今週の１枚（06.09.18)

　　ESSAY ２７６／日本帰省記2006（7）　過剰規制〜しちゃダメJAPAN



　写真は、これまた本文とは全然関係ないのですが、湯河原温泉街のとある店先の猫。「なぜこんなところに？」「このショーウィンドーはなんなんだ？」という疑問が出るより前に、「おお、猫だ！」という、なごみ系の感動の方が先に立ちました。


---

過剰規制社会／「あれちゃダメ、これしちゃダメ」ＪＡＰＡＮ

　この日本帰省記の第三回目に、ちょびっと当局の愚民政策に触れました。いわゆるエリートと呼ばれる官僚さんや当局が、ともすれば「大衆は豚だ、馬鹿だ、だからムチが必要だ」という愚民的発想を持ってしまいがちだというお話です。規制緩和で流動性の高い社会になったら、さぞや皆さん発奮して活力ある社会になると思いきや、格差社会だといってうろたえ、成功者に嫉妬し、「別に、ボチボチでいいや」というまったり下流社会になる。「ゆとり教育」で余暇時間を増やしたら、さぞかし創造性と自立心あふれる人材が輩出するかと思いきや、単にモノを知らない馬鹿が量産されるだけ。こういう現状を日々の行政現場でつぶさに、しかも何十年も見つづけていたら、「日本人に自由を与えたら、ただ堕落するだけ」って気分になっても不思議ではないかもねって話でした。国民一人一人の成熟した自律的判断なんぞを待ってたって、結局は待ちぼうけ。相手が人間だったら、成熟した人格に対するレスペクトは不可欠だけど、相手がブタだったらそんなものは要らない。ただ、「あれしちゃダメ、これしちゃダメ」というムチが必要なだけ。

　あ、誤解して欲しくないのは、僕自身そう思ってるわけではないですよ。そもそも上記の現状認識自体、本当にそうかどうか保留してます。たとえば、ゆとり教育によって実際に創造性あふれる人材が育ってるかもしれないし、創造性が「あふれ」はしないまでも、のびのびとした人格が作られているのかもしれないです。自由は常に両面性をもっており、良い方向にも悪い方向に向かう。格差社会だ、下流社会だと言われながら、将来的に起業を考えている若い人は昔よりはずっと増えているでしょう。そもそも何回かにわけて書いているように、「下流社会」なのかどうかはやや疑問があります。僕の実感としては、これも何度か示唆しているように「視野狭窄社会」「ヴァーチャル社会」って言った方が収まりがいいです。

　ま、僕の意見はともかく、「ブタにはムチを」と言わんばかりの規制が増えているなあって思いました。また、国民もそれを支持しているような気もします。というわけで、それを感じ入った写真を。


　写真右は、秋葉原路上で撮影した「千代田区路上全面禁煙」の告知板。「おおっ」と思わず撮ってしまいました。

　オーストラリアは喫煙に関しては日本よりも厳しいです。ヒステリックなくらいで、公共の建物は問答無用で全面禁煙です。レストランもダメ。パブもそうなるといって、パブ組合と政府が喧嘩してます。「あれだけ簡単にマリワナとかゲットできるくせして、なにが禁煙だよ、偽善者め」 という気もしますが、一様に厳しいです。でも路上禁煙という規制はないぞ。カフェテラスなんかでも禁煙はＯＫ。だって、屋外だったら煙がこもることもなく、副流煙や間接喫煙の害も薄いからです。

　なんでまた路上を全面禁煙にしなくてはならないのか？ですが、考えうる理由は二つあります。�@他者の健康被害、�A吸殻（ゴミ）です。しかし、�@の点は、人々の密集度が高く、換気の悪いところだったら（つまりは屋内や地下鉄駅構内）わかります。また屋外でも信号待ちする場所とか、広場とか人々が立ち止まってしばらく佇むような場所はわかるけど、それ以外の場所まで禁煙にする必要は無いのでは？少なくとも深夜２時とか、僕がこの写真を撮った早朝6時とか、半径100メートル以内に自分しかいないような状況だったら、明らかに不要でしょ。また、駐車違反のように平日の何時から何時まではダメとか時間制限にしたって良いではないか。

　�Aの吸殻ゴミ問題については、それは「捨てるな」という規制の根拠にはなっても、「吸うな」という根拠にはならないでしょう。こうやって一歩遡った段階まで地曳き網のように規制の網を広げることには、原理的に疑問があります。でも、よくあるんですよ、このパターン。高校生のバイク事故が問題だから、バイクを買わせない、さらには免許を取らせない、いわゆる「３ない運動」とかね。この理屈でいけば散歩中のペットの糞が問題だったら、一歩さかのぼってペットの散歩の禁止になり、さらに遡ってペットを持つこと自体を禁止しましょうとか。どんどん広がりかねない。規制というのはどこかに誰にでもわかる歯止めをかけてないと、幾らでも広がる性質を持ちます。

　「原理的」というのは、これは法哲学とか近代法思想の小難しい話になっちゃうんだけど、「〜してはダメ」という規制（禁止規範）は、基本的に自由への制限になるから、合理的な理由がある場合に限られるべき、必要最小限度に留められるべきだという原則があります。安易な過剰規制、前段階規制は、取り締まる側としては楽チンなんだろうけど、近代法の原則からいって疑問です。LRAの原則なんてのもあります(＝less restrictive alternatives＝より制限的でない他の選びうる手段がある場合はそれによるべきであり、過剰規制は憲法違反であるとするアメリカの憲法判断のルールの一つ）。

　こういう客観的なブレーキをかけておかないと、人間の脳味噌というのはすぐに情緒的にオーバードライブしがちです。近代刑法の歴史はこのオーバードライブにどれだけ制動をかけるかの歴史だといってもいいです。人的違法から行為違法、結果違法へといって、何が悪いから処罰するのかの理由も、ある個別の行為や結果が悪いという具合に特定しないと（殺人とか窃盗とか）、「この人間が悪い」となりがち。例えば、戦前戦後に国家体制を批判すれば非国民だアカだといって処罰され、幼女連続殺人があったらオタク系の人は犯罪者予備軍のように思われ、オタクであること自体が違法のようになる。サリン事件があれば新興宗教信者も準犯罪者扱い、精神障害者の犯罪があればまた同じ、中国人の窃盗団がいれば中国人は全部そうで、ニートの人の犯罪があればニートであること自体が犯罪で、シングルマザーで犯罪があれば、年金生活者の犯罪があれば、、みたいに、人間というのは馬鹿だから、すぐに一括りにしようする。犯罪対策、治安の名のもとに、気に食わない奴、理解できない奴を排除しようとする。要するに法の名の下に差別しようとする。「人的違法」ってやつですな。中世の魔女狩りといっしょ。ワケのわからん奴、キモい奴は「魔女」として火あぶりにして殺しちゃいましょって。二度ともう魔女狩りみたいな馬鹿げたことはやめようと思い、人間の愚かさに歯止めをかけねばと皆が考え、成文法による刑法が出来、一定の犯罪類型と構成要件に該当しなかったら絶対に処罰してはいけないというルールにしたわけです。フォイエルバッハの罪刑法定主義ってやつです。そして、その構成要件も、実際に被害や危険が明白で、行為内容もギリギリまで明快でなければならないとした。何世紀にもわたって人類が一歩づつ賢くなっていったわけで、それを退歩させてしまったら、ご先祖さんのバチが当るぞ。無実の罪で虐殺されてきた人々に呪い殺されるぞ。法学部に入り、先人の智恵を授かる機会に恵まれた人間は、その智恵を人々のために使う義務を負う。公私立問わず、税金が大学に注がれている以上、そこで学ばせてもらった人間はそれを社会に還元する義務を負う。違うか？だから、多少ムキになってでも書きます。これ、変だよって。

　とは言うものの、この看板からうかがわれるものは、そこまで深く実害や危険性をビビットに考えているのではなく、要するに問題は「マナー」なのでしょう。マナーを訴えているだけなんでしょうね。看板に標語が書いてあるように「マナーからルールへ、そしてマナーへ」という、本来はマナーで処理すべきものが、昨今の日本人の公共マナーの低下で処理できなくなっているので、仕方なしにルール（規制）にしましょう、そしてそれが定着したら規制を解除して、再びマナーに戻しましょうってことだと思います。



---



　この路上喫煙禁止の法的根拠は、安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例（平成14年6月25日千代田区条例第53号）にあるのでしょう（特に第21条）。全文を読みたい方は、千代田区のサイトのココを参照。なお、この看板の「千代田区内は路上喫煙禁止です」という文言から、「千代田区の領土は全面禁煙」なのかと思いきや、別にそんなことないようです。「路上喫煙禁止地区」として区長が指定したエリアは、http://www.poisute.com/model.htmlで見ることができますが、皇居を除く千代田区面積の56％でしかないです。日比谷公園から青山通りにかけて、要するに霞ヶ関の官庁街も、国会議事堂や首相官邸など国会議員のセンセイ方の闊歩する永田町エリアも対象外です。大手町から竹橋にかけての証券業界、出版マスコミ業界のエリアも対象外です。一番吸ってそうなエリアだし、一番エラそうなことを言ってそうなこれらのエリアこそ、範を示して率先してやって欲しいものですけどね。

　この条例の前文に、なんでこんな規制をするのかと理由を書いてます。引用すると、「千代田区は、区民とともに、安全で快適な生活環境を護るため、ごみの散乱防止を始め、諸施策を実施してきた。しかし、公共の場所を利用する人々のモラルの低下やルール無視、マナーの欠如などから、生活環境改善の効果は不十分である。生活環境の悪化は、そこに住み、働き、集う人々の日常生活を荒廃させ、ひいては犯罪の多発、地域社会の衰退といった深刻な事態にまでつながりかねない」とのことです。

　なにやら、行政当局の本音というか、悲鳴のように聞こえます。「そりゃ今まで散々色んな努力はしたさ。でも、やってもやっても、こいつら全然改まらないじゃないか？それどころか年々滅茶苦茶になってきてる。もう、マナーや良心に訴えたって無駄なんだよ、無駄！こいつらにそういう神経や感性なんかないんだよ。」という。そして、勿論明記はされていないけど、心の底で叫んでいる声を僕なりに翻訳すれば、「ブタを黙らせるのはムチしかないんだよ！」ということなのでしょうか。

　この条例などで規制されている行為は、例えば秋葉原の情報サイトでコンパクトにまとめていてくれてますが、列挙してみると、「公共の場所での空き缶・吸い殻等のポイ捨て、置き看板類の放置等、チラシ・パンフレットの散乱、落書き、犬猫のふん等の放置、善良な風俗を害する活動、路上喫煙」などです。

　公徳心ゼロの連中が大挙してやってきて自分の街を汚しまくられたら、誰でも腹が立つでしょう。特に千代田区や僕が昔住んでた中央区などは、昼間の人口100万人夜間人口5万人とか言われ、正真正銘の「住人」なんて一部。区民税や地方税を払ってる人なんかごく一握り。住民の数十倍の人々がなだれこんできて、さんざんゴミを散らかし放題にして、その後始末は地域住民というのは、たしかに腹に据えかねるものがあるでしょう。これはもう有名観光地や海水浴エリアの住民の苦悩と同じ事で、ゴミ散らかしてる「よそ者」がいたら問答無用で射殺したくなるくらい腹が立つとは思う。わかるぞ、その気持ち。



---


　しかしね、と、まだ僕は思ってしまうのでした。そんなこといったらオーストラリアだって結構ひどいよ。シティとか、繁華街とか、深夜になったらゴミなんか散乱しまくりですわ。割れたビール瓶の破片とかね。世界の観光地なんだから、しょうがないよね。キングスクロスの公園の片隅なんか、ドラッグの注射針が沢山落ちてたり、異様に小便臭かったりするもんね。でも、そのために殆ど毎日清掃が入ります。もう「そーゆーもんだ」ということで、当局は徹底的に清掃します。上記の行為も、その殆どがゴミ関係でしょ？だから、徹底的に掃除をすれば物理的には問題は解決するでしょう？意外なんだけど、オーストラリアのトイレは結構きれいなところが多いし、トイレットペーパーも大抵は常備されてます。「紙が無い！」って事態には滅多に遭遇しないです（今記憶をよみがえらせても13年の滞在経験で一つも思い出せない）。空港のトイレなんかも、よーく注意してみたらいいですけど、掃除の予定表と実行者のサインをする紙が貼られていますが、あれをみると一日に10回くらい掃除してます。

　このあたりに日本人と西欧人の発想の違いがあるんだろうなって思うわけです。既にオージー化が激しい僕の発想でいうと、社会の中に一定の割合でゴミを散らかしたり、公徳心に欠ける人間はいます。だから、これは気候とか天災みたいな自然現象です。雨が降ったら傘をさせばいいのと同じように、汚す奴がいたらきれいにすればいい。そんなことでイチイチ腹は立たない。なぜか？というと、「世の中にはいろんな人がいるから」です。200以上の民族がおり、民族の中には衛生観念が違う人だって居ます。早い話が中国とかインドとかいったら、そのへんの道端に人糞がころがってたり、列車の通路で子供がオシッコしたりとか、そういうエリアもあります。彼らにはそれが当たり前であり、そんなもん、何が正しくて何が間違ってるかなんて議論したって、百年たっても決着はつかない。ましてや観光都市です。説諭しようと思ったって明日になったら相手は帰国しちゃうもん。そしてまた毎日毎日数万人規模で世界各地から押しかけてくるもん。だったら、ちゃっちゃと掃除しちゃえばいいじゃんという。

　でも、日本人はそうは考えられない。日本は事実上単一文化、単一民族ということもあってか、他人が自分の考えと違うことしてると、とりあえずすごく腹が立つ民族なのでしょう。それがいい／悪いではなく、それは僕らの特徴ですよ。「他人は他人」と達観できない。もっともオーストラリア人だって、「オーストラリア人にあるまじき」という"unaustralian"という新しい形容詞がここ十年くらいのうちに流行ってて、感性が日本人みたいになってたりして面白いのですけど、それでも「他人は他人」「世の中には違う人がいて当然」「馬鹿がいても当然」という世界観でいます。ちなみに、だからこそ死刑制度はなく、誰も死刑復活を言い出さないのでしょう。そういう奴がいることは、もう自然現象みたいなものでしょうがないことだという。日本人ほど激怒しない。

　でも、オーストラリア人ってそんなに激怒しないけど、やることはやるんですよ。日本人は、「嘆かわしい」と怒って、ブチブチ不満述べて、それで終わりでしょ。何もしないでしょ。ポイ捨てしてる人に注意することもしない。他人に話し掛けない。眉をひそめて遠くから見て、でも何もしない。オーストラリア人はそんなに怒らないけど、物理的に改善できるところを探してチャッチャと改善していきましょうという発想になる。誰かがイケナイことをしてたら、別に怒りもせずに、"Hi, Mate!"っていって注意します。僕も先日、標識を誤解していて駐禁時間に路駐してたら、"Hi, mate, you can't do that"って声をかけられました。怒ったり、嘆いたりはしないけど、声はかけるんだわ。でも、その方が問題解決にははるかに有効じゃないですか？



---


　日本と同じような問題はオーストラリアにもあるけど、日本のように「マナーからルールへ」とはあんまり考えない。そもそも「マナー」という言い方も発想もあまりしません。あるとしたら、時々「ゴミはゴミ箱に」という意味の標語として、"Do the right thing"ってのはあります。「正しいことをしなはれ」ってことで、それがマナーだよという言い方はしない。ちなみに「マナー（manner)」はれっきとした英単語ですが、実際にはそんなに使いません。日本人の方がはるかに頻繁に使いますね。携帯のマナーモードとか。そもそも”manner”の第一語義は、「方法」「形式」という意味で、マナーリズム（形式主義）が日本で訛ってマンネリズムになってるように、「型」「手法」というの意味で使われる場合が多い。"in a manner of speaking"というイディオムは時々使われますが、この意味も「喋り方の行儀作法」という意味ではなく、「ある意味では」って意味です。「そういう言い方もできるね」みたいな感じです。

　日本の場合に比較して、オーストラリア的な問題に対するアプローチは、実害はなにか？それを防止するにはどうしたら最も効率的か？って発想でいきます。すなわち、�@まず他人の立居振舞などやあんまり細かい事は気にしない（よく考えてみるとそれほど実害があるわけでもないから）、�A目に余るような問題があったら周囲の人間が声をかけて対処する、�B個々人の判断にまかせるべきではないものは法制化する（人目につくところに洗濯物を干してはイケナイとか）、�C一旦法制化されたらそれを守らせるために全員が協力する、という段階的順序を踏んでいるように思います。そこで「マナー」というのがあんまり重視されないのは、マナーというのは各カルチャーと密接に絡み合ってるからでしょう。例えば日本人の家に土足で上がりこむのはどうか、年長の韓国人の前でタバコを吸うのはマナー違反ではないか、ラマダン中の（イスラム教徒の断食）人の前でゴハンを食べるのは悪いのではないかとか、中国人の家庭に呼ばれたらテーブルの上を出来るだけ汚した方がいいんじゃないかとか、ユダヤ教徒の家の場合、ヒンドゥー教徒の場合、、、なんて、考え出したら面倒くさくてしょうがないです。だから、マナーという発想ではなく、「アンハッピーな人がいるかどうか」「どうしたらハッピーになってくれるか」という基準でいくのでしょう。

　�@の細かいことを気にしないですが、タバコのポイ捨てなんか細かいっちゃ細かいです。路上で騒いでる奴がいても、目の前に暮らしてたらうるさいけど、自分の通行人だったら別に多少うるさいくらいで大した実害はない。僕も日本にいるときは、結構同じ電車内の人の立居振舞にイライラしたけど、最近はあんまり気にしなくなりましたね。その代わり、�Aで度を越えたら、以前よりも口に出すようになったとは思います。短い日本滞在で特に口に出さなきゃいけないような事態はなかったですけど、その昔日本に居た頃よりは躊躇わなくなってると思います。

　�Bの法制化ですが、民主主義という概念が日本人の義理人情と同じくらい骨身に染みているこちらの社会では、一旦法制化されてしまったら、絶対従わねばならない。"It's （the) law"で議論終了です。法律が気に食わなかったら改正すればいい。法律で決めたことに逆らうのは、皆で決めたことに逆らうことで、かなり大それたことであり、かなりの人が従うし、従わない人は皆から注意され、ガンガン通報される（�C）。オーストラリアの道路規則では、横断歩道で歩行者がいたら必ず車は停まらねばならない。80キロで走ってても急ブレーキかけてでも停まる。信号があろうがなかろうが停まる。そういうルールなんです。もし、停まらずに走り抜けたら、けっこうな確率でナンバーを通報されるでしょう。オーストラリアの住宅街には信号は非常に少ないのですが、よく信号なしに横断歩道だけ書かれています。信号を設置すると、一機一億円以上するといいます。もし、路上に白線を書けばいいだけだったら、行政コストが大幅に下がります（税金も下がります）。だったら、「横断歩道で歩行者がいたら絶対停まる」というルールを徹底させ、徹底させるうえで市民も協力する（遠慮なくチクる）、そうすれば安く済むわけですね。法を作っても、それを守らせるために市民が協力しなかったら、そんなものは死文であり、気休めでしかない。



---


　 　ひるがえって日本に戻りますが、マナーというものは本来行政当局が旗振ってやらなきゃいけないことなんだろうか？行政はせっせとゴミを回収してればいいんじゃないか。マナーというものがもし必要なのだったら、それは行政にやってもらうのではなく、市民相互の注意でやるべきものではないのか。

　この議論を難しくいうと、パターナリズムといいます。慈父主義とか訳されているけど、政府当局が国民に対して、優しく厳しい父親のように接して、「あれはダメだよ、こうしなさい」と教え諭すことです。こういう発想は、西欧的な価値観でいえば「政府ごときが何を僭越な！」ということで、政府や当局というのは、あくまで利害の調整、物理的な交通整理をすべきであり、それを超えた人間的価値、善悪の判断や指導は、基本的には個々人の問題であり、それは家庭やネイバーや教会の問題であると（公教育は別ですけど）。

　司法試験をやってる人はお馴染みでしょうが、刑法には結果無価値論と行為無価値論の対立があります。犯罪は「悪い」ことですが、「悪い」って何よ？突き詰めたら何が「悪い」のよ？という議論で、結果無価値は、犯罪の結果（被害）があるから悪い、要するに実害が生じるから犯罪は悪いことだとする。行為無価値は、犯罪をする「行為」そのものが悪い、結果は文字通りその結果に過ぎないとする立場です。分かりにくいですか？例えば、暴行傷害なんかでも、結果無価値からは、血が何リットル流れましたとか、骨が何本折れましたという結果の重大性からドライに判断していくけど、行為無価値は「粗暴な振る舞い」「野卑な言動」という行為の良し悪しで判断する。一般感情でいえば、行為無価値の方が馴染みやすいでしょう。しかし、行為無価値には「いい／悪い」の判断を誰がするのよ？国家が国民の行為を採点して、キミは70点とかつけるのか？出来るの、そんなこと？やっていいの？という欠点があります。判断が非常にあいまいだし、恣意的になりがち。戦前の天皇不敬罪のように、天皇陛下の写真の前で敬礼しなかったという、一体何が「実害」なのかわからないような行為も、「そういう行為は気に食わない」という理由だけで犯罪になっていってしまう危険がある。しまいには「目付きが気に食わない」「大会に参加しないのは非国民的だ」みたいにどんどんファシズム的感情的社会になっていく危険があります。それを考えれば、情緒的判断を一旦置いておいて、「血が何リットル」という誰も否定できない客観的なことで決めていくしかないよ、何が正しいか正しくないか、気に食うか気に食わないかなんてのは人それぞれなんだから、という発想になるわけです。

　僕が、千代田区路上喫煙禁止を見て思ったのは、「ああ、行為無価値的だなあ」ってことです。実害がどうのってレベルじゃないな、と。実害（ゴミが増える）だけだったら、掃除を徹底すればある程度解決します。もちろんそこは予算の問題とかありますけど、とりあえずそれは別問題として、タバコやゴミのポイ捨てという「そういう行為」「マナーを守らない行為」そのものが気に食わないし、目障りなんでしょう。先ほどの条例の前文にも、実害らしきものは触れられてますが、「生活環境の悪化は、そこに住み、働き、集う人々の日常生活を荒廃させ、ひいては犯罪の多発、地域社会の衰退といった深刻な事態にまでつながりかねない」ということで、これが「実害」なのでしょうけど、これはいかにも因果関係が遠い。でも、「蟻の一穴」みたいに、どんな些細なことでも芽のうちに叩いておかねば全体が荒廃するってことなのでしょう。でも、それはもう個別的な行為の個別的な結果ではないです。まさに「行為」それ自体を罰しようというものでしょう。

　しかし、何度も言うように、こういったマナー的、行為的、情緒的な部分は、社会が本来もっている「自然治癒力」みたいなもので対処していくのが本道だと思います。行政が税金つかってやるべきことなのか？という。じゃあ、自然治癒力って何よ？といえば、一般市民、つまり僕らの不断のムード作りというか、気合というか、「ああ、汚しちゃいけないな」と普通に思えるようなコミュニティとしてのオーラみたいなものが一番有効なんでしょうね。「なんとなく、そんなことする気になれない」という。

　でも、そんなものに頼ってたら上手くいかないのでしょうね。だから行政当局も苦悩の末にこういう規制を施したのでしょう。僕も批判ばっかりしてるわけではないです。先の千代田区条例をよく読むと、たとえば環境美化のためのボランティアの呼びかけとか（17条）、千代田区一斉清掃の日とか（18条）、いろいろ地道な努力をしておられます。過剰規制だ、行為無価値だという批判は批判としてしますが、そうせざるを得ない当局の苦悩も理解したいとは思います。



---


　問題はですね、日本社会の自然治癒力みたいなものが衰えているってことでしょう。従来の日本人の素朴の感性からしたら、許しがたいような行為、目に余るような公徳心の低下という現実があり、放置しておいても市民相互の盛り上がりでそれが治癒しないのでしょう。そして、その根っこにあるのは、「日本人が知らない人に話し掛けなくなった」ということだと思います。昔の日本は、結構話し掛けてた。他人の子供でも、平気で叱り飛ばしてたし、ブン殴ってもいた。

　ところで、見知らぬ人に話し掛けるのは、結構これで技術が要ります。さりげなく、すっと他人のフトコロに入り込むのは、居合術の立会いのような間合いとか、呼吸とか、そういったものが必要なんでしょうね。練習しないと身に着かないかも。昔の日本人は、日常的に、「お暑うございますな」とか挨拶してたから、そのあたりの練習は十分やってたのでしょうね。他人のモノを注意するときも、空気がケバだたないようなオーラの出し方というのはあると思います。オーストラリア人がやるように、ニコっと笑って、人さし指を立てて「チッチッ」ってやるように。「なあ、それはやめとこうぜ」って。だから、まあ、日本人全体としてのコミュニケーション能力の低劣化こそが問題視されなきゃいけないのかもしれません。柳眉を逆立て、額に青筋たてて、犯罪者の糾弾！みたいに注意されたら、僕でも腹が立ちます。「そこまで言わんでもいいだろうが」「そんな目で人を見るんじゃないよ」って逆ギレしますよ。正義は我にありという独善性オーラに激しく反発しますよ。怒ってるときは注意しちゃダメよ。怒りのオーラが相手に伝染してどんどん場が険悪になるから。だから怒りというエネルギーにかられて行動するのではなく、怒ってないときに注意できるように別のエネルギーがいるのでしょうね。

　上手い具合に皆が気楽に声をかけあってたら、そうそう悪いことは出来ないでしょう。車内暴力でも、傍若無人な振る舞いでも、360度どこから攻撃されるかわからんのだもん。注意してきた一人を撃退しても、後からあとから新手が攻め込んできたとしたら、太刀打ちできるものではないです。それがコミュニティとしての「気合」だと思います。

　しかし、そういう抑制機能としてのコミュニティ圧力が消滅したら、人間も弱い動物だから公徳心も乏しくなるでしょう。というか、コミュニティの一員であるという自覚が乏しくなってきたら、他人の迷惑を考えようとか、他人に思いやりを持とうという気分も薄くなるわね。日本人のマナーは、年々低下しているといいます。しかし、個々的に会う日本人のそれは別にそれほど低下してないし、またこちらでシェアメイトとして日本人が概ね歓迎されていることからして、世界的に見ても、優しく、公徳心のある善良な民族だと思います。それは変わってないですよ。だけど、日本人がその美質を発揮するのは記名的なコミュニケーションの場だけであり、一般公道になると、これが特にコミュニケーションの場であるとは思っておらず、荒野に一人ぼっちでいるのと同じだと思ってるから、その美質を発揮しない。

　「パブリック」という概念をもっと染み込ませるといいんでしょうね。でも、これって明治時代からいわれてますよね。「日本人には”公”の観念が乏しい」「ウチとソトの二元論だけ」とか。自分が批判されるかもしれない記名的なコミュニケーションの場では死ぬほど気を使うくせに、自分が反撃される恐れのない野次馬的立場になると、いきなり愉快犯まがいのヒドイことを言ったりやったりする。日本人じゃなくても人間だったら誰しもそういう傾向があるけど、日本人の場合特に落差が激しい気がしますな。面と向かっては言わないけど、陰でコソコソ言う。それを矯正しようと思ったら、心理学でいう「延長自我」を公共の場にも広げろということですね。世界と自分とをもっとリンクさせろと。もっと「俺の町」って思えと。道行く人を「俺の仲間」だと思え。要するに自我を開放し、「ウチに引きこもってんじゃないよ」ってことですな。

　その昔、パソコン通信で異業種交流フォーラムやってるとき、この種の日本人的な無責任的・通行人的な言動が大嫌いだったから、完全身分開示しなきゃアクセスできなくしたり、無責任な煽りをする人には勤務先まで電話したり、会いに行ったりしてました。「自分の言動には責任を持て」ということです。別に難しいことじゃないでしょ。それが出来ない奴はコドモだから相手にしないか、或いは木っ端微塵にやりこめた。要するに、人垣の後ろの方で無責任に野次を飛ばす奴がいたら、人ごみを掻き分けてもそいつのところにいって、「なんか文句あるか？」とやってたわけです。こじれたら速攻で裁判かけてもいいと思ってました。「コミュニティの気合」ってのは、そーゆーもんだと思いますよ。そういうことって結構エネルギーが必要です。でも、ちゃんとやれば日本人は決して馬鹿ではないから、出来ると思いますし、実際出来ます。
　


---


　ところで、「ゴミなら掃除すりゃいいじゃん」という話に、「そんな金がどこにあるんじゃ」ということですが、いくらでもやりようはあるんじゃないんですかね。例えば、オーストラリアの失業保険は日本みたいに掛け金がいるわけじゃないし、期間制限もないです。その代わり、work for the doleといって、失業保険を貰うためには職安が指示する一定の作業や訓練を受けないといけません。その際に、ボランティアとかコミュニティサービスがあったりするわけです。失業者の人にやってもらうわけですね。あるいは、ホームレスの方々に炊き出しとか、シャワーとか福祉的サービスをする反面、それが受けられるためには一定の作業をやってもらうと。

　タバコのポイ捨てが問題だったら、タバコ税をあげたらいいです。日本のタバコなんか、オーストラリアに比べたらタダ同然に安いんだから、１箱10円でも余分にとったら財源としては十分じゃないですか。はたまた、駅のホームに有料喫煙ルームを設けてですね、ドアのところに十円玉を入れないとドアが開かないようにするとかさ。吸いたい奴は10円払って吸え、と。アイデアなんか幾らでも湧いてくると思うのですが。



---


　最後に実効性の問題ですが、路上禁煙にしたからといって、吸う奴は吸うでしょう。そんなの全然お構いなし、気にしない人だっている。罰則制定（過料2000円）だそうですが、実際に罰則を適用する方法があるのでしょうか？Law enforscementです。規制というのは、上記の�Cのように、設けた以上は徹底的にこれを実施すべきです。ポイ捨てのタバコに付着した唾液のDNA鑑定をしてでも、違反者を逮捕すべきでしょう。鑑定費用は本人に払わせたらいい。24時間監視カメラを設置し、違反者の顔写真や画像をインターネットにすべて掲載して晒しものにするとかさ（クレジットカードなどで過料を払ったら即刻削除出来る）。いい歳入になるよ。

　最近のAERAに、高速道路の通行料を払わないで通り過ぎていく車が激増しているという記事がありました。しかし、数千、数万というオーダーでありながら、実際の逮捕者は数名レベルであるという。

　こーゆーのも一つの問題だと思います。規則を作る以上、それを守らせる方法を徹底しなければならない。僕は路上喫煙禁止には反対だけど、それが千代田区議会で民主的手続きを経て制定されたのならば尊重します。疑問のある規制ではあるが、規制である以上、ガンガン取り締まって欲しいと思いますね。　



---


　総じて言えば、オーストラリア的な発想からすれば、よう分からん規制ではあります。規制根拠や実害性に疑問（１）があるし、過剰規制である法原理的な疑問（２）もあるし、マナーという文脈で考えることにも疑問（３）はあるし、官公庁と国会、さらに大手町から竹橋という金融、出版マスコミエリアは除外という「強い奴は除外かよ」というエリア選定の疑問（４）があります。さらには違反したからといってさしあたってどうやって罰則適用されるのかが分からない点で疑問（５）であり、結局こういう規制をちゃんと守る人は最初からそれほど迷惑行為をしないんじゃないか、一番守って欲しい迷惑行為をする人は全然気にしないじゃないか、だから全然実効性なんかないんじゃないかという根源的な疑問（６）があります。

　でも、これだけ疑問だらけでありながらも、業を煮やして何らかのアクションに出たという行動、社会に一石を投じるという意味は評価したいと思います。それが本道でなかったとしても、何もしないで「最近の日本人は」とブチブチ言ってるよりは、何かをした方がいい。そして「マナーからルールへ」のあとに「そしてマナーへ」とくっつけた部分、「本当はこんなこと規制したくはないんだ、早く本来の姿に戻そう」というメッセージ性は評価します。大衆を愚民、ブタ並に扱うことへの苦渋が感じられますからね。




---


　いかん、写真一枚で一回分終わってしまった。あと80枚くらい写真があるんだけどな。


　上の二枚の写真は、同じように、「アレしちゃダメ、コレしちゃダメ」という過剰規制JAPANの写真です。
　左の写真は小田急線のホーム、右の写真はファミレスのテーブルの上の写真です。
　実家にあった携帯電話をちょっと借りて持ち歩いてましたけど、やれ公共交通機関に乗れば電源を切れとか、マナーモード（不思議な和製英語だ）にしろ、挙句の果てにファミレスに入っても使っちゃダメとか言われて、結局どこで使えばいいのよ？ってな感じでした。いちいちマナーモードからもとにもどすのが面倒で、つい忘れてしまい、ずーっとそのままだったりして。だから、皆さん携帯メールを打つのでしょうが、あんな面倒くさいことよくやるよなって思いますよ。喋った方が早いじゃん。

　携帯規制の理由は、これも二つ。�@うるさくてハタ迷惑、�Aペースメーカーをつけている人とか、電車、飛行機、病院などの機材への悪影響ということでしょう。�Aの問題ですけど、これは技術的に解決できないのかね？周波数帯とか、スクランブルかけるとか。その対策が十分に出来るまで発売させたらいけないのではないか？だって、前に述べたように、いっくら規制をかけたって、破る奴は破るよ。他人の白い視線の集中砲火を浴びても、ぜーんぜん気にしない人だっている。あからさまにヤクザ風の風体をしてたら、逆に皆も押し黙って下を向くだけでしょ。破っても直ちに処罰されるわけでもない。つまり実効性の保証がないんですよ。だったら、人々の良識に期待するという戦略は、どっかで必ず破綻するという前提で物事を進めるべきではないか。つまりは、携帯販売の禁止、あるいは支障のない技術革新。それを促すために、もしユーザーの携帯使用によって、飛行機が落ちたり、病院の手術がダメになったり、ペースメーカーの人が発作を起こしたりしたら、携帯会社とメーカーは連帯して賠償責任を負うみたいにしたらどうスかね？こうしたら必死に技術開発するんじゃなかろか。そんなヒステリックにダメダメいって規制カマしたって、本質的には気休めでしょ。実効性ないんだから。

　�@のうるさくて迷惑というのもありますが、10秒、20秒くらいの会話だったらうるさくもないですよ。「あ、もしもし、お母さん。今電車。あと５分で駅だから。うん、よろしく」くらいの会話が許されない理由はないと思うし、それほど迷惑だというなら、公共交通機関内では一切私語禁止、発言禁止にすればいいです。過剰規制なんだわ。その昔、携帯電話（といってもショルダー形式でクソ重い初期ヴァージョン）が出始めのバブルの頃、携帯をもってるのがステイタスだったから、新幹線の車内で不動産業者らしいオヤジが金鎖ジャラジャラ言わせながら、大声のダミ声でくっだらないことを延々喋っていました。確かにうるさい。というか、「うるさい」という音量デシベル的な問題じゃないんだよね。うるさいだけなら同行者との会話もまたうるさいでしょうけど、それは規制しないんだから。そーゆーオヤジの存在自体がうざったいんですよね。人的違法だわ。存在違法(^_^)。




---



　問題の所在はどこにあるのか？といえば、これも同じことで、要するに他人に気楽に声をかけられないんだわ。相手を怒らせないように声をかける技術が不足してるんだわ。逆ギレされてボコられるのが恐いんだわ。うかつに声をかけてトラブルに巻き込まれるのが恐いんだわ。

　その気持ちはわかります。僕だってそう思うよ。だけど、敢えて言います。見知らぬ他人に気楽にコミュニケーションをとれない社会は、社会それ自体としてどっかしら病んでます。いくら逆ギレされようとも、その場に居合わせた十数人以上の人が一気に立ち上がったら、大抵のトラブルは収まる。少なくとも、自分自身が体格や腕力に恵まれていたり、格闘技をやってたりするならば、そうそう滅多なことで負けはしないでしょう。弱い人のために、強い人がやってあげればいい。このように、人と人との間で、ごく自然に連携したり、結びついたり離れたり、有機反応が出来ない人の群れは、それは人間という個体が多数いるだけのことで、それを社会とは呼ばないです。

　だから、まあ、個々人が強くなれってことなんでしょうね。気合入れなはれと。考えてみれば、日本人というのはいつのまにかなんでも他人にやってもらおうとする怠惰なクセがついてしまってます。「お父さんに言って叱ってもらいますからね！」なんて言わずに、自分で叱れよ。「先生に言ってやる」とか、とかく「言いつける」前に自分で出来ることは自分でやれと。「教育委員会に通報します」とか言わずに、まず自分で主張しなさいよ。なんでも当局に頼ろうとするから、千代田区が苦慮してあんな政策を打つわけですよ。コドモがなってないといえば、やれ教師や学校のせいだ、家庭のせいだとか、マスコミやマンガのせいだ、政治のせいだとか、気楽に誰かに何かをやってもらおうとするな。他人のせいにしようとするな。もっともっと自分で出来ることはあるはずです。

　それが嵩じて、他の国の連中は気楽にカバンぶらさげて海外旅行に行くのに、いつまでたってもパックツアーで旗に先導され、自分の足と頭で歩こうとしない。ヨーロピアンのバックパッカー連中が、シドニー空港に着いてから、「さて」とアコモデーションパネルで今日の宿を取ったりしてるなか、日本で全てをアレンジしないと不安で不安で仕方がなく、挙句の果てに数十万もつかって現地サポートとやらを頼もうとする。なんでも他人にやってもらおうとする。老いも若きもヒヨワ過ぎちゃう？ヒヨワな人間が、自立成熟をモットーとするこの国に来ても、グチャグチャにプライド傷つけられて、自爆して、ひきこもるのがオチですよ。日本人同士かたまって、ホームステイや学校のブチブチ悪口言い合ってるのが関の山。来る意味ないですよ。

　この日本の過剰規制を求めているのは、ほかならぬ日本人でしょう。自分らの自由を犠牲にしてもいいから、他人に何かをして欲しいのでしょう。これやってると、ものすごいコストがかかるよ。ただでさえ財政破綻してる日本国で、そんな贅沢許されないんじゃないの？




---



　もう一つ、「困ったちゃん」にその場で注意できない弱さは、困ってる人を助けられない弱さとしても現われます。重い荷物持ってる人とか、プラム（ベビーカーのことね＝これも和製英語）を押して階段で立ち往生しているお母さんとか、もう放置されちゃうもん。オーストラリアで子育てをしているお母さんたちが日本に子連れで帰国するときは、「日本だからねー、気張らないとね」「誰も助けてくれないからね、あそこは」と気合を入れあってたりするといいます。なんで助けへんの？ボケっと見てねーで、手を貸してやれよ。

　オーストラリアで、ここ最近僕がお世話した方の話ですが、明らかにラリってるジャンキーっぽい人がいたそうです。「わあ、こんな人もいるんだ」と思って見てたら、老人か誰かが道を横断しようとするのを、そのジャンキーっぽい人が出て行って、車をとめて渡らせてあげたそうです。またシティあたりに、よく１ドルちょうだいっていう物乞いみたいな人がいます。街中でシェアの電話がかかってきて英語が全然わからず立ち往生してた人が、話し掛けてきたアル中っぽいおばちゃんにいきなり携帯電話を渡して「何言ってるか聞いて！」ってお願いしたら、真剣に聴いてくれ、道順まで紙にメモしてくれたそうです。要するにジャンキーだろうが、物乞いだろうが、困ってる人がいたら助けるんですわ。勿論全員が全員そうだというつもりはないけど、あんまり気にせず人を助けるのが当たり前って感じです。

　だから、楽チンなんですよ、ここは。路上で車がエンコしてたら、周囲の車が止まって一緒に車を押してくれるし（僕自身も何度押したか）、駅の階段で重い荷物をもって困ってたら誰かが助けてくれるし、乳母車も持ってくれるし、バスの乗り降りでもなんでも、誰かがほぼ必ずといっていいくらい助ける。もう、日頃から虎視眈々とチャンスをうかがっているんじゃないの？と思うくらい、行動に移る時点での躊躇いがない。「あ」と思った一秒後にはもう身体が動いてるくらいの反応速度の速さがあります。

　それに、上記の写真左をよくみると、「ベビーカーをご使用になるお客さまは、他のお客さまの迷惑にならないよう十分ご注意ください」なんて書いてあるけど、そこでいう「迷惑」って具体的にどういうことなんだろう？ベビーカーのためにスペースを取ることが「迷惑」なんだろうか？だったらベビーカーで電車に乗るなと言ってるに等しいじゃん。それとも満員電車にベビーカーで乗り込むこと自体が迷惑なのだろうか。だけど、これを迷惑だと思うべきではないよ。乗ってきたら皆でスペースを作って、赤ちゃんに手を振るくらいのことはしてもいいでしょう。もし、仕事が忙しく、ストレスがたまってそれどころではないとか、「あーもー、鬱陶しいな、常識ねーな、混んでるときに乗ってくるんじゃねーよ」くらいに思ったら、そのくらいのことも許せないくらいストレスたまってるということです。そんなにストレスためなきゃ生きていけないのだとしたら、もしかしたら、あなたは人生の組み立て方が下手糞なのかもしれないよ。生き方を真剣に考えてないんじゃない？なんとなく生きてるから、異様に割の悪いパターンにはまって、大変な目にあってるんじゃない？ちょっとはそう思った方がいいですよ。

　最近僕のところに来る人達は、着いてからいきなりシェア探しをする人が多いです。いいことだと思ってます。何がイイコトなのかというと、シェア探しの２−３日の間に、十数回、多い人で数十回周囲のオージーに助けられるからです。道に迷ったといっては助けられ、バスが分からないといっては助けられるからです。そのような経験を通じて、この社会はそういう社会なのだということを身体感覚で理解できます。これがその後どれだけ役に立つか。あるいは治安やリスク管理にどれだけ役に立つか。また、「見知らぬ他人に話し掛けてもいいんだ」「話かける方が当たり前なのだ」ということで、これまでの日本的なノリを一掃する点でも有用です。

　しかしね、困ってる人を助けるなんてのは当たり前のことで、この当たり前のことを学ぶためにわざわざ外国まで行かねばならないってのはどうよ？って思いますです。なんか変だよね。

　もっとも、最後に付言しておきますが、日本人同士けっこう助けてますよ。僕が滞在するたびに思うのですが、口出ししなきゃいけないような場面に遭遇することはマレ、というか皆無である反面、人と人とが気持ちよく助け合ってるシーンには何度も出くわしました。だから、結構「いい社会」なんです。自信もちゃいいのにって。

　だから、本当の問題は認識の問題なのかもしれないなって思いますね。つまり、10回体験して、９回は心温まるいい体験で、１回イヤな体験をした場合、この社会の認識は「９０％良くて１０％ダメ」となるべきでしょ。でも、その１回のイヤな体験が尾をひいて、実際の割合以上に世の中を暗く感じさせるのだとしたら、それこそ問題だと思うわけです。「認識の問題」ってのはそういうことです。実際、10日前後、日本全国あっちこっち歩き回ったですけど、「ああ、やだな」と思うような場面にはほとんど遭遇しなかったですよ。規制しなきゃいけないほど、イヤな人間が沢山いたわけでもない。というか、殆どいなかった。なんか、俺には優しい人たちが気持ち良く暮らしてるように見えるんだけどな、そんな嘆いたりしなきゃいけないような社会のようには思えなかったんだけどな、と言っておきます。僕のガイジンの目にはそう映ったよ。



文責：田村

---

★→APLaCのトップに戻る
バックナンバーはここ