オーストラリア医療・看護 豆知識

ワンポイント 英語レッスン






マティがオーストラリアで初めて病院実習に行ったとき、一番情けなかったのは英語が話せないことだった。物品の違いや薬の名前が違っていることに戸惑いはあるが、バイタルサインのチェックやADLの介助、症状の観察などは、日本で経験していればできる。つまり看護の基本は同じなのだ。

ところが、この基本看護に手を出すことができなかった。「朝御飯が来るから座らせてあげますね」とか「背中をふくので向こうをむいて下さい」というほんの小さな日常で使う英語表現がわからなかったからだ。看護学校1年生の何の経験もない学生がスタッフと冗談を言って笑っている中、英語が話せないため、どんなに悔しい思いをしたか知れない。それでここでは、難しい医学用語や看護用語ではなく、日常で使う言葉を紹介します。





英語レッスン No.1

何といっても人間にとって一番大切な生理現象の一つは「排泄」です。
尿は Urine ですが、「おしっこ」「お小水」といった表現はなんというのでしょうか?
実は'Water'なのです。「おしっこ(お小水)をする」は、Pass water です。


When did you pass water last? 
最後に排尿したのはいつですか?

Have you past water?
お小水してきましたか?

Do you have any problems in passing water?
排尿障害がありますか?





英語レッスン No.2

次にでてくるのはやはりお便ですね。
Stoolは糞便、腸排泄物を表しますが、病院で使うことはほとんどありません。
「便」は feces,(faeces) を使います。検便は faecal specimen です。



Dr Smith has ordered to get a faecal specimen from Mr Brown.
スミス先生がブラウンさんから検便を取る指示を出しました。


では、患者さんに今日お便がありましたか?は何というのでしょう?
「排便する」は、Use bowels つまり’腸を使う’という表現をします。
ですから「今日、排便がありましたか?」は 
Did you use bowels today?
となります。



英語レッスン No.3

病院の中では驚くほど沢山の略語が反乱しています。「いったいこれは何なのか?」頭の中はチンプンカンプン。これがオーストラリアで看護婦として働く自信の喪失につながった理由の一つになりました。今、自分が実際に使ってみると便利ですが、最初は覚えるのが一苦労でした。

さて、検温板の後ろをみると、BO、BNO、BWO という言葉が目に付きます。これは何を指すのでしょう?



次に水分出納表をみると、HV、HNV, VIT という略語がでてきます。



Mrs A has not voided post-ope.
Aさんは術後の排尿はまだありません。

Mr K walked to the toilet and voided.
Kさんはトイレまで歩いていって排尿しました。


ちなみに水分出納表は FBC=Fluid Balance Chart と呼びます。

ところで心臓病や心不全を持つ患者さんはよく飲水量の制限があります。これは Fluid Restriction です。


Mr M is on a fluid restriction of 1.5 L per day.
Mさんは飲水制限1日1.5リットルです。

Fluid restriction 1.5 L continues.
水分制限1.5L継続。


看護記録に書く場合は出来るだけ簡潔にするため、冠詞など省力されます。

排尿、排便の次は排ガスです。腸内ガスのことは Flatus といいます。


Miss B has past flatus post-ope.
Bさんは術後排ガスがありました。


さて検温板の後ろには
と書かれます。

でも患者さんに向かって腸内ガスがでましたか?とは聞きません。排ガス、おならをするは 'pass wind' 風が通るという表現を使います。


Have you past wind?
排ガスがありましたか? 






英語レッスン No.4

よく患者さんが訴える症状に吐き気があります。
吐き気は nausea です。これは名詞です。


I have nausea.
吐き気がします。



しかし患者さんが nausea という言葉を使うことは滅多にありません。
一般の人は feel sick という表現を使います。


I am feeling sick. /I am sick.
吐き気がします。



ですから Mattieが患者さんに「吐き気がしますか?」と聞く時は、
Are you feeling sick? 

時々、queasy という言葉を使う人もいます。



I feel queasy. / I am queasy.
吐き気がします。



なぜかわかりませんが、この言葉を使うのは若い男性患者さんに多いようです。

nausea の形容詞は nauseous です。


Mrs. Hall has been nauseous all this morning.
ホールさんは午前中ずっと吐き気がありました。



次に 吐くは vomit です。


Miss Hill vomited twice this evening.
ヒルさんは今晩2回嘔吐しました。

I started feeling sick and vomited my breakfast. 
吐き気がしてきて朝食を吐きました。



患者さんの中には throw up を使う人もいます。


I threw up all my food just now. 
たった今、食べ物すべてを吐きました。



次にから吐き、つまり胃の中はカラッポで何も吐くものがないのに、むかつきゲーゲーとこみ上げてきて吐きそうになることがあります。
これは retch という表現をします。


Mr Taylor hasn't vomited but she has been retching.
テイラーさんは吐いてはいませんが、から吐きしています。



患者さんが、嘔吐せずに水分や食物を摂取できている時、Tolerate という表現を使います。


Mr Comb is tolerating sips of water.
コムさんは数口の水を摂取しています。



さて、食べ物は一般に food, 飲み物は drink ですが、医師や看護婦が病院内で使う時は dietfluid を使います。


Mrs Comb has been tolerating diet and fluids well.
コムさんは食事も水分もよく摂取できています。



Fluid を単数形でなく fluids と複数形で使うのは、一種類の水分だけでなく、何種類もの水分を取ることが可能だからです。つまりコムさんは、水もジュースもスープも…と色々なものを飲めているのです。


Dr Smith put Mrs. Lee on clear fluids only.
スミス先生はリーさんにクリアー水分のみ摂取可にしました。



さて、このクリアー水分というのは、牛乳やネクターなどのジュース類を除いた飲み物のことで、例えば具の入っていない透明なコンソメスープ、ゼリー、ミルクなしの紅茶やコーヒーのことを言います。


Mrs Lee is on free fluids.
リーさんは水分摂取自由です。



free fluids は あらゆる水分摂取可能という意味で、ポタージュスープやミルク製品、アイスクリームも摂取OKです。
*ゼリーやアイスクリームは水分とみなされ、水分出納表(FBC: Fluid Balance Chart)に記入されます。


Mrs Lee has been on the ward diet since this morning.
リーさんは今朝から一般食です。



Wardというのは病棟という意味ですが、ward diet というと一般食の意味になります。

患者さんが、何か症状を訴えている時は、complaining of ***** を使います。


Mrs Hall is complaining of nausea.
ホールさんは吐き気を訴えています。

Mr. Waddy has been complaining of nausea but he is tolerating small amount of light diet and fluid.
ウォディさんは吐き気を訴えていますが、少量の軽食と水分を摂取しています。

Mrs. Hall was nauseous and did not tolerate any diet or fluid this morning but she is now tolerating small amount of ice chips.
ホールさんは吐き気があり、午前中は水分・食事は一切摂取できませんでしたが、今は少量の氷片を摂取しています。

Dr Smith, Mr. Bill is vomiting. I would like to get an antiemetic order please.
スミス先生、ビルさんが嘔吐しているので、制吐剤の指示をお願いします。



Antiemetic は 制吐剤を意味します。



Dr Smith, Mr. Bill is complaining of nausea and he is not tolerating any diet or fluids. Could I have an antiemetic order please?
スミス先生、ビルさんが吐気を訴えていて、水分も食事も摂取できていません。制吐剤の指示をいただけますか?







英語レッスン No.5

患者さんが亡くなり、家族や葬儀屋へ電話連絡をしなくてはならず焦ったことがあります。
死ぬは Die これは多くの方がご存知でしょう。Mattieもこの表現しか知らず葬儀屋へ電話をしたら「エッ」と聞き返されたことがあります。

Die を使うことは間違いではないのです。でも家族や医師に死亡の連絡をする時には、Pass away という表現のほうがいいようです。これは「***さんが死にました」と直接的に言うのと「***さんが亡くなりました」という違いかな? と色々聞いているうちに Mattie自身は解釈するようになりました。

過去を回想して話す時は、die でいいのです。


Mrs Shepard died from cancer. 
シェパードさんはガンで亡くなりました。

My father died from stroke. 
父は脳卒中で亡くなりました。

Mrs. Edward,I am very sorry but your husband passed away just now.
エドワードさん、大変お気の毒ですがご主人がたった今お亡くなりになりました。

Dr Brown, Mr. Edward passed away 5 minutes ago. Could you come to the ward and write a death certificate please.
ブラウン先生、エドワードさんが、5分前に亡くなりました。病棟へ来て死亡診断書を書いてくれませんか?



a death certificate は「死亡診断書」を意味します。





英語レッスン No.6 「I love you」

病院で使われる英語のなかに何で「I love you」が出てくるの?と誰もが思っているでしょう。でもこの言葉,病棟で本当によく聞く言葉なんです。
「I love you」といえば誰もが男女間で愛を伝える言葉と思うでしょう。恋人どうしや夫婦が「愛している」と伝える言葉…私自身もずっとそう思っていました。

ある時、午後の検温に行ったら若い患者さんが奥さんと電話で話していて、「ナースが来たからこれで切るよ。I love you」と目の前で言ったのには、こっちのほうが照れてしまった経験があります。またある時,看護婦の一人が病棟の電話で彼と話していて、Drやたくさんのナースに聞こえるのに「I love you」と言って電話を切ったのも,私にとっては「よく恥ずかしくもなく人前で言えるものだ」と感心してしまったものです。

気がついてみると多くの看護婦が夫や恋人に電話をして切る前に「I love you」と言っており、オーストラリア(たぶん西洋の国一般でしょう)では人前で「I love you」を言うことは全く恥ずかしいことではないのです。堂々と愛の言葉を伝えているだけなのにして何が悪い?という感じです。そしてこれはもう一つの挨拶の言葉のようにごく日常で使われる言葉なのだと思うようになりました。

私の場合は病棟から夫へ私用電話をすること自体あまりないのですが,ある時何かの用事で電話をして,用件だけ言って「じゃあね。」と日本語で言って切ったら,側で聞いていたナースに「なんてそっけないの?」と驚かれたことがあります。でもこれは文化なのです。私は,そして私の育った文化は人前で「Ilove you」とは言わないし言えないのです。

ところで「I love you」は男女間の愛を伝えるためだけに使われる言葉ではありません。家族の間での愛情表現にもごく一般に使われています。例えば,お母さんが幼い子供に,おばあちゃん・おじいちゃんが孫に、娘がそのお父さんまたはお母さんに…・もちろんその逆も含めてよく聞かれます。ですから、旅行中に「I love you」と言っているのを聞いたから,あれは恋人どうしかな?とか、年が違いすぎるけど夫婦間かな?とか勝手な憶測はしないようにしましょう。





英語レッスン No.7 申し送り

その日の勤務を始める前に患者さんの状況を次の勤務者に伝える「申し送り」はオーストラリアのどこの病院でも行われています。

申し送りは Hand Over と言われます。この「ハンド」とは自分の手にたくされていた業務のことで、つまり「業務を譲り渡す・終える」という意味です。


We normally start hand over at 2:30pm for afternoon shift. 
準夜勤務の申し送りは普通2:30pmからです。

The hand over takes about half an hour. 
申し送りは30分位かかります。

Dr May: Do you know about Mrs. Sounder’s pain?
Nurse A: The night staff handed over that Mrs. Sounder had persistent pain over night and did not sleep very well last night.

ドクター メイ:ソンダ−さんの痛みはどうかわかりますか?
ナースA:夜勤看護婦が、ソンダ−さんは一晩中、執拗な痛みがあってあまりよく眠らなかったと申し送ってました。

Morning staff handed over that we need to order some medication from the chemist.
日勤看護婦が薬局から薬をオーダーするよう申し送りました。



Medication は薬,薬剤です。
日本ではよく Drug という言葉を使いますが,海外では Drug はマリファナやその他の麻薬類(病院で痛み止めとして使われる麻薬ではなく,一般社会で悪いことで使われる薬)をさして使われています。使い方には気をつけましょう。



Nurse A: Did you hand over that Miss James’s diuretic was ceased?
Nurse B: Yes, I did.
 
ナースA:ジェームスさんの利尿剤が止まったこと申し送りましたか?
ナースB:はい,申し送りました。



Diuretic は 利尿剤のことです。
薬や処置が止まった時、cease という動詞がよく使われます。


多くの病院では日本と同じように3交代勤務が取り入れられています。




What are you on Monday?
月曜日は何勤務ですか?

I am on an early (shift) on Monday.
月曜日は日勤です。






英語レッスン No.8 「薬を飲みます」

「薬」は、手持ちの旺文社和英中辞典に、調合済みのものを「a medicine」、未調合のものを「a drug」とでています。しかし、実際に病院でこれらの言葉を使うことはほとんどありません。一般には「medication」を使います。

「飲む」は英語で「Drink」なので、「薬を飲みます。」も単純にdrink medications. と言いそうになりますが、薬を飲むにdrink を使うことはありません。辞書には、水薬を飲む時には、drink medicine を使うとでていますが、Mattieの経験では、内服薬が錠剤、カプセル、水薬とどんな形であっても、「Drink」を使っているのを聞いたことはありません。

薬を飲みます は 「take medication」を使います。

50歳の女性患者、Sandyが午後3時に手術を受けるため入院してきました。Mattieは入院時のアナムネーゼを担当しています。次の会話を見てください。


Sandy, are you on any medications at the moment?
サンディ、現在何か薬を服薬中ですか?

Did you bring all your medications with you?
お薬を全部持ってきましたか?

Could I have a look at your medications please?
薬を見せてもらえますか?

Did you take the morning medications this morning?
今朝、薬を飲みましたか?



高齢で痴呆のある患者さんの中には,錠剤を口の中でもごもごさせてなかなか飲みこまない人がいます。その時には「swallow」を使います。またmedicationの変わりにtablet を使うこともよくあります。

Mattie と 痴呆患者Jackの会話です。


Jack, I've got your tablets here. Can you open your mouth please?
ジャック、ここに薬があるので口をあけてください。
(ジャックの口に錠剤を入れ、水を飲ませてあげました。)

Jack, did you swallow the tablet?
ジャック、薬を飲みこんだの?

Can I have a look at your mouth please?
口(の中)を見せて(くださいね。)

Jack, you still got your tablet in your mouth. Can you swallow it please?
ジャック、まだ口の中に薬が残ってますよ。飲みこんで(くださいね。)



ところで、粉薬のことは 「a powder」と辞典に出ていますが、オーストラリアで粉薬を見たことはありません。それでオブラートというものも存在しません。粉の薬は、カプセル剤として製品化されているからです。

目薬は 「eye drop」
座薬は 「suppository」
鎮痛剤 「analgesics」「pain killer」「pain relief」


Mrs Jones, I've got eye drops for your right eye. Would you like me to put them in or would like to do it by yourself?
ジョーンズさん、右目にさす目薬を持ってきました。さしてあげましょうか?それとも自分でさしますか?

Katrina, this is a suppository for your pain.
カトリーナさん、これは痛み止めの座薬です。

Mark, would you like a pain killer at tea time?
マークさん、夕食の時、痛み止めを飲みますか?



マークは痛み強くあり、内服の鎮痛剤を定期的に飲んでいます。マークがMattieに聞いています。


Mattie, can you have a look when my next pain relief is due?
マティ、次に痛み止めを飲めるのはいつか見てくれる?






★→「オーストラリア医療・看護豆知識」 INDEX に戻る
★→MATTIE'S HOMEPAGE のトップに戻る
★→APLaCのトップに戻る