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今週の一枚(2013/11/25)




Essay 646:秘密保護法について

 写真は、シドニー大学の近く。
 場所がどうとかいうよりも、たまたま写っているこのお姉さんがカッコいいです。絵になってる。
 取り壊し予定なのか鉄条網で仕切られて微妙に廃墟感のただよう建物(右)と青空の下、真紅に染めたボブカットに、手には(わかりにくいけど)リッターサイズのペットボトルを鷲掴みにして、背筋をシャンと伸ばして悠然と闊歩する姿が、遠目からでも"going my way"オーラが出てます。でも、これ、一人で歩いているから絵になるんだろうな。



 同じシリーズが延々続いたので、今回はタイムリーなネタで秘密保護法について書きます。明日衆院を通過するとかいってるし、論者によっては歴史のターニングポイントになるとかいうし、「その日」を迎えるにあたって。


 本当はこんな冗談みたいな法律についてはあんまり言及する気はなかったです。誰もが論じているし、あまりにもわかりやすく悪法だし、また憲法96条改正のように観測気球飛ばしてウダウダやってるうちに尻すぼみになるかとも思ってました。それよりはESSAY 637でちらっと紹介した「放射性物質汚染対処特措法」の「国民の除染義務」みたいに、意外と語られないけどふざけたことを書いている法律を紹介する方が先だろうと。

 ところが、もうちょっと粘って存在感をアピールをするだろうと思っていた「みんなの党」も「維新」も、「修正」とは名ばかりの、これまた冗談のようなスルーをしちゃいました。すごいです。自陣ゴールの前にデフェンスが二人いるから、もうちょい働くだろうと思ったら、敵と一緒になってパスを通してセンタリングやってるような感じだもん。そんなこんなで、強行採決すれば、いよいよ来週、てか明日にも衆議院通過ってことになって、「おいおい冗談じゃないぞ」って感じになってます。世間的にもそうで、先週に「みんな」がパスを通したあたりから、全国各地であれこれ反対集会が開かれたり、反対声明が続々と出されている。マスコミでどれだけ報道されているのかわからないのですが、似たような思い=「おいおいちょっと待てよ」という人も多いのでしょう。

 秘密保護法の何が問題なのか、既にネットのあちこちで解説があって今更感もありますが、整理のために書いてみます。

秘密保護法の内容と問題点

「曖昧」でなにが悪いのか

 まず、問題点の根源である「曖昧さ」「曖昧だとなんで悪いのか?」について書きます。これは秘密保護法に限らず広く応用がきくので覚えておいて損はないです。

 法律というのは国民を律するのと同時に、それ以上に国家を律します。むしろ国家の手足を縛るために法律があるといってもいいくらいです。なぜか?国家は最強だからです。他人を拉致ったり、監禁したり、家に上がり込んで物を持っていったり、殺すこと、これらは言うまでもなく犯罪です。やったら処罰されます。が、堂々と許されている存在がこの世にたった一つだけあります。それが国家です。逮捕、勾留、家宅捜索押収、収監、そして死刑。全て合法に出来る。どんなマフィアも国家そのものには叶わない。

 この強大な力を、気まぐれに使われたら周囲の人々(僕ら国民)はたまったもんじゃないです。ゴジラと一緒に寝泊まりしているみたいなもので、なんだか分からないけどゴジラがいきなり暴れだしたら、人は死ぬわ、念願のマイホームがペシャっと押しつぶされてしまう。やってらんないです。台風や地震はゴジラ同様ですが、あれは天災だからどうしようもないけど、自分たちで作った人造ゴジラについては、しっかりコントロールできるようにセッテイングするでしょう。国家というのは原発何百基分以上にパワフルです。なんせ原発を作ることもできるし、事故ったり、影響の情報を操作することもできる。だから原発に安全装置やセキュリティを万全にするように、国家にも安全装置をしっかりかけておかねばならない。その安全装置が法律です。

 安全装置をかけるためには、「こういう場合にはこう動く」「ここまでは大丈夫で、絶対に作動しない」って国家権力のON/OFFをメチャクチャ明瞭にしておく必要があります。制限速度50キロと決められている道路を50キロ以下で走っているかぎり、速度違反では罰せられないこと、それが絶対&安定的になっているからこそ、安心して車を運転できる。これが、「”すごく早く”走っちゃダメ」という曖昧なことにすると、現場のお巡りさんの主観で「お前、”すごく早い”ぞ」と決めることになる。「いや”すごく早く”ないですよ」と主張して裁判になっても、今度は裁判官が「いや、”すごく早かった”」と認定したらそれで有罪、人生ロスト。こんなのおっかなくてやってらんないです。だから「曖昧」なのはダメよ、と。

 これを難しくいうと、予測可能性とか法的安定性とかいいます。法学部に入ったらまっ先にやらされる「罪刑法定主義」ってやつですね。そもそも曖昧でよかったら刑法なんかうだうだ○○罪とか並べなくて、「悪いコトしたらお仕置きよ」という一行で足りるはずです。マキャベリの君主論だったかな、君主が絶対的な権力を維持したかったら、気まぐれに下のものを処罰すれば良いと書いてあるとか。なんの法則性もわからないから皆ビビる。分からなければわからないほどビビる。これを「萎縮効果」といいます。

 第二に刑罰の不遡及というのがあります。簡単にいえば「後出しジャンケンはダメ」ということです。例えば公衆の面前で鼻をかむとか何でもいいんですけど、特に決まりはなく自由にやっていた。それをある日突然法律が決まって、はい、これから人前で鼻をかんだ人は罰金ですと将来的に決めるならまだしも、過去にこれまで鼻をかんだ人は全員罰せられるとするのはダメ。タイムマシンで過去に遡(さかのぼ)って法律を適用しようとすること=「遡及(そきゅう)」といいますが、刑罰に関してはそれは絶対にダメ。後になってから、キミは3年前に人前で鼻をかんだね、防犯カメラに写ってるよ、はい死刑ね、ってのはナシよと。

 第三に手続の適正です。仮に捕まって処罰されるにしても、捕まってから処罰されるまでのプロセスが、全てキチンと定められており、且つその内容が公正透明でないとならないという原則。そりゃそうですよね。テキトーに捕まえて、テキトーに調べて、はい有罪、一丁上がり〜じゃ困りますから。法定手続の保障、デュープロセスです。

 これらは法律に限らず、スポーツのルールやサークルの規約にも共通する一般原則です。ルールが曖昧だとモメるし、後出しジャンケンしたらもっとモメるし、手続がいい加減だったらこれもモメますよね。そして、あらゆるルールの中でも特に国家の「法律」、その中でもダイレクトに人の人生を軽く叩き壊せるだけのパワーを持っている刑法(罰則)系については、くれぐれも「厳重取扱注意!」指定になる。劇薬なんだから慎重にやらなあかんよってことで、罪刑法定主義ってのが言われたのですね。誰でも思いつくことで、封建社会から近代社会に移り変わり、憲法とか近代国家とか人権宣言とか出てくるその揺籃期、かなり最初の頃から言われている。てか、それ以前のマグナカルタ(1215年=日本の鎌倉時代)から言われている。現在の日本の憲法では31〜39条に細かく定めています。

 実際、人類史をみてても暗黒時代はほとんどコレで、王様の気分ひとつで人々が殺され、木っ端役人のさじ加減ひとつで庶民が泣く。魔女狩りなんてのもその一例かもしれない。学校や職場のイジメでもそうですが、「気分」一つで物事が動くことくらい怖いものはない。もう戦々恐々とするしかない。しかもビビってしまうから、それを正しく直そうとすることも出来ない(やろうとした途端やられてしまうから)。スターリン時代のソ連で2000万人が殺されたというのも、一旦恐怖システムが発動してしまったら、もう止めようがないって怖さを示してます。

秘密保護法のツッコミどころ

 翻って今回の秘密保護法をみると、もう「つっこんで〜♪」って言わんばかりに、ツッコミどころ満載です。
 詳しい法的な問題点は、日弁連が簡単な解説をしてますし、もっと専門的に歯ごたえのある論理的説明が欲しければ「特定秘密保護法の制定に反対する刑事法研究者の声明」がスッキリまとまってました。ほかにも沢山あるでしょう。

 この法律は、一言でいえば「スパイやっちゃダメよ法案」で、「スパイをすること」が規制の対象になる。それだけだったら別にそんなに異論はないんです。しかし、具体的に「スパイ活動ってなに?」と考えていくと、その範囲は幾らでも広げられる。僕らのイメージでは、007やミッション・インポッシブル or ルパン三世みたいに、厳重にガードされた政府や軍隊の奥の院に忍び込んで、秘密資料をマイクロフィルムでこっそり撮影するような30年前のイメージですけど、それがダメだというのは分かる。それだけしか罰しないよと明確に言ってくれたら、誰もそんなに反対はせんでしょう。ところがこの法律、めっちゃくちゃ概念が広いです。てか事実上制約がなくて、後述するように「生きて生活することすべて」にまで広がっていってしまいかねない。

 問題点は二本立てになっていて、@特定秘密の概念、A秘密取扱者です。
 @は、何らかの国家機密を非合法に知ろうとしたり(盗聴器をつけたりとか)、それを国外に流出したりとか(本国や国際ブラックマーケットに売るとか)をもっぱら想定しているんでしょうけど、だったらそう書けばいいものを、ここが死ぬほど曖昧。皆が指摘している「特定秘密」の曖昧性です。一応『「防衛」「外交」「特定有害活動の防止」「テロリズムの防止」に関する情報』ってなってるんだけど、これってなんとでも言えるんですよね。自衛隊の航空ショーの写真を取るのも違法なのか、友達に自衛隊員がいて、最近皆救助活動で疲れてると言っていた、大変な仕事なんだなあって思ったと素朴にブログに書いてもあかんのか。さらに「テロ防止」系。なんでもテロの対象になりますから、なんでも入る。新宿駅の朝の状況を書くだけでもテロ対象可能性の状況になりうるだろうし、原発とか放射能で皆がどれだけ心配しているかについて口にだすだけでも、テロ対象の情報になりうる。

 極端な話、朝の番組のお天気お兄さんが、「はい、こちら仙台では快晴でーす」というのも気象情報の漏洩になるんじゃないかとか、最近株高でおじいちゃんも買ってましたとかいえば経済テロの時期選定のための一情報といえなくもない。だから生きて生活していること全てが入ってくる。

 そこで当然のように、こんなもん秘密でもなんでもないやないか!そもそも「秘密」って何なのさ?何が「特定秘密」なのさ?という疑問がでてきます。

 そして、ここが最大に笑えるところですけど「それはヒミツです」という。
 分からないのですね。「特定秘密」の内容を、予め誰でもわかるように「これだけだよ」と、ものすごーく厳格に限定してくれたら分かるけど(「内閣閣僚の全員の署名があり天皇の御璽が押印されている書類」とか)、この法律では具体的には一切決めてなくて、「各行政機関の長」がその都度決めることにしている。で、決めたことを一般市民に「これが秘密ですからよろしく」と一般広報するかというと、ここが調べたけどよく分からなかったところですが、まあしないでしょう。それをやったら「ここに秘密があります」と大々的に教えるようなものだから。

 ということは、僕らが何かをする場合、それが「特定秘密」という地雷を踏んでるかどうかすら、その時点ではよく分からんということですよね。めっちゃ怖いやん。事実上の後出しジャンケンです。当局にとって目障りな存在になってきたら、「はい地雷踏んでましたね、逮捕します」って持っていかれることも、可能性としてはある。刑罰不遡及の原則に反する。

 百歩譲って仮に事前に明確にわかるようにしたとしても、お役所のやり方としては曖昧に書くでしょう。つまりあれこれ列挙した挙句、最後に「その他これに関連する事項」って絶対に入れるに決まってる。事前に予想がつかないときはそう書くしかないし、僕らも契約書の起案なんかではそう書くんだけど、「関連する事項」と言った時点で、もう決定的にダム崩壊ですわ。「関連する」って言い切られたら終わり。やっぱ事実上のなんでもアリに出来る。ちなみに秘密指定をする「行政機関の長」って誰よ?というと細々法律の引用があるけど、それぞれに「その他政令で指定する」が入るので、その都度お役所が決めたら良いということになる(「政令」は法律と異なり、国会を通さなくても行政の一存で決められる)。


 以上をかいつまんでいえば、国や行政当局がその気になったら、なーんも教えないことが出来る。それどころか、それを知ろうとしたり、語ったりしたりすることを処罰することも出来る。ここで立派な政治家の皆さんと、立派な官僚の皆さんだったら間違って悪用したりはしないでしょうが、さて、そこまで政治家や官僚を信じられるか?ってことです。それはあなたの価値観や世界観によるでしょう。でも、法律というのは、基本的に人を信じないところから始まっているので(「悪い人がいる」ということを前提にするからこそ刑法がある)、人情的には信じたくても、テクニカルには信じたらあかんでしょう。

 より具体的に考えてみると、行政とか政治に対する批判や不満は封じこめられてしまう。未来予知に関わることだから絶対そうなるとは断言できないけど、ベクトルとしてはそうなる。抽象的に政府が悪いとか、官僚がシロアリだとか文句を言うのはいいかもしれないけど、そんなこと百万年言ってたって世の中変わらない。だから具体的に、なんの案件のどの部分がダメとか批判しないと話が進まない。その場合、さらに詳細で具体的な資料や証拠がないと鋭い追及が出来ない。例えば汚職や癒着を批判するには、○年○月○日の書類によれば○だけど、これに相反する領収書があり、しかも同日付で金額が異なる領収書が2枚もある、これは裏勘定ではないのか?などと個別にキツイつっこみをいれていかないと、のらりくらり逃げられるだけ。

 要するに、行政のあり方を正そうとしたら、詳細で正しい情報が必要であり、それをゲットする行為=スパイ的なことをしないと無理だってことです。

 翻っていえば、そもそもそれって「スパイ」なの?ということです。皆の税金使ってやってるんだから、基本的に全面公開して皆に伝えるのが原則であるはずで、なんでそれがスパイ呼ばわりされなあかんのよ?って。いわば上司が部下の仕事の進捗状況をチェックするようなものであり、それがなんで「スパイ」なの?。スジ論でいえば、公的情報は全面公開が原則で、情報公開法でもなんでもそれを前提にしている。ところがこの法律を最大限悪用すれば、原則と例外がひっくり返り、全部秘密が原則で、教えなくても良いことにされる。それどころか、それを知りたがったり、知ってる人がそれを誰かに伝えるだけでも厳罰(最高懲役10年以下)に処される。

 これは為政者としては極楽のような法律です。どんなにミスっても、どんなに悪いことをしても、「それは秘密です」っていえばいいんだもんね。噂されるところによると、特定秘密に指定される予定の情報は現在40万件あるとかないとか。正確に根拠を調べると、どうも、共同通信とのインタビューで担当の礒崎陽輔・首相補佐官が2007年に政府が作った「特別管理秘密」の件数をあげながら、これを「特定秘密」に横滑りさせるとして、当初指定の「特定秘密」を約40万件と示唆し、これを各メディアが報じたらしいです(という出典はココ)。しかし40万件というのも凄い数字で、なんでそんなにあるの?そんなに日本に秘密があるの?なにがそんなに秘密なのか教えてほしいくらいですが、要は、あんまり公開する気はないってことなんでしょうね。

 でもって、これは政治家にとっても諸刃の剣でしょう。今の政治状況だったら、いつ自分が野党になるか分からんし、あるいは与党で行政改革やろうと思えばいろいろデーターを収集しなきゃいけない。「秘密ですのでお答えできません」とか言われちゃうかもしれないし。てか、官僚って最初からとぼけるけどね。薬害エイズでも、当時の菅厚生大臣がドカンと一喝したから「見つかりました」で重要な資料が出てきたということからも、大臣にも言わないで勝手に秘密指定、秘密指定してけばいいんだから、結局は官僚天国でしょう。

 第二に、「秘密を取り扱う人」のプライバシーです。内部に裏切り者がいて、こいつが内部情報を漏らしたら困るから、信用できる人かどうかを調査しましょうってことです。「適性評価制度」っていわれてます。趣旨はわかるんだけど、上で述べたように特定秘密の範囲がアメーバーのように広がっていけば、なんぼでも広がる。原発がテロ対象になるから、その設計者か保守責任者が対象になるのはまだわかるとしても、現場の保守作業員、下請け孫請けそのまた下の第八次下請といわれるくらい多段階でやってるんだから、そのへんのバイトのお兄ちゃんもそうなりうる。また被災地の関連のNPOやってて、行政と適切な連携をとろうとしてたら、それも入ってくるかも。なんせ何が秘密なのかヒミツなんだから、分からんのでですよね。で、事実上の後出しジャンケンありでしょう?

 そして、「取り扱い者」と思われたら(その指定基準も手続も曖昧)、その人の適性を調べるためにありとあらゆる背景事情を調べるでしょう、家族関係はもとより、銀行の入出金、ネットへのアクセス、その気になればメールや携帯の履歴や内容。交友関係も調べるという名目でクモの巣状に広げられるから、これもその気になったら一人残らず調べられる。今でも公安とかインテリジェンス(諜報機関)はそのくらいやるし、警察の捜査でもやります。もっとも刑事警察は、なんか犯罪があったときにあれこれ調べるだけだけだし、日常的に監視する公安警察はこっそりやるし、スタッフ人数の制約もあって限定的だった。ところが、堂々と「スパイ防止」という名目で出来るんだったら、とめどがなくなる。そして、今のネットやオンライン時代くらい、調べやすい状況もない。映画や刑事ドラマで出てくるように、防犯カメラや道路のNシステムで24時間けっこうな精度でフォローされちゃう。しかも先日マイナンバー制度もしれっと通過させているし。

 一般に情報をめぐっての官民の戦いというのは、情報公開を迫る市民が攻めて、政官界がひた隠しにして防衛するという構図で、それは情報公開法やオンブズマン制度という土俵でやってました。でも、秘密保護法は攻守を変えて、政官界は「ヒ・ミ・ツ」という魔法の呪文を唱えたら鉄壁の守りが出来るのみか、積極的に市民側に攻勢をしかけられる。知りたがるだけで罪、語るだけで罪、なにもしてなくてもプライバシを調べることができる(いざというときに色々使えるのは言うまでもない)。


 しっかし、まあ、これだけツッコミどころ満載の法律も珍しいというか、そもそも近代・現代の「法律」としての体をなしていないというか、存在自体がジョークみたいなものなのですが、だから憲法改正みたいに「言ってるだけ」で終わるのかなと思ってました。

 それを何をトチ狂ったのか、いきなり上程。しかも有識者会議でも議事録が作成されず、資料や討議内容も秘密。内閣官房情報調査室が行った立案作業は、最初から最後まで全部秘密。同じ自民党内の議員ですら知らせてもらってない人がいる。パブリックコメントは普通1ヶ月なのに、なぜかこれは2週間(それでも9万件集って、8割反対だったそうな)。パブコメでも法文自体が示されず、さらに説明自体がわかりにくい。でもって、この臨時国会に上程し、「言ってみただけ」になるかと思いきや、まさかの「みんなの党」のヘナチョコ妥協(ヒミツ指定には内閣総理大臣も関与するだけ)、維新も第三者機関で言質を取ったと誇らしげですが、でも附則に「設置を"検討"する」だけという官僚独特のリップサービスでしかないし、逆に原則30年を60年に伸ばしているんだから、これって修正なんだか、改悪なんだか、です。

でも、なんで?背景事情の憶測

 でも、なんでこんな法案を、こんなに拙速にやろうとするのだろう?それが一番ミステリーです。ちょっと考えてみます。

現行法でも秘密保護規定はちゃんとあるし機能している

 まず、冷静に考えてみて、こんな法律要るの?と。
 形式論的にいうと、こんな法律作らなくたって、現行法に以下の規定があります。
 国家公務員法第百条一項:職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。

 これでいいじゃん。109条にはちゃんと罰則規定もある。それは確かに現行法は懲役1年以下で、秘密保護法での懲役10年にすれば10倍重くなりますよ。でも、安定性イノチの公務員さんが、懲役1年だったら情報漏洩をして、懲役10年だったらしないというものでもないでしょう。

 この種の守秘義務規定はいろいろな法律にありますし(弁護士法や医師法など)、個人データーの流出に関しては官民を問わず、また法律の有無を問わず、世間で厳しく指弾されています。これ以上なにがいるのか?というのが根本的疑問。ちなみに、とある法律判例の全文検索というサイトで「守秘義務違反」で検索すると以下のように興味深い事例がど〜っと出てきます。世間ではこんなにもあるという。

 ちなみに、国家公務員法の定める「秘密」とは何かについては、最高裁判例(最高裁第二小法廷決定昭和52年12月19日)は、国家公務員法第100条第1項に規定する「秘密」とは「国家機関が単にある事項につき形式的に秘扱の指定をしただけでは足りず、右「秘密」とは、非公知の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるものをいう」としており、いわゆる「実質秘」説に立っています。妥当な見解だと思う。

 だからこれでいいじゃん。これ以上何をしたいの?と。

外国人処罰規定がない

 実質論で言えばこの点も指摘すべきでしょう。スパイというのは普通は外国人がやるもので、それに関する規制がないのが「日本はスパイ天国論」の一つの根拠になってたと思うのですが、その肝心な点についてはまるで触れていない。もちろん、外国人であろうとも、日本国領土で所定の要件にひっかかれば日本の法律の適用があるでしょう。だからまるで無罪ということではないんだけど、実際に捕まえたりしたら、外交官特権を振りかざされたり、大使館に逃げ込まれて手も足も出ないってことが多いでしょう。

 本気でスパイ防止を言うなら、そのあたりの手当について論及すべきでしょう。例えば、スパイ容疑の場合に限っては、外交官特権の制限や大使館や軍事基地への警察の立ち入り調査権を認めるとか。もちろん、これは国内法では足りず、当該相手国との条約によって決するべきですが、その条約修正義務を政府や外務省に促すなどの規定は盛り込まれて当然だと思います。でもない。

 さらに、条文でも、外国国籍を有する者が、指定する(秘密のある)場所へのアクセスや聴聞をする場合、当局の認可を必要とするなど制限を掛けるようなことも出来たはずです。一種の外国人差別になるんだけど、本気でスパイ防止ということをいうなら、これに関しては差別規定を設ける可能性はあろうし、少なくとも議論の対象になっても良い。でもない。

 いったい本気でスパイ防止なんて考えてるのか?って疑問が出てきます。
 というかね、これを言い出したら絶対CIAとか米軍とかアメリカ筋とぶつかるに決まっているんですよね。それは避けたいんでしょうね。

 それにそもそも秘密の対象を広げ、これに外国人というファクターをかませてみたら、Googleのストリートビューはどうなるんだとか、検索データーはどうかとか、そんなこといえばオンラインバンキングの記録なんかもそうなるし、じゃあ外資系の金融活動や外資系企業はどうなるの?になり、日産はルノーに牛耳られているからあれは外資系なのかとか、グチャグチャになってくるのでしょう。

 これは、論点が変わって、これだけ縦横無尽に情報が走りまくっている現代の国際社会で、秘密ってなんなの、スパイってなんなの?です。

問題は「スパイ」ではなく、「スパイしてることを隠す」こと

 現代の日本で、当局が情報を出し惜しみしたり、隠滅したり、嘘言ったりというのは、別にこんな法律を作らなくたって十分にやれています。「都合が悪いことは隠す」というのは、政官界にかぎらず、財界でも、各業界でも、学校でも、大相撲でも、そして家においても、個々人においても、日本人のDNAみたいなものです。ウソを付くのは人類のDNAだけど、特に「世間体」を気にして、醜聞を気にする度合いは「恥の文化」をもつ日本人には強いでしょう。だからもう全力で隠そうとするわけで、別にこんな法律の有無とは関係なく、最大限の努力で隠そうとする。

 じゃあ、なんでわざわざこんな法律を作るのさ?今ので十分じゃないか?って思うのですが、それでも十分だと思えないのでしょう。

 切実に心配しているのは誰かといえば、おそらくは巷間噂されるようにアメリカでしょう。なんせアサンジにWikileaksで膨大にすっぱ抜かれ(まだまだ未公開のものが山ほどある)、近年では元CIAのスノーデンがあれこれすっぱ抜いた。やれアメリカ内部のしかるべき人物が某国を陰でアホ呼ばわりしてたとか、ドイツの首相の電話を盗聴してましたとか、、、出るわ出るわで、赤っ恥かきまくりです。しかし、これはアメリカだけではなく、オーストラリアだってインドネシア首相の携帯電話を盗聴しようとしたとか。

 国家としては非常にエンバラシングな(こっ恥ずかしい)ことでしょう。面目丸つぶれです。表面上はニコニコやってるんだけど、裏でこんなことしてますってバラされちゃうんだから。おもてむきは、「あ〜ら、奥様」「いつもお若くいらっしゃる」とかベンチャラ並べてたら、横に立ってた自分の子供が「あれ?この人、こないだブスが若作りしても無駄だってママが言ってた人じゃないの?」とか言ってしまって赤っ恥をかくような感じでしょうか。

 それを躍起になって防ぎたいのでしょう。
 でも、それって、「スパイ防止法」じゃないじゃん。スパイやってるのは自分(国家)じゃん。正しくいえば、「スパイをやってることをバラされないようにする法案」あるいはより広く「ヤバイ内部情報流出防止法案」でしょうが。「国防の重要機密の保護」とかもっともらしく言うけど、それも多少あるだろうけど、メインにはこっちでしょ。

国家の空洞化

 ところで、Wikileaksをはじめなぜ最近になってボロボロ流出が出てきたかというと、一般市民の情報武装ツールが一昔前に比べて格段に強力になっているからでしょう。なんせ携帯で写真も動画も取れるし、ボタン一つでYouTubeに流せるし、ツィッターでもフェイスブックでも幾らでも出来る。昔は、そんなに簡単に写真や録音はできなかった。常にカメラとレコーダーを持ち歩いているのはジャーナリストくらいのもので、普通の人はそんなかったるいことはしない。でも今はほぼ全員が動画撮影カメラを持っている。一方、昔はいくら個々人が驚愕の秘密をゲットしても、それを世に知らせる術がなかった。せいぜい新聞社に送りつけるとか、その種のことしか出来なかった。でも今はネットに簡単に上げられる。それをまた他人がツイッターやフェイスブックで流して、さらにそれを、、と倍々ゲームのねずみ算式であっという間に広まる。

 これは組織内にヤバイ(or カッコ悪い)情報を持っているところにとってはかなり危機感を煽られる状況だと思います。国家に限らず、民間企業でも、アホな社員がアホなことをツィッターで書いたりして会社それ自体が炎上したりするから、戦々恐々でしょう。社員のメールをチェックしたり、ツィッター禁止令を出したり、やってることは秘密保護法的な。だいたい秘密保護法もなにも、公務員の皆さんもお粗末なネット管理をしたりしています。例えば、ツイッター暴言参事官だけじゃない… ネットでつまずく国家公務員たち(msn産経ニュース2013年08月18日)にあれこれ出てます。記憶にあたらしいところでは尖閣諸島の漁船衝突のビデオがYouTubeに流れたとか、ありましたよね。


 いつも書いてますけど、現在から将来にかけて、国家が国家として成り立っていくのがどんどんしんどくなっていると思います。もう19世紀や20世紀のような国家運営はしにくいし、運営の源泉となりうるパワーそれ自体が減少していってる。それも一過性のものではなく、構造的かつ恒常的に。

 思えば植民地時代の帝国主義なんかイージーでした。強い軍隊もって他国を侵略して資源を強奪し、奴隷のようにコキ使えばよかった。で、列強の利権争いで2つの世界大戦をやって、比較的ダメージが少なかったソ連とアメリカが二大覇権争いをやった。この頃が一番スパイが輝いていたのでしょうねえ。でもどんどん自由貿易が広がって多国籍企業が出てきて、国際金融機関が威力をふるうようになると、国家と経済が分離していきます。昔は国策産業というか、国家と大企業が二人三脚でボロ儲けをすればよかったし、アメリカのチキータバナナ(ユナイテッド・フルーツ社)のように、アメリカの国威をもって南米を支配して儲けるなどの国際的な越後屋みたいな話もよくあった(グァテマラでCIAにクーデターを起こさたり、コロンビアのテロ組織と組んだり)。ところが重厚長大産業が廃れてきて、新興国に食われるから製造業もどんどん空洞化し、販売拠点も海外にシフトすると、国際的に成功している企業ほど国との連携が必要ではなくなった。一方、金融系は、各国政府(中央銀行)を相手に相場張って博打を打つ展開でしょう(もっとも潰れそうになると国の公的資金の援助を求めるあたりはちゃっかりしてるが)。

 今ではアマゾン、グーグル、アップルも別に国家と癒着しているから儲けているわけでもないし、そこが儲かったからといってアメリカ市民の失業率や給与がものすごく改善されたという話もきかない。要するに「関係ない」。それどころか、今では世界の富を握っている国際企業があまりにも租税回避テクを使うのでどこの先進国の収入はあがったりです。だから、なんとか租税の網をかけられないかと必死になっているのが現状でしょう。つまり、国家はどんどん貧乏になっている。特にリーマン・ショック以降の先進国は、ドイツやオーストラリアなど少数の例外を除けばだいたいそうです。一方ではどこも高齢化で、そのうえサラリーマン系は絶命危惧種だから失業率は大きな流れとしては悪くなる。被扶養国民が増えるて支出はうなぎのぼりになる反面、歳入はどんどん先細りするわで先進国は大変です。かつてのパワフルさなどほとんどない。

 その昔は、自国がヤバイときは戦争を仕掛けて他国からぶんどってという手段があったけど、今どきそんなことしても大して儲かる話でもない。途上国の資源が欲しかったら、普通に話をしに行って共同開発を行えば済む話だし、現にどんどんアフリカ詣でとかしている。それに資源やエネルギーといっても、掘削技術の進歩や代替エネルギーなどで、そこまで熾烈な争奪戦をやらなくても良いかもという流れもある。特にシェールガス実用化で尚更でしょう。ますます戦争なんかしても意味が無い。でも、未だに国と二人三脚で儲けている軍需産業のような業界もあって、彼等にしてみれば適当に戦争らしきことをやって消費してもらわないと商売あがったりでしょう。でもって911テロをレバリッジにしてイラクだのアフガニスタンだのに行くけど、案の定泥沼化して、皆うんざりしている。

 国家が国家として強大なのは、それだけの実質、つまり強力な暴力装置と財政力あっての話です。でも、今はお金ないし。国家に富をもたらす筈だった企業は羽が生えたようにお外に飛んでっちゃってるし。暴力なんか振るいようもないし。そうこうしているうちに、BRICKSの後発部隊がどんどん伸びている。今ではアフリカが熱い注目を浴びていたりするけど、そうなると国際社会もいままでのように先進国だけで牛耳れなくなる。経済力という力をつけた新興国は、数でいえば圧倒的大多数だし、彼等は彼等でまた正論を述べるでしょう。有名な話ですが、戦後の東京裁判でアメリカ主導の死刑判決にインドのハル判事が反対意見を言ったし、ちょっと前に国連で「シャラップ!」と取り乱して国際的に冷笑を買った日本の某官僚もなんで怒ったのかといえば、モーリシャスの最高裁判事に日本の刑事司法の前近代性を指摘されたからでしょう(YouTubeにあるよ、しかし語学学校のプリインターレベルの英語に聞こえるが)。

 ちなみに関連話題でいえば、日本の秘密保護法について、22日金曜(ジュネーブ時間)に、国連の人権委員会からイエローカードが出されましたよね。Independent UN experts seriously concerned about Japan’s special secrets bill、あるいはココ。声明を出したのは二人の委員ですが、Frank La Rue氏はグァテマラ、Anand Grover氏はインドです。"requested further information from the Japanese authorities "って書いてあるから、より詳細の情報を日本政府に要求したとなってます。どうすんでしょうね、これも「シャラップ!」って言うのかな。

 ということでこれまでの国家像、とりわけ先進国の国家像というのは、植民地時代に原型があって、あれが進化発展したものだけど、もう伸びしろが尽きている。新しい時代にそぐわない。そういう理念モデル的なこともさることながら、後ろからどんどん血を抜かれているように国家としての体力が萎びてきている。やるとすれば、北朝鮮に見習って恐怖でガチガチに国民を縛ってむりやり一体性をもたせることで、中国やロシアがそれに近いことを頑張ってやってるけど、北朝鮮が未来永劫栄えるとは思いがたいのと同じように、いつまでも続けられる方法ではない。

 このような時代背景を考え、なんで今さらスパイ防止なの?を考え合わせると、ぱっと思いつくストーリーは二つ。
 ひとつは、荒唐無稽だけど、国内に大量の失業者や受給者を抱える各国が示し合わせて、八百長の戦争をすることですね。出来レースでどっかでドンパチやると。そうするととりあえず軍需産業は喜ぶし、なによりも国内の若年失業者とかを大量に動員して”口減らし”をすることが出来る。敢えて徴兵なんかしなくても、職がないから軍隊に入ってくれて失業率の解消にもなるし、戦争を口実にすれば国内的にもいろいろ無理なこともできる。でも、これ、どう考えても損得勘定が合わないと思うんだけどな。ジェット戦闘機を一分間飛ばすだけでも、生活保護一生分くらい軽く消えるでしょ?金かかりすぎ。それに、そこまで他国と出来レースが今どき出来るもんか?って。やってる最中に相手国の政権が変わったらどうするんだ。国際社会の非難も浴びようし、やってヘロヘロになってる間に他所の国に漁夫の利をもっていかれる。

 だったら、逆に、どっかの国を炊きつけて険悪にさせて、その国への経済進出にブレーキをかけて、その間に自分の国が出て行って漁夫の利を占めるという方がまだしもソロバンに合う。アメリカはちょっと前にもグルジア焚き付けてロシアに歯向かわせて、いざロシアが怒ったら知らんぷりしてたという直近前科もありますよね。アメリカが石原都知事を焚き付けて尖閣を問題化させ、日中を険悪にさせ、日本の中国進出をやりにくくさせ、その間に自分らが儲ける。いざというときにはアメリカが支援しまっせ、集団自衛権いきましょうとかうまいこといって、その一環として「固い軍事同盟を結びましょう」「それについてはお宅も秘密をしっかり守ってもらわんと」とか言われて、秘密保護法をせっせと作って、「がんばってまーす」というケナゲな姿勢を見せたいのか。でもっていざとなったらハシゴ外されるとか。まあ、仕組んでやってるかどうかは知りませんし、アメリカと一口にいっても部局により人により時期によりその意向は全然違うでしょうから、しょせんは憶測に過ぎないです。

 しかし事実としてアメリカ企業は結構この間もせっせと中国に行ってます。2013年11月19日のBroomberg Businessweekには”Foreign Investment into China”という記事があって、今年の1月〜10月の統計速報で、中国に投資した外国勢のうち、日本は前年度6.3%増です。しかしアメリカはその倍の12.4%増。さらにEUに至っては22.3%増です。皆どんどん中国に接近している。オバマと習近平は6月に8時間もみっちり話し合ってて、71年のニクソン・毛沢東以来のロング対談だとも言われてるし、安倍ちゃんが訪米したときの「3ない対談」(出迎えなし・晩餐会なし・共同声明なし)の「何しにきたの?」と言わんばかりの冷遇ぶりとは対照的です。イギリスも最近では中国詣でが激しく、ポンドと人民元との直接取引やら、中国の出資で原発を作るなど関係を深めようとしてます(UK nuclear power plant gets go-ahead)。見たところ、誰もあんまり喧嘩する気なさそうなんだけどな。


 以上が仮説その1ですが、仮説その2は、そこまで冷静に考えられてないというか、それもあるかもしれないけど、より近接的には国家空洞化を食い止めるという危機感です。確かに、これだけ国民のほぼ全員が、一昔前の007並みの情報武装をしてられたら、国としてはとってもやりにくいと思います。どっから情報がもれるかわかったもんじゃないですから。それに国民同士の横のつながりも、ちょっと前よりも格段に強くなっている。秘密のアジトに夜中に密使が走ってきて伝令して、各村に啓蒙活動をしにいって、、とか異様に手間暇かかってたことが、今ではあっという間に出来る。エジプトとかリビアとかでも、これまでは強権を持って抑えきれたものが、抑えきれなくなってコケているし。

 それに、今は日本だけではなく、どの先進国の国民も、国家機関をそんなに信用してないです。昔っから信用してなかったけど、今はもうなにげに全然信じてないというか。中国だって、富裕層ほど自国の政府を信用してないから海外に行くし、欧州の若者も自国で我慢してても展望がないからせっせと海外にいくし、アメリカだって正社員が統計の度に何十万人も減りつつ(パートも統計に入れたり、断念者を外すから失業率数値そのものは粉飾的に改善されるけど実体は逆)、フードスタンプという共産国の食料配給みたいなことやってるし、そのフードスタンプすらも金がなくて削減されているという状況でしょ。日本でも、原発事故の一連の収拾についても「嘘ばっかし」ってな見解が一般的じゃないですかね。年金だって出ると信じている若い人は少ないだろうし、放射能だって政府が安全ですというから安全なんだろうと100%無邪気に信じきっている人はおらんと思う。いるの?

 というような今日このごろでで、これまで以上にボコボコ都合の悪い情報が流出したら国家としてもたまったもんじゃないと。「叩けば埃が出る」というのは国家や大組織にこそ妥当して、この先、あんなこともこんなこともどんどん出るだろう、だから必死にネジを巻かないとならない。特にアメリカはWikileaksやら、アノニマスやらにやられてボロボロだから危機感もひとしおで、だから「お前のところもしっかりやれよ」とヤイヤイ言われたんじゃないかな。だからCIAなどを外すつもりで外国人処罰規定がシカトされているとか。もしそうだとしたら、押し付け憲法がダメという人達が、また法律を押し付けられているというこの皮肉。

 あと時期的にいえば、なんでこんなに拙速にやるの?次の選挙の2016年まであと3年間は安定多数なんだから、と思うのだけど、考えてみれば今やらないともう出来ないのかもしれない。この先、アベノミクス効果も疑問→否定に傾いていくかもしれないし、原発関連ももっとヤバイ情報がリークされるかもしれないし、4月になれば消費税導入で文句言われるのが目に見えているし、後に伸ばせば伸ばすほど支持率も下がって法案も通しにくなるって読みでしょうかね。それに今は日米の株価が高いけど、あれもきな臭いですからね。どっかで読んだんだけど、国際投資機関というのは、相場が乱上下してくれないと旨い儲けが出ない。差が激しいほどドカンと儲かる。でもって資金量が異様に豊富だから自分らだけで相場を作れる。株の仕手みたいなもので、どんどん上げてって、一気にストンと落としてその差額で儲けようと。アメリカの株価だって、フードスタンプがどうとか役所がシャットダウンされるとかいう状況で、なんで株価が上がるのか?という。きな臭いですね。でもって、NYダウが下がればニッケイも下がるで、そうなればますます不況気分蔓延で支持率も下がる。やるなら今だって感じっすかね?

空気が読めない時代

 空気を読んで生きている日本人ですが、今はけっこう誰も読めなくなってるように思います。日本に限らず世界的な傾向かもしれないけど。

 長くなったので別項で書くべきなんだろうけど、ちょっとだけ。今、正直いって皆が何を考えているのか、大勢はどうなのか、本当の世論はどうなってるのか、誰もわからないんじゃなかろうか。大メディアが誘導するにしても、すでに限界に来ていて、マスゴミだのという言葉が日常用語化しつつある。実際、この1−2年の日本のメディア報道って異様に面白く無いですもん。情報感度の高い人ほど、愛想づかしをしていく。でもってネットで調べたりするのだけど、これが嵐のような玉石混淆でよくわからない。ウヨとかサヨとか売国奴とかいつの時代の世界観じゃ?というレトロ色満載だったり、お金もらって書いているサクラ要員がいることはもはや常識化しつつもあるし。オリンピックだって、国民全員が狂喜乱舞しているかのような報道だけど、身近な話としてはそんなに乱舞している人は少ない。より身近にいえば、じゃらんや食べログなどの評価欄も真逆な評価が並列してあるから、よくわからない。つまり、どこを向いても、何に関しても、本当のところはよく分からない。

 よくわからないのは政府当局も同じでしょう。前の選挙に自民が「圧勝」といっても、実質的な得票数そのものはむしろ下がっているし、選挙というのは数年タイムラグがあるから、前の選挙も民主党にお灸をすえるという動機がメインで安倍ちゃんに憲法改正してもらいたから投票したってもんでもないでしょう。ましてやこんな秘密保護法を作ってもらいたいから支持したわけでもない。アベノミクスにしても、借金上積みして大盤振る舞いするぞという「ネタ」で海外投資家筋が相場を作ったというのが実際のところで、それで株価が上がって、国内の富裕層がちょっとリッチな気分になって財布の紐をゆるめただけで、給料そのものは依然として下がり続けているし、非正規労働者の割合はどんどん高くなるばかり。

 しかし当の政府も実際のところどのくらい支持されて、どのくらい支持されていないのか、このくらいだったら容認してくれるけど、ここまでやったら怒るんじゃないかって距離感をはかりかねているような気がします。冒頭に述べた「みんな」「維新」のヘタレスルーも、そういうことしたらどれだけのダメージを受けるのかという測定ができてないんじゃないかと。まあ、もしかしたら、秘密保護法を通さないと、日本がひっくり返るくらいの超ヤバイ情報がリークされるるぞと言われたのかもしれないけど、そんなに真剣にヤバいネタがあるのだろうか。

 現在から将来にかけて、日本では「普通」という概念がどんどん空洞化していくでしょう。何がスタンダードかわからないという。で、こういう状況(よくわからない)を僕はどう思うかというと、良い、と思います。分からなくなれば、大勢迎合や付和雷同ができなくなって、自前の頭で考えざるえないからええことやん。日本人、頭悪くないんだから、もっと自信をもって自分で考えればいいのにって常々思いますから。それに、いつだって大事なのは、皆がどう考えているかではなく、自分がどう考えるかでしょう。周囲をうかがってから自分の態度を決めるという姿勢が減少していくほど、扇動や洗脳に巻き込まれる率も減るし、人生の自己決定度や自己充足度も高まるでしょう。そしてそれがひいては秘密保護法的なるものへのカウンターパワーにもなりうるでしょう。

粘着体質

 長くてすまんが最後に。日本って一回既成事実化したらもうそれで半永久的に固定するかのような流れがあるけど、あれは何故?この法案が通るかどうか微妙なところだけど、仮に成立したとしても、それが大多数の気に食わなかったら次の選挙で民意を反映した政権が、廃案にすることも出来ます。消費税だって、引き下げることも、廃止することも出来ます。国会は国権の最高機関なんだから。

 実際、オーストラリアではそんなことは日常茶飯事で、ハワード政権が労働法を財界寄りに大改正したら、次の選挙で勝った労働党がそれを全面的にひっくり返してます。法律や制度は、もう時刻表のダイヤ改正くらいの感じで、どんどん変わっていく。役所も、昨日あった役所が今日はもう消滅したり統廃合していたりして、そのスピード感と柔軟性に慣れると、「一回決まったらもうダメ」という日本の不思議なメンタリティはどこから出てくるのだろうか不思議になります。

 でも、ほんと、一回やり始めたら、なっかなか止めないですよね。この不思議な粘着性は、例えば長良川の河口堰にせよ、干拓事業にせよ、太平洋戦争にせよ、カジノの博打にせよ、一回やり始めたらとことんやってしまうのはなぜ?これは簡単で、官僚さんやそれに連なってる利権カルテルのアテが外れるからでしょう?もう断固死守って感じで頑張る。でもそんなのは所詮は「不当な利益」なんだからグシャッと押しつぶしても構わない。また、法令の改廃によって混乱が生じるなんてのも言い訳で、無から有を生じさせる制定のほうがよっぽど混乱が生じるんだから、元に戻す廃案がそれ以上に混乱するとも言えないでしょう。そして、官僚機構が法令の改廃に適切に対応できないならば、そのこと自体が無能の証明だといわれても仕方ないでしょう。

 人間というのは万能ではないし、完璧でもないし、また将来的に予想もしなかったことが起きるし、状況は常に変わる。それを「一回決めたら」なんて硬直的なことをやってたら、冒険的な冬山登山みたいなもので、いつか必ず遭難してしまう。バックギアもちゃんと円滑に動くようにしておかないと。

 さて、この2−3日の間でずいぶんと状況は変わったみたいで、国連にはピーッと笛吹かれてしまうし(ちなみに英語で"Whistleblower"という言葉があります)、海外メディアも注目するようになったし、国内の大手メディアも取り上げるようになったし、それでもやっちゃうのかな、強行採決。やりそうだったら、自分がもしいま東京にいるんだったら、国会議事堂の前にでも一人で”散歩”したいですね。「へえ、やっちゃうんだ?」って。デモになると事前届け出とか道路交通法上のあれこれがあるけど、一人で公道を散歩するだけだったら、そんなもんいらんし。誰かとつるむ気もないし。議事堂なんか小学校の社会科見学以来だもんな。あ、傍聴もできるのか。もしかしたら、同じようなこと考えて”散歩”している人がいるかもしれないし、いないかもしれないし、どっちでもいい。記念すべき日に写真撮ってこよう。意外と厳重警戒で立ち入り禁止になってたりして、そうしたらその写真を撮ってこよう。

オーストラリアの場合

 ところで、Wikileaksのジュリアン・アサンジ氏はオーストラリア人です。タウンズビルの人だったかな。彼なんか秘密保護法ができたら、懲役10年の筆頭候補でしょうねえ。オーストラリアでは、Wikileaks党という政党をつくって党首になってます。さきの選挙でアサンジ氏は上院に出馬してます(落ちてますけど)。

 ちなみに調べてみたら、オーストラリアにもFOI Act(Freedom of Information=情報公開法)があり、原則として誰でも、理由のいかんを問わず情報公開請求できます。独立行政委員会であるThe Office of the Australian Information Commissioner (OAIC)というところが仕切り、NSW州ではThe Information and Privacy Commission NSWが窓口で、申請料は一件25ドルでした。一方、オーストラリアはアンチ・テロ法もバリバリあるし、正式に陸海空軍持っててイラクにもアフガンにいってるから秘密保護法な領域もあります。一方では情報公開は個人情報やプライバシーとも抵触する。情報公開VS機密保持VSプライバシーの三つ巴の衝突になるので、法制審議会(Australian Law Reform Commission)がこれを綿密に検討し、Secrecy laws and open governmentでは61箇所の修正要求をしているようです。

 でも、この国であんまり秘密保護法的な心配をしなくても良いように感じるのは、こういった法令や制度の内容ではなく、個々の構成メンツ(国民)が「他人の顔色をうかがう」というメンタル特性を持っておらず、納得いかなかったら一人でもすぐに動き、動くにあたってのストレスや躊躇いがほとんどないって部分に依拠しているように思います。かてて加えていうなら、「やっぱ止め」ってバックギアがスムースに稼働する点でしょう。変える・変わることに対する心理的抵抗感が少ない。だから結局、人は城、人は石垣で、人次第ってことなんだと思います。国家とはシステムや法律ではなく「人の集まり」でしかないのですから。



文責:田村



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