメリカに散在する図書館では、既に人気のある新刊書の貸し出しに対する小額のチャージをしていると反論する。 Indeed, Japanese libraries appear to be specializing in the big hits. Last spring, 11 of Japan’s largest publishing houses asked 126 major public libraries for data on the most frequently loaned books. Only half of the 126 responded, but the results showed that libraries often hold multiple copies of popular titles. “Copycat,” Miyuki Miyabe’s million-seller mystery, was lent out 18,000 times at 51 of the surveyed libraries in 2001. The publishers, in cooperation with a nationwide mystery-writers’ group, now plan to ask libraries to refrain from lending surefire hits for six months after publication. 実際、日本の図書館は、大ヒット作に専門化しつつあるように見受けられる。昨年の春、出版11社は、大きな126図書館に対して、もっとも頻繁に貸し出される本のデーターを求めた。126図書館のうち回答があったのは半分だけだが、回答結果によると図書館はしばしば人気本については複数冊保有していることがわかった。宮部みゆきのミリオンセラーのミステリー「模倣犯」についていえば、2001年度の調査による51の図書館で、なんと1万8000回も貸し出されていた。出版各社は、全国規模の推理作家グループとともに、大ヒットが確実視される人気作品については出版から半年の貸出禁止案を考えている。 Behind the debate over free libraries is “the new awareness of intellectual property in Japan,” says Akira Nemoto, a University of Tokyo associate professor. Before, writers had been happy to take their 10 percent royalties on book sales and otherwise ignore copyright issues. But as new forms of publishing like e-books began thriving, says Nemoto, it was natural for authors to begin looking for copyright income from these new sources, too. It was then a short, logical step from the free Internet to free libraries. 　この図書館論争の背景にあるものとして、東京大学の根本彰助教授は、「日本における著作権の再認識」があると指摘する。かつて、作家は10％の印税だけもらえばそれで良く、それ以外の著作権に関することはあまり考えられてこなかった。しかし、電子ブックなど新しい出版方式が開発されいくなか、作家達が著作権収入を考え始めるのは自然のなりゆきだと根本助教授は指摘する。そしてその傾向は、無料インターネット、無料図書館にまで波及するのは論理的必然でもある。 Librarians, however, worry that paying fees could halt the library boom in Japan. Despite the recent growth, there is still only one library for every 47,000 Japanese citizens, compared with one for every 17,000 Americans and every 6,000 Germans. “Japan doesn’t even have enough libraries,” and public lending rights could only make their difficult situation worse, says Kaname Matsuoka, secretary-general of the Japan Library Association. The question is, who ultimately will pay the cost of public lending rights? The national government seems unlikely to be generous in a time of economic gloom. And if the financial burden becomes too onerous on local authorities, publishers may have to worry less about billing libraries than finding them. 　図書館側は、しかし、この貸出料金システムが、せっかく盛り上がっている日本の図書館ブームに水をさすのではないかと懸念している。近年ブームだとはいえ、日本の図書館の数は今だ国民4万7000人に一人の割合である。これはアメリカにおける１万7000人、ドイツにおける6000人に比べれば非常に少ない。「日本にはまだ充分の数の図書館がないのです」と、日本図書館協会の松岡要氏事務局長は言う。ここで公共貸与権が実現したら状況はなおも悪くなってしまうでしょう、と。問題は、究極的に誰がその費用を支払うか？である。この景気低迷状況から察するに、政府がそれほど気前良く振舞うとも思われない。負債に喘ぐ地方自治体の財政がさらに悪化するとき、出版社側は、図書館にいかに請求するかということよりも、図書館そのものが少なくなっていくことをこそ心配しなければならなくなるかもしれない。






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　以上です。お疲れ様でした。ではまた来週、、、と終われたら僕も楽なんですけど、そういうわけにもいかないのでちょっとコメントを加えます。

　この図書館をめぐる公共貸与権論争というのは、ちょっと耳にしたことがある程度で詳しいことは知りませんでした。
　今、この英文を訳しながら個人的に考えたところでは、公共貸与権は認められていいと思います。指定人気本の出版から半年くらいは一冊あたり上限50〜100円程度で、半年過ぎたら一冊20円程度で料金を徴収してもいいと。

　借りる側の負担からいって、本をまるまる借りられて一冊20円とか100円程度だったら、レンタルCDとの比較からしても、それほど大きな負担ではないのではないでしょうか。それに、閲覧や調べるだけなら、今までどおり無料でできるわけですし。著作権が消滅している死後50年の名著は、従来どおり無料でいいわけですし。それが国民に大きな負担を与えるというなら、その分住民票謄本をとるのに一通500円とか600円とかいう”ぼったくり”をやめて欲しいですね。自分の個人情報を書いた書いた紙一枚コピーするだけで数百円というのは高いですよ。




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　公共貸与権を認め、貸し出し有料化に賛成する論拠はいくつかあります。

　理由その１は、作家はもっと報酬を貰っていいと思うからです。お金持ちなのは、一部の超人気作家くらいで、あとの大多数はいわゆる「売れない作家」としてさほど裕福な暮らしをしているとは思えません。仕事に比して、彼らはもっと報われていいと思います。これは、べつに作家に同情しているからだけではないです。日本社会は、もっと職業選択の自由をひろく享受すべきだと思うからです。

　日本では、普通の学校にいって普通にサラリーマンになる生き方以外の生き方は、非常にリスキーなものとみなされていますし、実際リスキーです。そのため、多くの人が昔の夢や希望を捨て、サラリーマンをやってたりします。サラリーマンそれ自体は悪いことではないですし、それでも充分自己実現できますし、ハッピーにもなれます。なれない人も勿論いるでしょうが、そんなのはどんな職業についたって同じです。でも、「やりたくないことをやらされている人」「やりたいことを諦めざるを得ない人」というのは、少なければ少ないほどいいと思います。作家になりたい人は、これだけリスキーなビジネスであることが知られながらも、なおも100万人単位でいるでしょう。そのうちに売れる人はごく一部。これって、一部過ぎると思うのですね。もう少し食える人の裾野を広げた方がいいと思います。そうすれば、もう少し皆さん夢や希望に生きられて、社会が明るくなるんじゃないかということです。


　理由のその２は、地道にいい本を書いてる人、いい仕事をしている人にもっと報いてあげたらいいということです。
　こういったいい仕事をしている人は沢山居ます。しかし、日本は出版王国というか王国過ぎちゃって、町の書店の棚は、まるで魚河岸の魚のようです。後でも述べますが自転車操業化しつつある昨今の出版状況では、あっという間に新しい本がゴロゴロ並び、あっという間に無くなるという。あっという間に無くなってもいい本も沢山あるとは思いますが、なくなっては惜しい本も沢山あります。でも、水揚げのときに売れないともう本屋に並べてももらえず、日の目も見ない。これはマズイです。だから図書館。でも、図書館で借りられたって、地道にいい仕事をしている人は報われません。そこで、多少なりとも一回20円であったとしても、報いてあげることは必要だと思います。




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　理由のその３は、日本はもっともっと文化的に豊かになっていいと思うからです。これが一番大きな理由です。

　これまでも日本に文化が無かったわけではありませんし、それどころか音楽も出版も点数でいけば世界でも有数な大国でしょう。一人あたりが読んだり買ったりしている書籍やCDの量は、もしかしたら世界一かもしれません。少なくともオーストラリアなんかよりは遥かに多くを消費していると思います。

　だけど、全体的にみて、文化領域に血の巡る量が相対的に少ない。なんだかんだ言ってもまだまだ経済に偏っているでしょう。それはこれまで発展途上国だったことを考えれば当然のことではあるのですが、これから先のことを考えれば、今までのように消費が爆発的に増えて経済的にガーンと成長することもないでしょう。経済的な高みを目指すのではなく、水平に、そのかわりブ厚く広がっていっていいと思います。

　でもって文化方面にはそんなにお金が廻っていません。ミリオンセラーとか見てるとすごいお金が廻ってるようですけど、ハリウッド映画の金のかけかたと、邦画のいかにも「予算苦しいんだろうなあ」画面を見てると、その差は結構ありますよね。なお、映画に関していえば、アメリカなどでは映画は国家産業ですから、警察だろうが、軍隊だろうが、ホワイトハウスだろうが、どんどん撮影に協力する文化があります。ニューヨークの大通りを全部交通遮断して撮影するなんてスゴイことが出来ます。でも、日本社会の場合、映画撮影にまだまだ冷淡ですので、カーチェイスひとつろくに出来ない。警察の道路使用許可が下りない。予算面でも、ハリウッドシステムのように巨大な集金システムがないから、どうしても桁が一つか二つ違う低予算でやらないとならない。だもんで、派手なアクションは少ないし、CGもしょぼいし、地味な心理描写系やホラー系作品が多くなるのでしょう。そしてロケをしなくても済むアニメ。金銭や社会システムの制約によって、発展すべき文化が発展しないということは、やっぱり文化方面にそれほど血が巡っていないことを意味するのではないでしょうか。

　文化というのはパトロンがないと育たない面はあります。金はいくらでもあって、生活の心配もしなくていいような環境で、人は高尚なことを考えたりするのでしょう。ギリシャやローマのように。それが、生活に追われるようになると、やっぱり一作一作でビジネス的に帳尻を合わせようとしていきます。そうなると、手っ取り早い売れセンのものを粗製濫造しましょうという傾向になりがちですし、現に日本の文化はそうなってるキライがあります。音楽でも、ここ10年に出された曲で、ビートルズみたいに30年や50年残る名曲っていったいどのくらいあるだろうか？

　ともあれ文化に関する抜本的な意識＆社会構造が変わらないと、ビジネスビジネスしちゃいますし、ビジネスにしたって、ハリウッドの巨大規模も世界戦略にもならないし、ローリングストーンズ的なマネジメントにもならず、「流行ってるから、これいきましょう」的なものになりがちだったりします。もちろん、イイモノを作ってる人、イイモノを楽しんでる人は日本に沢山おられます。ただ、こうも商業が近視眼的でサイクルが早くなってくると、ごくごく一握りのアーチストだけが巨額に売れて、あとの圧倒的大多数は生活が苦しいというか、成り立たないという具合になりがち。文化的に豊かというのは、それほど売れないアーチストでもそこそこ食べていけるような社会をいうのだと思います。

　意識構造ですけど、意識構造をはかるバロメーターは、たとえば結婚式の席次なんかがそうでしょう。披露宴の招待客に、政府の大臣クラス、住友商事の重役クラスや高級官僚がきており、一方ではダウンタウンとか村上春樹などが来席していたいた場合、僕の価値観では、ダウンタウンは少なくとも彼らと同じかそれ以上の上席に座ってていいと思います。でも、間違ってもそうはならないでしょ？どうしたって、お上とか有名企業がエラいと思われがちです。

　日本でカルチャーが大手を振って歩けるのは、いわゆる権威とドッキングした場合だけです。人間国宝になるとか、文化勲章貰うとか、芸大の教授であるとか。いわゆる「お芸術」ですよね。大体、芸大でロック教えてないですよね。なんでよ？スティーブ・ヴァイという天才ロックギタリストがいるけど、彼はバークレー音楽院で教えてたりしたのに。「文化は大事」とか口では言うけど、やっぱり平均的な日本人はそんなに大事に思ってないんじゃないかな。銀行だって、お金貸さないし。映画の撮影のために、産業道路を閉鎖しましょうとは言わない。だから、なんだかんだいってまだまだ経済優先だし、経済優先でバリバリ働かないとやっていけないと思う程度にビンボーだということでしょう。




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　これもですね、悪循環だと思うのですね。文化的に豊かだったら、そんなにお金はいらないって面もあると思うのですよ。ロンドンなんかでよくある風景だというけど、そこらへんの八百屋のオバチャンが、オペラだけは欠かさず見続けているとか。もう生活に密着して当たり前に存在しているという。僕はオペラはよくわからないけど、あれもハマったら深い感動を与えるのでしょう。でもって、それをコンスタントを楽しんでいられる生活は、そう悪い生活だとも思えないのですね。そういう部分で生活や心が豊かになれば、ゆとりも出来るし、強迫観念にかられてモノ買いまくったりしなくてもいいのではないかと。だからアクセクしなくてもよくなり、また文化的造詣は深まる、と。それに文化にかける金なんか高いようで知れてますよ。コンサートでも、１万とか２万円とか高いようですけどね、でもブランド品買いあさったり、ハシゴ酒やってること考えたら安いですよ。

　だから何と言うのかな、それほど生活水準が高いとはいえない庶民でも、つまりは僕らのような人間がですね、リーズナブルに、コンスタントに、それなりにグレードの高い文化を日常的に接せられるようになればいいな、ということです。そうでないと、ほんと、ガキンチョ・マーケティング文化しか栄えない。でもって、そういう底の浅いものって、ある程度の年がいってきたら、しょーもないのがモロに見えてしまったりするのですよね。昨今音楽業界が深刻な不況だといいますけど、自業自得って側面はあると思いますよ。ロッキンオンJAPANは、こっちきてからも送ってもらってるからもう10年以上読んでるけど、ここ数年はっきり質が落ちてると思うもん。「こいつの音が聞きたいな」と思わせるミュージシャンが少なくなったもん。それはインタビューなんかでも言ってることの程度が下がってるし。昔は、「むむ、なるほどー」と唸らせるようなこと言ってた人が多かったけどね。それにライターの文章もぱっとしないです。前は思わずパクリたくなるような新鮮な表現が結構あったけど、最近は最後まで読めるものが少なくなってる。音もデジタル処理で誤魔化してるのがあまりにも多すぎるように思います。




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　一番大事なのは、どんどん裾野を広げていくことでしょう。マーケに乗せられて、ミリオンセラーだけを消費している「アホな大衆」的な消費者ではなく、もう小学生くらいからガンガン自分の好きな領域を開拓していっったらいいと。ボサノバ大好きな小学生や、シャンソン歌ってる小学生とかね。そのへんの中学校もブラバンと軽音楽部だけではなく、民族音楽部があるとか、インドネシアのガムランやってるガムラン部があって全国大会があるくらいになっていいと思うのですよ。

　小学生レベルで源氏物語を原文で全巻読破してるヤツとか、夏休みの自由研究で「セザンヌの造形性は後期印象派にどのような影響をあたえたか」なんてレポートを書いてる小学生がいてもいいじゃないですか。僕も小学生の頃を覚えてますが、10歳前後になったらそのくらいわかるよ。勿論完全にわかりはしないけど、なんとなく興味を引かれたり、ピンときたりすることは充分ありえます。

　このように子供の頃から右を見ても左を向いても、古今東西の名作にゴロゴロぶち当たるような環境が当たり前のようにあったらいいと思います。というか、子供の頃から、押し付けられるのではなく（←ココ大事）、ごく普通にナニゲに文化があるってのがキモなんでしょう。そういう環境で育った子供達は、当然鑑識眼も深くなりますし、人生に文化はなくてはならないものになるでしょう。それが、後々の優秀な文化消費者を生み、官僚やビジネスマンになっても優れた文化保護者になるのだと思います。「文化、文化」と掛け声かけてる僕のようなヤツは「頑張って」名作を鑑賞するから疲れちゃって続かないのだけど、水や空気のように名作を消化できる人がもっと沢山出てきたらいいと思います。こうやって裾野が広がっていけば、「一部だけミリオン、あとは皆貧乏」という極端なパターンも是正されると思うのですね。

　で、話は公共貸与権に戻りますが、だから皆さんもっと文化に金を使いましょうということです。それも、マーケバリバリのミリオンセラーを買うのではなく、もっと地味だけどイイモノを鑑賞し、地味だけどイイモノを作ってる人達の生活が成り立つような方向にいきましょうということです。図書館の貸し出しを有料化すれば、直ちに文化的に成熟するなんて直線的に物事が進むとは思わないけど、マーケティング＆商業主義と公的補助金以外のルートで、文化エリアにお金が還流していくシステムを作っていくことを考えた方がいいということです。




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　理由の第４ですが、公共貸与権を認めて多少のお金を取った方が、借りるほうも真剣になるし、気持ちが引き締まっていいような気もします。そんなに一冊300円とか500円とか高すぎたらダメですよ。だから100円とか20円とかそのくらいです。これだったらそれほどキツくはないでしょうし、一方ではチリも積もればで作家の皆さんに還元らしきものはいきます。何より文化領域に集まる血（お金）の量が増えます。他方では、小額とは言えどもお金を払うとなったら、勿体無いから全部読もうという気にもなるでしょうし、本もマジメに選ぶようになるでしょう。無料は確かに素晴らしいとは思うのですが、反面真剣味がなくなるし、借りるだけ借りて全然読まないなんてやつも出てくる。レンタルビデオ300円、駐車場１時間500円を考えたら一冊100円くらい払いなさい、と。

　でもって、子供達の関係で言えば、義務教育年限までは無償という例外を作れば済む話です。生活に困窮している人の場合は、それなりのパスを用意すればいいです。もっとも今の日本でプライドを傷つけないようにそういった福祉系のパスを出すのは難しいのですが、それはまた別の問題です。今の老人はお金持ってるから、老人というだけで無料にはしません。

　なお、子供を無料化すると、子供をダシにして自分が読みたい本を借りる親が出てきたりしてズルイという声もあるかと思います。この点は、以前にキセルや性善説の項で述べたことが妥当するでしょう。そういうセコい事例にいちいちとやかく言わない。セコい連中に合わせて、システムをセコくすると、全体に本当にセコくなってしまって、いい雰囲気が消えてしまうわけで、そちらの方が問題だと僕は思います。そういうセコいことをするかどうかは、すぐれて個々人のプライドの問題だと正面切って問うた方がいいと思います。

　なお、有料化によって足が図書館ブームの火が消えて、人々の足が遠のくようなことがあったとするなら、それって結局日本人の文化度というのはその程度のモノでしかなかったということでしょう。僕は日本人のポテンシャルを信じてますから、20-100円程度の有料化では客足はそんなに落ちないと思います。少なくとも試してみる価値はあると思います。試しもしないで、「どうせ日本人はこの程度の民族だから」と進んで自己評価を下げることも無いんじゃないかと思ったりもします。まあ、これは気楽な第三者の気楽な発言なんだとは思いますけど。




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　理由のその5は、図書館に自主財源をもたらし、より活性化させたいということです。新刊本100円取ったら、半分なり30％なりは図書館に「ショバ代」で渡していいと思います。

　図書館というのは、地域の文化拠点としてもっともっと発展する可能性を秘めています。それは本を貸すだけではなく、勉強の場でもあり、あるいは文化的催し物や、出会いの場ともなりえます。それらの可能性を伸ばすためには、各自治体の予算によって全てが決まってしまうのも問題であり、自主財源を確保させ、半分自主運営できるくらいでもいいと思います。だからもっとガンガン儲けていいと思います。

　そしてもっともっと多角経営してもいいし、どうかしたら株式会社化させる道があってもいいくらいに思ってます。そうそう、図書館が一般市民から献本を受けたり、買い取ったりするシステムがあってもいいと思います。





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　最後に言いたいのが、公共貸与権を認めるにしても、出版不況だから出版社の財源確保のためだけに認めるわけではないということです。

　出版業界の不況は、どうも思っていたよりもかなり深刻なようで、戦後一貫して「不況に強い出版」ということで順調に推移してきたのに、97年からぱたっと売れなくなり、前年割れを続けてきているようです。売れなくなると売上を確保するため新刊点数を増やしてしのごうとするから、新刊本がバカバカ出てくることになり、また売り場面積を確保するために大量に刷って大量に配本という、非常に目まぐるしい傾向になっていってるようですね。自転車操業化です。それでまた自分で自分の首をしめる結果になってるという。

　本が売れなくなった原因はいろいろあるのだと思います。図書館もその一つなのでしょうし、古本屋チェーンなんかもその一つでしょう。インターネットなどのライバルの出現もそうなのでしょう。僕もこの業界には疎いのでなんともいえないのですが、イチ消費者の目からみると、音楽業界と同じ悪循環があるように思います。つまり、売れない→売ろうと思って焦って、近視眼的な売れセンに走る→�@必然的に底の浅いものを粗製濫造することになり消費者が愛想を尽かしはじめた　and 　�Aそういう浅薄なモノに囲まれてるからよけい優秀な消費者を育てることに失敗している、のではないかな、と。

　個人的な実感で言えば、読みたい本が少なくなったという気はします。ずっと前に日本に帰ったとき、ここを先途と本を買いまくったろうと本屋に乗り込んでいったことがありますが、2時間くらいかけてかなり必死に探したのですが、ついに「むむ、これはじっくり読みたい」という本が見当たらなかったです。なんというのか、一冊あたりの情報量と情報の深さが物足りないというか、目次みてパラパラとめくったら大体わかってしまうという感じで。こういう言い方は失礼なんでしょうけど、なんか思いつきで本を書いてるんじゃないか？ってな感覚も受けました。長年の研究の集大成みたいな、いい仕事してるなと、ズシッとくるものが少なかった（というか見つからなかった）のが記憶に新しいです。

　あと一番の原因は皆があんまり本を読まなくなったんじゃないか？ってことなんでしょうね。直感的な意見ですし、僕は活字中毒派ですから視座としては偏ってるかもしれないけど、でもねー、僕らの世代も含めて、皆さん読んでないんじゃないですか？日本の30代〜50代って、ブンガク読んでないでしょう？本当はこのくらいの年になってはじめて名作と四つに組んで鑑賞できると思うのだけど、40過ぎてからドストエフスキー読み始めた人って少ないと思います。もっとも、図書館利用者は増えているから、単純にベタ減りしてるわけでもないのでしょうけど。

　あと、やっぱり本は高いですよね。新刊本で1500円前後したりしますから、３冊買ったらもう5000円近くいきます。まあ、オーストラリアの新刊本の高さからしたら、それでも日本は全然リーズナブルだと思いますけどね。図書館で借りたくなる気持ちはわかります。僕もこれまでの生きてきて読んだ本の過半数は、図書館やら古本屋でゲットしてきましたから。

　そうそう余談ですが、CDは絶対安くすべきだと思いますよ。3000円高いです。文化とか好みとかいうのは、試行錯誤しないと生まれてこないですから、片端から聴いていくのがいいんだと思います。でも3000円だったら、よほど確信持てるCDでないと買う気が起きないです。本当いったら、一枚500円くらいでもいいんじゃないかと。これだったらもっと皆「気になってるけど高いから買わないCD」をジャカスカ買うし、それで気に入ったらどんどんまた広がるし、で結局儲かるんじゃないかなという気もするのですけど。少なくとも、本の立ち読みのように、全てのCDについて視聴できるようにして欲しいです。




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　結局なんで本が売れないの？という原因は、僕にはよくわからないです。ただ、売れないから図書館からお金を取って帳尻を合わせましょうというのは安直だと思います。公共貸与権は、出版業界が不況だろうが好景気だろうが関係なく認められるべきだと思うからです。その理由は前述のとおり。

　出版不況をどうする？問題は、僕は出版業界人ではないから考えなければならない義務はないのですが、しかしですね、オイルショックもバブル破裂も関係なく、戦後一貫して97年まで好景気だったという出版業界の方が異常といえば異常なのではないでしょうか。どんな業界だって時代の変化に対応するべく調整期間としての不況はあります。だから、不況があるということは異常というよりはむしろ正常ですらあるのでしょう。

　かつての炭坑のように新エネルギーが開発されたのでお役御免になって衰退していった産業に比べ、出版は消えることはないと思います。よく電子ブックや、ニューメディアによって本の存在価値がなくなるとかいう指摘もありますが、僕はそうは思わない。電子ブック、読みにくいもん。本は寝転がって読めるからいいのであって、背筋を伸ばして画面をずっと見ていなければならない電子ブックはツライです。楽しくない。それに、本は本独特のモノとしての価値があります。それは装丁であったり、インクの匂いであったり。それがまたイイわけですから、そんなに衰退するとは思いがたいです。

　やっぱり地道にリストラ（首切りの意味ではなく、本当の意味での再構築）するしかないんだろうなーと思います。新古書店をパラサイト呼ばわりして批判するくらいだったら、自分らでも新古書店を経営しちゃえばいいと思いますよ。版元が本気になったら強いでしょう。どうせ返品率40％とかいってるくらいだから、いくらでも在庫はあるわけだし、郊外に体育館３個分くらいの超巨大な店舗を作って、過去の返本分（本としては新品）を10分の1くらいの値段で売ってもいいわけでしょ。なんせ、最近は回転が速すぎて、読みたい本もあっという間に書店から消えますから、それをストックしておいてくれる書店は貴重ですよ。

　再販価格制度もいい加減見直したらいいと思います。オーストラリアでは再販価格制度がないから、本の安売店も沢山ありますし、本屋はそれぞれに特徴を出してバーゲンをやったり、特集をやったりできます。もっと個々の書店に経営の裁量の幅を広げてあげたらいいんじゃないかと素人考えでは思ったりします。

　あと、図書館が流行る理由でネットで誰かが書いてましたが、いちいち買ってたら本の置き場がなくなるのですね。これは僕もバカスカ買ってるクチだったので分かります。もう置ききれないですよ。特に日本の住宅事情では、じゃあ地下室に20畳くらいの書庫を作りましょうなんてわけにはいかない。それに、前述のように買って一読してそれでオシマイという底が浅い本が多いから、そんなのを置いておくのも無駄っぽいんですね。だったら捨てればいいと思うけど、本って捨てにくい。昔みたいに古紙回収業者さんもこなくなってしまったし。だったら、借りましょうということだと思うのですね。

　出版社も、自転車操業してサイクル早めるのでしたら、「読み終わったあと」のことも考えて、新古書店を自分らでやるなり、リサイクル会社を設立するなり、本の還流に積極的にかかわっていけば良いのではないかと思います。もっとも日本の出版社は圧倒的に社員10人以下の零細企業が多いし、経営基盤もそう安定してるわけではないから、大事業はやりにくいでしょうけど、それでも業界全体でやるとか方法はあると思います。




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　ただ、いずれにせよ、抜本的に必要なのは裾野を広げることでしょう。優秀な消費者を広げることだと思います。つまりは本の喜びを知ってる人間を増やすことですね。図書館がガンガン伸びていけば、それだけ本を楽しむ人の裾野が広がるでしょうし、本当に好きな本は手元に置いておきたいものです。

　だからその意味では、図書館に噛み付くような近視眼的なことをしてないで、図書館が先遣隊となって潜在需要を開拓し、出版社がそれを刈り取るという形になってもいいように思います。僕がまさにそうでしたしね。金のないときは、図書館と古本屋のお世話になって、お金がはいるようになったらドカドカと新刊を買いましたし。僕は結構上得意客だったと思いますが、僕を育てたのは図書館です。


　ところで話は全然方向性が違うのですが、公共貸与権の話を聴いたとき、このあいだのキセル防止システムと似たようなものを感じました。なんというか、抜本的に改革していくべきなのに、小手先のセコい方策で頑張ってしまうという。なんなんでしょうねえ、この感覚。これはJRの不愉快な経営にもいえます。なにかというと、回数券乗車券はゴールデンウィークや年末年始には使えませんとかいうアレです。あるいは、在来線との接続ダイヤを調整して、わざと新幹線の、それも高いヤツに乗らないとならないように仕向けるとか。NTTの番号案内が無料だったのがいつしか50円とるようになってるとか。NHKの受信料もしかり。リストラやってる会社で、トイレットペーパーは一回30センチとかやってることであったりとか。なんで、こう、セコい方向へ、セコい方向へといくわけ？もっと抜本的にやることあるでしょうが？と思うのでした。

　出版不況なり、日本の出版状況ひいては文化状況は、出版社が図書館から僅かなお金を取ってそれでなんとかなるようなものではないと思います。



写真・文：田村
写真は、Bankstownのショッピングセンター