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今週の1枚(2012/11/26)





Essay 595:Click Frenzy 狂騒曲


 写真はライカードの、どってことない普通の交差点。
 信号待ちの最中、「あ、きれいだな」と思って撮ったもの。

 なんでオーストラリアに居るのか?と思ったら、やっぱり信号待ちしててこういう風景がふんだんにあるからだろうなあって改めて思いました。クリックして大画面にしてじっと見てたら分ると思うのですが、風景そのものが"No worries〜!"って感じなんですよね。こんなの普通に見てたら、あんまり物事に悩まないというか、「悩めない」です。空が青いというのは、ただそれだけで偉大なことなのね、と最近よく思うのでした。


クリックフレンジーとは?

 さっきまで濃い体験談を編集していたので、今週はお気楽にいきましょう。

 先週、Click Frenzy騒動がオーストラリアでありました。笑えるんだ、これが。

 「なに、それ?」という方のために説明しますと、オンラインの大バーゲンです。

 もともとは、アメリカのパクリです。アメリカにあってオーストラリアにはない、サンクス・ギビング(感謝祭)ホリデーがありますが、アメリカでは、サンクスギビングのあとに大バーゲンをやるそうです。

 感謝祭は、沿革はいろいろあれども、要は世界のどこでもやってる「秋祭り」ですな。収穫祭です。秋に収穫が取れ、農作業も一段落、やれやれで皆さん打ち上げパーティをやるという。日本では新嘗祭(今は勤労感謝の日)があったり、オーストラリアでは春秋逆転するから、春のイースターがオーストラリアでは収穫祭になってます。

 で、アメリカの感謝祭は11月の第四木曜日。その翌日に大バーゲンセールをやり、それが「ブラック・フライデー」と呼ばれるそうです。まあ、事実上は「クリスマス商戦のはじまり」でしょう。なんでブラック/黒なの?というと黒字を願ってとか(英語でも赤/黒表現をする〜てか会計表記をもとにするからあっちの方が元祖かも)言われてます。ブラック・マンデー(1987年の株暴落)と混同しないように。

 そして、土日をはさんで翌週の月曜日を「サイバー・マンデー」といい、オンラインショッピングの大バーゲンセールが行われます。オンラインなので最近の話で、遡っても2005年くらいだそうです。

 それをオーストラリアでパクったのが、この「Click Frenzy/クリック・フレンジー」で、11月20日の火曜日に行われました。"frenzy"とは「熱狂」「興奮」「狂乱」という意味で、熱狂的にビシバシとクリック(オンラインでの買物)をしまくるという意味ですね。

 時期は、ブラックフライデーに先駆け、そしてメルボルンカップ(11月の第一火曜日)の2週間後というオーストラリア・ヴァージョンです。

 メルボルンカップはオーストラリア最大のイベントで、この日ばかりは仕事ほったらかして皆レースを見る(sweepという職場でのくじ引きみたいな慣習もある)、"The Race that stops the Nation"(国をストップさせる大レース)というコピーが有名。そこから、クリック・フレンジーも、"the sale that stops the nation "というコピーで鳴り物入りで始まりました。

 参加小売店はオーストラリアの名だたるものから約200社、バーゲン好きのオーストラリア人(誰でも好きか)は、手ぐすねひいて、開始の午後7時を待ちかまえておりました。ホスト側も100万アクセスに耐えられるように万全に準備していた筈なんですけど、、、、

 蓋をあけてみたらその倍以上の人々が一気にアクセスしたので、サーバーはあえなくダウン。
 数時間まるで何も出来ないという事態が続きました。
 "server busy"とか、"error 404"という表示ばっか。

 「たった100万人アクセスしか準備してなかったのか?」と思うかもしれないけど、全人口が2200万しかないオーストラリアで100万アクセスというのは、日本でいえば600万アクセスを予期するようなものです。そして実際にはその倍のアクセスがあったということは、日本に置き換えれば、せーので1200万人アクセスがあったとことになります。

 つまりは、人気ありすぎ。
 しかし、10人に一人もやるもんかね?という。TVの視聴率でも10%だったら大したものだし、あれは世帯だし、実際見てるかどうか分らない。それをインターネットだよ?オンラインショッピングだよ?いちいち事前にレジスターしてだよ?それも0歳児も昏睡状態の人も全部含めてだよ?それに家族やカップルで一アクセスという場合もあるだろうから、実際には10人に一人どころか、8-9人に一人くらいの途方もない比率かもしれない。どんだけバーゲンが好きなんだ?という。

 つまりはオンラインでのショッピングがそこまで普遍的なものになっているということであり、それはやる気満々の主催者側の思惑の二倍を超える勢いで増えているという珍事であり椿事でしょう。大体、どんなイベントだって「主催者側の見込み数」というのは、実際の倍くらいに過大(楽天的に)に考えてたりするものですけどね。「まさかこんなに人気があるとは!」というのは、主催者が一番思ったでしょうし、オーストラリア人達も思ったでしょうし、なんだかんだいってやっていた僕もまた思いました。

ネットでの反応

 パソコンにかじりついて、サーバーエラーの画面を見続け、ガンガン!とマウスやキーボードをぶっ叩いていたであろう一般市民からは、当然のことながら、強烈なバックラッシュ(反発、反動)があるわけで、"sale that failed a nation"とか、"the failure stops the nation"とか、"the clicks stops the sale"とか、面白いコピーがネットを賑わせていました。

 なんか皆も真剣に怒っているというよりは、「あーあ」と思いつつ笑っているような感じがしますね。このへんの目論見通りいかないダメダメ状態というのは官民挙げてみんな慣れているし。

 実際、数時間後に復旧したセールそのものは、実はそれほど大したことはなく、それよりもネットでの反応の方が面白かったです。

 "Click Frenzy Failure"で画像検索すると、こんな感じ→




FacebookでもさっそくClickFrenzyFailという特設ページが作られ、皆のコメントとともに、投稿された面白い画像が貼り付けられています。

←もっと見たい人は、Facebookのギャラリーに一発ギャグ画像があります。かなり爆笑作品もあります。オススメ。

 ベタなんだけど、僕としてはコレに爆笑しました。"Are you fu**ing serious"(マジかよ!?)が良かった。 字がめちゃくちゃ汚いのがまた笑える。


 そのあたりのネットの反応を紹介している記事としては、Click Frenzy: the fail that stopped a nation and sparked a social media firestormなどが面白かったです。


ヒトラー映画のパロディ字幕

 でもなんといっても力作なのは、このヒトラー映画のパロディでしょう。
 本来シリアスな映画に、ドイツ語で喋ってて意味が分からないことをいいことに、ムチャクチャ英語字幕をつけて遊ぼうというものです。さっそくClick Frenzy版も上がってました。

 英語字幕なので、以下簡単に訳しておきます。そんなに難しくないので、最初に読んで意味を大体掴んでおいてから見るといいです。
「Click Frenzyはオーストラリア東部サマータイムで19時に始まります」
「我々はまず最初にBing Lee(オーストラリアの家電量販店)のサイトに向かいます」
「目標は、65インチTVが3.99ドル(350円、んなわけないだろ)です」
「このテレビは、ビリヤード室に完璧にマッチする筈です」
「よし、ではログインして、今まで何を買ったか、もっと買うものがあるか見てみよう」

「そ、総統、、、」
「Click Frenzyは、、、」
「Click Frenzyとこれにリンクしている全てのサイトがダウンしています」
「サーバーがオンラインで同時に処理できるのは7名までなのです」

「サーバーの管理者、Keitl, Jodel, Krupsだけ残れ。あとは退室」
「サーバーがクラッシュしただと?いったい何をやっているんだ!」
「Click Frenzyは1週間かけて広告してきたんだぞ!」
「メディアには十分な容量があると言ってきたんだぞ!」
「それが7人以上アクセスした途端にダウンだと?」
「OzBargainですら、リンクをたどってやってきたアクセスによってダウンしているんだ」
「総統、Gerry Harvey(オーストラリアの大規模小売店Harvey Normanの創立者社長)は保証してくれたんです」
「ハービー?あいつは無知で、時代後れのアホだ!」
「彼は、オンラインショッピングによってもっと儲かると言ったんです」
「"ちゃんと作動したら"の話だろう!」
「我々は多くの小売店と契約を結んでいるんだぞ!砂漠で水を売ることもできないようなクズみたいな連中とだ!」
「奴らはこのセールに望んでいるのは、売れない在庫品をたった5%引きで」
「ディスカウントと名が付けば、どんなガラクタでも喜んで買うアホ共に売りつけることなんだぞ」
「だから、私は奴らに言ってやったんだ、1分間に10万人が詰めかけても大丈夫なサイトを作ると」
「David Jones(オーストラリア最大のデパート)は、自分のところだけオンラインセールをやっているぞ」
「お前らの誰か一人でも、あそこのボスと話ができなかったのか?」
「彼らがいかにうまくやってるかを学べなかったのか」
「我々のサーバーはKogan(オーストラリアのオンライン家電ショップ)の通販で買ったラップトップだ」
「それも、お前はVodafoneのUSB接続でやってるんだぞ、この馬鹿者が!(FFSの略はいろいろあるが、たぶん"for fuck's sake") (ここの意味は、これだけ巨大なサーバーを構築するのに、オンラインで買った安物のラップトップに、携帯会社のUSBネット接続でやろうとしているという=そんなわけないけど=)
「我々は月間1GBプラン契約の筈だ、そしてアクセスが1GBを越えたら追加課金だぞ!」
「Priceline(オーストラリアの大規模小売り薬局)も参加してるんだ」
「シャンプー一本75セントの割引を得ようとして、人々は延々1時間以上クリックしつづけているんだ」

「心配しなくても大丈夫よ。どうせアマゾンでもっと安く買えるんだから」

「我々は、皆にいい夢を見せてあげられる筈だった」
「これじゃ、まるで我々が悪者のようじゃないか」
「ゲリーハービィーのアホみたいなネットショッピング論に比べてさえそうだ」
「だが、もう終わりだ。我々は黄金の好機を逸してしまったのだ」
「こうなれば、もはやアマゾンやBook Depository(UKベースの並ぶ本のオンラインショップで後にアマゾンに吸収)に頼るしかない」


 「Downfall」(原題「Der Untergang」、邦題「ヒトラー 〜最期の12日間〜」)という映画にファニーな字幕を勝手に付けて楽しもうという。ヒットラーで君もビデオを作ろうというサイトがあり ました。すぐに出来てしまうという。

 これについての解説は、海外の面白サイト/Know your Memeの中にDownfall / Hitler Reactsにあります。

いくつか思うこと

Click Frenzyはコケたのか?

 Click Frenzyの大コケによって、「金返せ!怒りの参加小売店」という記事は当然にあります。
 しかし、一方では、あれは大コケではなく、それどころか大成功かもしれないというクールなビジネスレポートもあります。

 Click Frenzy a boost for sales despite glitchesという記事によりますと、開始数時間の初期不良はあったものの、終ってみれば、売り上げ自体はかなりのものになったらしいです。

 オンライン小売数値インデックスを調査発表しているQuantiumという会社(これからのIT産業は、従来の理系ハードよりもこういう文系付加価値がデカくなるでしょうね)によると、参加小売店の売り上げは、過去のビッグセールに比べて2.5倍になっているのではないか、まだ数値が十分に吟味されていないけど、少なくともその前の週の火曜日に比べて3倍以上になっていると。

 そしてハロー効果のせいか、Click Frenzyに参加してない小売店サイトでも従来よりも30%以上のセールスを記録している。また最初の数時間のサーバーエラーは思ったほど全体の売り上げに悪影響を与えておらず、実際に物が売れている時間帯は、開始である午後7時から深夜というよりも、翌朝(水曜日)朝9時〜夕方6時という昼間部に最大の売り上げを記録しているそうです。

 別の記事で、サイバーマンデーがなんで連休明けの月曜日にやってるか?といえば、「皆、オンラインは職場のパソコンでやっている」という暗黙の了解のような事実があるからだと。実際、僕のサイトでもゆっくり読めるはずの土日はアクセスがガクッと減り、ウィークデーにアクセスが上がるのですね。「ネット=職場でサボってやるもの」という。今、これをお読みになっておられる方、Are you in your office, NOW?

 別のオンライン調査会社Experianによると、オーストラリアでは、オンラインショッピングやその種のサイト(classifieds websites)には平均して毎日2210万アクセスがあるらしいです。殆ど全人口ですね(のべ人数=一人であちこちアクセスしてる人も相当いる=から全員やってるわけではないが)。でも、このクリックフレンジーの24時間イベントの間のアクセスは2950万アクセスにも上った。また、クリックフレンジーには2日間でトータル870万アクセスを獲得し、これは主催者側の100万人予想を大きく超えるものです。

 さらに人口構成をみると非常に興味深い。日頃からネットをやり慣れている世代(tech-savvy generation Y)よりも、普段は実際にショッピングに出かけるのが常である「55歳以上の女性」がより多く参加しているそうです。また、女性の方が男性よりも18%クリックフレンジーにアクセスしているのは予想しうるところだけど、「18歳〜24歳の女性」が一番参加して「いない」というのは興味深いです。「若い女性はオンラインショッピングしない」という。全然しないというわけではないけど、他の世代、他の性別でみたらそうなったという。ま、これも後付の理由でいえば、分からないでもないです。オシャレして、友達や恋人と街を歩いて、ウィンドーショッピングするのが楽しい盛りに、何が悲しくて暗い部屋でパコパコやってなきゃならんの?ということでしょうか。

 いずれにせよ、"runaway success" というか、オンラインショッピングをオーストラリアの消費者層により浸透させたという意味では、クリックフレンジーも満更ダメなわけではなく、それどころが大殊勲といってもいいと。

オーストラリアの小売市場とオンラインショッピング


 オンラインショッピングに食われてオーストラリアの小売業界が危ない!という話は、年がら年中新聞の経済欄を賑わせています。

 ほんでもオーストラリアで物を買うのは一大事です。
 これはオーストラリアにやってきた皆さんに、一番最初に叩き込む「いろは」でもあるのですが、まず物の値段が異常に違う。どこで買うか、いつ買うか、どれだけ買うかで全然違う。水のボトルを、そこらへんのファーストフードやコンビニで買うのは「アホ」と言ってもいい。空港なんぞで買うと600ML一本4ドル以上の怒髪プラスだったりしますが、同じものがスーパーだと1ドル台で買え、しかもブランドにこだわらないなら50セント台である。8倍違う。しかも5リットルとか10リットルだったらリッター1ドル以下で買える。さらに日によって値段が違う物が多い。いつも同じというのは新聞と切手くらいで、あとはガソリンと同じで結構値段が変動する。タバコなんかもそうです。店によって、日によって違う。またスーパーの割引も、割り引くときは嘘みたいに割り引く。普通のコーヒーや洗剤がある日突然に半額くらいになる。

 同時に安かろう悪かろうが多い。ハイエンドJAPANでは信じられないような粗悪品がある。日本の100円ライターは1年経ってもガスさえあればまだ着火するけど、こっちのは1週間で壊れても不思議ないです。いきなり壊れているのもあります。「プラスチックの質」というのがあるんだというのは、こっちにきて学んだことですが、考えられないような部品がペキペキ割れたりしますね。さらに品切れ。スーパーの棚で品切れになってから、延々1か月以上(下手したら数ヶ月以上)ほったらかしってのが普通にある。またK-MARTとかいくと、棚の表示と実物とが全然違うことも珍しくないし、貼られている値札もアテにならないから店内に置かれているバーコードチェッカーで確認。

 さらに店員さんの知識が貧弱すぎ。ときどきすごくよく知ってる人がいるし、ライトパーソンを掴むのは全てにおける基礎ですが、にしても、知らなすぎ。家電量販店で二つの商品を比べて「何が違うの?」と聞いても、"much the same""just brand"とか「聞くんじゃなかった」系が多い。あからさまに表示と違うことでも自説に固執する人。さらには、値段を聞いても、"I don't know"で終わりという、「お前はなんのために居るんじゃあ!」という。一方では知ってるひとはメッチャ知ってます。特に消費者オージーの知識が豊富なホームセンター系の物品については、よう知ってる人が多い。知らないとどうしようもないからだろうけど。あと、あまりにも人間的な対応で笑うことも多い、「ウチよりもあっちの店の方が安いよ」とかいってしまうという。

 しかし、こんなのはまだ初級編。次に、日用品ではなく、滅多に買わない物を買おうとするとこれが大変。どこで売ってるか分からない。ネットがろくに無かった頃なんかイエローページで調べて、問い合わせて、車走らせて、行ってみたら品切れ、あるにはあるけどクソ高い、到底買う気が起きないくらいにダサい、、、しょうがないから他の店に行くかと思うが(英語で「ショップ・アラウンド」という)、これがまた遠かったり、行ってみたら店が移転してたり(すぐに移転するんだこれが)、変な日が休日になってたり。もう疲労困憊になります。教訓としては、見かけたときに買っておけ!です。もう二度と手に入らないかもしれないし。

 そういう意味ではネットは福音なんですよ。調べやすいし。それにオンラインショッピングだと確実に買えますからね。この「確実に買える」というのがいい。またネットで調べれば商品もわかりますしね。

 だからオーストラリアのリテールのダメさ加減からすれば、オンラインに食われてしまうのは、ある意味では当然という部分はあります。

 ともあれ、オーストラリアの消費者がオンラインに流れるというのは、わからないでもないです。
 というわけで、オーストラリアの小売店はピンチになるのだけど、だったらオンラインで売ればいいじゃんということにもなるし、今回のクリックフレンジーでも、日頃は全然知られていない小売店(例えば、ハンターバレーの家族経営のワイナリーとか)も、オンラインセールをすれば顧客が増えるという大きなメリットがある。

 その意味では吉凶禍福がまだら模様になっていて、良い部分もあるし、悪い部分もあるので、小売店も消費者も、いかに良い部分を選んでいくかという話になるでしょう。

 しかし、問題はまだあります。
 オンラインショッピング(ひろくは"E-Commerce")の場合、海外に客が流れてしまうことです。
 ここが英語圏の強味でもあり弱味でもあるのですが、英語に苦がなく、海外が身近だから別にオーストラリアのサイトでなくてもいいわけですね。特に英語の本などは、アメリカやイギリスで買った方が遙かに安いという。

 例えば、Forget Click Frenzy, the real bargains start with Black Friday, Cyber Monday in the USでは、国内産のクリックフレンジーなんかよりも、本家のアメリカで買えばいいじゃんって記事です。ブラックマンデーはリアルバーゲンだから足を運ばないとならないけど、サイバーマンデー(ちょうどこのエッセイがUPされる日ですが)は、オンラインだからどこでも買える。しかも今は豪ドルがやたら高騰してるから強い豪ドルを背景に買えばいい。

 しかもこの記事に書かれているように、アメリカで買った方が圧倒的に安い物が多い。これはもうオーストラリアの国内産業保護などの政策にもよるのですが、やっぱりオーストラリアで買うと高い。シッピングコスト(配送料)を入れてもアメリカや香港で買った方が安い。

 実際、僕もデジカメとかそこらへんになると、香港あたりで買ってます。シッピングも24時間以内でめちゃ早いし、対応も早い。スカイプ電話で話しても綺麗な英語を喋ってくれるし、さすが香港。問題は、デリバリーで、これはオーストラリア国内だからダメダメ。配達してないのに「した」と言い張るボケが本当にいる。それも結構いる。もうアテにならないから取りに行くといっても、空港の向うのボタニーとか、パラマッタとブルーマウンテンの中間あたりのやたら遠い配送センターまで取りに来いとかいう。そこはストレスフルなんだけど、でも安い。30%くらい安いんじゃないかな。

 もっとも、オーストラリアのオンライン業者もアマゾンよりも安くすると公言するBookworldも出てきました(Bookworld guarantees to beat standard Amazon book prices online。関連記事は、Shop till they drop: online boom forces stores to cut pricesなど。

 なお、より一般的なデーターは、AMCA(The Australian Communications and Media Authority)によって、Let’s go shopping…online -- 2011に出されています(10月31日付)。

で、、、

 この話の結論は別にないのだけど、「そういう感じになってます」というのが第一点。
 第二点としては、「だとしたら、、」という推測ですね。

 だとしたら(その1)は、じゃあ小売店は絶滅するのか?といえば、NOです。力強くNOだと思う。
 しっかりした商品知識とサービスをしている小売店は、それでも生き残ると思う。なぜなら、オンラインでわかる情報なんか、実際問題、大したことないからです。これは、僕だって言ってみれば十数年オンラインショップだけでメシ食ってるから分かるけど、「ネットじゃ分からん」「わかるわけないだろ」というのを原点にしてます。本当に必要な情報はまずネットに載ってないもん。特にネガティブな情報がキチンと整理されて論じられることは、ネットの場合は非常にマレだと思います。

 だから「百聞は一見に如かず」という現象は、世界の終わりまで続くと思う。それは人間の知覚認識のうち、ネットで伝えられるハンパなビジュアルと言語情報では、実際の現場情報の30%にも及ばないという生物学的な制約があるからです。美しい写真と美辞麗句に引かれて賃貸物件を見に行き、現物を目の当たりにして「なんじゃこりゃあ」って経験は誰でもあるでしょう。オンラインショッピングでも、実際に届いて梱包を解いてみたら、あまりのチープ感に愕然とするというのはあるわけで、オンラインが盛んになればなるほど、「実物に触れる」大切さが逆説的に重視されると思います。

 だとしたら(その2)は、IT産業でも新しいビジネスモデルが沢山出てくるだろうなってことです。売上伝票整理に始まり、社内データーベースの構築とか、POSシステムなどハード面が多いですけど、それがだんだん感覚的デザイン的なWebデザインになり、SEOになり、オンラインセールのマーケティングというビジネスコンサルティング産業になる。ここまでは既になってます。さらに先があるでしょう。

 例えば、Verify1stというサイトがあります。あるいはBillguardというサイトがあります。前者は、オンラインショッピングをしようとする際に、そのサイトが危なくないかどうかをチェックするサイトです。一見珍しくないようだけど、世界中の億単位のページを自動巡回し、評判を拾い集め、構築し、またサイトの作りが似ているかどうか関連性があるかどうかも調べたデーターベースです。多くの騙し系サイトの行為者(scammer)は、同じような構造で数百の類似のものを作ることから、どのくらい類似しているサイトがどのくらいあるかも重要なポイントになると(IPアドレスとかリンクの重複とか)。後者はクレジットカードその他で知らない間にぼったくられていないかどうかをチェックするサイトです。

 いずれもE-Commerceにおける消費者保護であり安全性上昇であり、それをはかることによってより隆盛に導こうと言うものです。しかし、これでどうやって儲かるのか(一般のサイト訪問者は完全無料で利用できる)よう分からんのですが、いずれもe-commerceの第一線で十数年やってきたプロ中のプロですので、この膨大なデーターをもとにより突っこんだビジネスコンサルティングが出来るとか、あるいはクレジット詐欺でとばっちりを被っている金融セクターとビジネスをするのでありましょう。紹介記事はTurning the tables on shady retailersです。


 ところで、最近英語の記事が多いのですけど、なんでか知らんけど英語で検索していった方が面白い記事に当るのですね。絶対人口が多いとか、もともとグローバルな世界だからというのはあるんですけど、それを差し引いても、奥行きがあって構築的な記事が多い。「ううむ、そうだったのか、ふむ、なるほど」という。インスパイアするものが多い。あとレスポンスが速い。それに遠慮やタメライや場の空気を読まないから、ズケズケ書いてくれるので面白いです。それに、「まだその次があるんだよ」とどんどんドアを開けていってくれる知的な面白さがある。

 ひるがえって日本で検索すると、例えば「オンラインショッピング」でニュース検索しても、個々の企業がどうしたとかいう散発的なニュース(楽天がマレーシアにいったとか、グッチが一周年とか)が多く、読ませる記事は「生活者1万人アンケート調査」結果発表〜ネットショッピング利用者30代大幅増というマーケティングの専門誌サイトくらいで、あとは不思議と朝日などの三大紙、あるいは日経など経済系の記事もない。興味ないのかな?

 それと、日本ではサイバーマンデーみたいなことはせんのかしら?秋祭りの休みは日本だってある。文化の日にせよ、今年は勤労感謝の日の連休になるから、まんまサイバーマンデーと同じ状況になり、年末商戦の始まりという意味づけもあるのだから、やってもよさそうなんだけどな。ま、やりゃいいってもんでもないんですけど、ぜーんぜんそんな気がなさそうで、なんか反応が鈍いというか、打てば響く感がないような。



文責:田村



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