シドニー雑記帳




ビデオの話




     先日、ビデオデッキを買いました。3年以上オーストラリアにいつつも、ずーっとビデオのない生活をしておりましたし、特段それで痛痒を感じてなかったのですが、買っちゃいました。なんでかという、ひょんなことから日本の実家に置いてあったビデオが数本手に入ったからです。いざビデオ現物が目の前にあると、何となく見たくなってしまうもので、引越の物入りで金銭感覚が麻痺していることも手伝って、「おし!」と買ったわけです。

     御存知の方も多いでしょうが、オーストラリアで、というか海外でビデオを見るには日本と同じようなわけにはいきません。詳しいことはよく分からないのですが、ビデオの再生方式について、PAL方式とNTSC方式という2種類の方式があり、日本(+アメリカもうそうだったかな)はNTSC方式、オーストラリア(+ヨーロッパなど)はPAL方式だそうです。ややこしいことに、テレビにおいてもPAL、NTSC方式の区別があります。

     ですので日本のビデオを見ようと思ったら、普通にそこらへんで売ってるビデオデッキを買ってもダメで、NTSC方式のビデオとテレビが必要なわけです。でもこれではオーストラリアのビデオを見ることができない。両方見ようと思ったら、TV2台、ビデオ2台がそれぞれ必要という、恐ろしく面倒臭いことになってしまうわけです。

     最近は技術の進歩やら国際化が進んだのでしょう、「PAL、NTSC両方再生できるビデオデッキ」というのが出回っています(両方再生できるテレビも)。これは、性能表示のところに「NTSC Playback on PAL CTV」とか書いてあります。この表示のあるビデオデッキでしたらPAL方式のみのテレビにつないでも日本のビデオを再生できます。またこの表示のあるテレビでしたら、NTSC方式の日本のビデオデッキからでも表示されます。

     もっとも機種の相性というのがあるらしく、「可能」となっていても画面下に細い黒い筋が入るということもあるそうです(殆ど気にならない程度だけど)。また、テレビ側で垂直同調の調整をしてやる必要もあるそうです。垂直同調(Vツマミ)というのは、よく画面がタテ方向に乱れる状態=平べったい同じ画像が何枚もタテに表示される状態=を修正するものです。ちなみに、僕らの場合、2台TVがありますが、より新しい方のテレビはこのツマミがない!何でも自動調整するということでしょうが、どこさがしてもこのツマミがなく、結局ビデオをつないでも画像が乱れて使えませんでした。皮肉なことに、より古いテレビ(中古で買ったもので、チャンネルが円形になってるおそろしく古い型)はこのツマミがあり、OKでありました。というわけで、テレビを買うときは、Vツマミの存在を確認された方がいいです。




     これだけでも大概ややこしいのに、さらに問題があります。なにかというと、オーストラリアが異様に遅れているのか、日本が異様に進んでいるのか(その両方でしょうが)、日本では当たり前になっている「3倍時間録画(Long Play、よくLP/SPという切り替えスウィッチがあるでしょ)」、「ステレオ録画(Hi−Fi)」が、全然当たり前ではなく、かなりの高級機種でないと装備されていないことです。

     整理しますと、日本と同じような快適なビデオ環境を楽しむためには、

     @NTSC方式でも再生できること
     A3倍時間録画できること
     BHi−Fiであること

     という3つの関門があり、これを全部満たそうと思ったらかなりの出費になるとのことです。で、別にそんなにテレビを見るタチでもない我々(同居の4名とも揃って全然テレビを見ない人々で、どうかすると一週間に1分も見ない)としては、そんなに高級機種を買う必要もないわけです。僕としては、たまたま手に入った昔のビデオがちょっと見れたらそれでいいわけです。しかし、間の悪いことに、今手元にあるビデオというのが、あるものは市販のミュージックビデオで、これはステレオに接続してキチンと音を出さないと詰まらないものだったり、あるものはその昔3倍時間で自分が録画したものだったりします。

     でもって、「3つ同時にかなえようと思ったらスゴイ高いですよ」という店の人のアドバイスにしたがって、「まあ、いいや」でABの条件はオミットしました。@だけのもので299ドルで買ったわけです。あとは、日本に帰ったときにでも実家にあるビデオデッキを持ってかえって、同時にもっといい(NTSCが再生できる)テレビを買えばいいや(今ある二台はどちらもイマイチだし)とか思ったわけですね。後日譚ですが、先日なにげにKマート(こっちでは有名なチェーンスーパー)にいったら、全部の条件を満たすビデオデッキが565ドルで売られていました。「なんだこの程度ならこっち買えばよかった」と思ったのも後の祭りでありました。やはり手間暇かけてshop around(あちこちの店を見て歩くこと)すべきだったと思います。

     というわけで、日本のビデオを再生できるのはいいのですが、ミュージックビデオは、ステレオにつなぎつつもモノラルの迫力ない音で聞き、3倍時間で録画したビデオは、画面にビャービャーとノイズが走りまくっているわけです(全然見えないと聞いていたけど、見えないこともない。人の顔はわからんがそれが人間である程度には分かるし音は普通に聞える)。

     まあ、いずれも何度も自分で見たビデオですので、何となく懐かしい雰囲気が味わえればそれでOKといえなくもないです。今後、ビデオのレンタルも出来るし、録画も出来ることだし、うん、ま、いいか(と言いつつも、やはりビデオも借りないし、録画もしてないけど)。




     ところで、このテの家電製品の遅れはこちらではありふれた話であって、今更驚きもしません。それに、オーストラリアでは、そんなにステレオ放送とか3倍録画とかいう機能面について人々が求めないのでしょう。ここらへんは面白いところで、世界的に有名な家電企業がひしめきあってる日本の場合(これは自動車メーカでもいえることだけど、こんな国どこにもない)、これでもかというくらい最先端の機能が宣伝されてますし、競争が激しいからすぐ値段もこなれてきます。そういうのが好きな人には世界で一番楽しい環境なのでしょう。

     しかし、逆に考えてみれば、「そこまで必要なんかな」という気がするものもあります。たとえばステレオ放送で、今の日本では相当数の番組がステレオ放送になってます。でも、ステレオ放送って言っても、本気でステレオに接続して別途スピーカーで音を出すのでなければあんまり意味もないような気がします。よく両脇にスピーカーがあるテレビがありますが、その程度の距離で意味あるんかな?と思います。




     日本にいるころは、そこそこビデオとか見てたのですが、こっち来てからというもの全然見なくなりました。一つには英語のビデオを見てもイマイチ意味が分からん(イマイチどころではないか)というリソースの不在という問題があるのでしょう。「金払ってまで見たくもないかな」と思ってしまう。

     でも、それだけではない。
     生活スタイルとして、AVやビデオを楽しむという部分が自然にカットされてしまったということもあります。考えてみれば、日本にいるときよりもずっと時間に余裕があるハズなのに、なんかビデオとかテレビを見ようという気にならないし、そんなことしている時間がないわけです。不思議ですよね、1日全部余暇時間というくらい時間それ自体はふんだんにあるハズなのに。

     日本にいるときは、職場行って仕事してたので、夜になると解放されるし、「今は仕事時間じゃありませんよ」というハッキリした時間があったのですが、APLaCなんぞをやってると、24時間全部暇でもあるし24時間全部仕事と言えなくもない。電話やfaxはいつ入るかわからんし、ホームページ作成も「気が向いたとき/その気になって盛り上がったとき」が「やるとき」ですので、公私のケジメが全然ない。やはり「やれやれ、やっと自分の時間だ」という開放感と切迫感(明日になればまた仕事いう)がないと、ビデオなんか見ないのかもしれません。いつでも出来ると思うと却ってやらないという。

     それに、その昔は自由時間といっても、ハッキリ言って飲みに行くとか、ビデオ見るとか買物程度しかすることがすることがなかった。ところがこっちでは、仕事終わってから家族で海水浴に行くような土地柄で、目と鼻の先に海あり山あり自然公園ありです。家も広いわ、庭も広いわで、家事や庭仕事だけで結構な時間が食われます。そうなってくると、都会のマンション住まいだった頃とは、自ずとライフスタイルも変わってくるのでしょう。

     日本にいる頃は、例えば仕事が9時頃に終わって飲みにいかない日は、そのまま原チャリ飛ばして家に帰り(僅か10分の職住接近でした)、帰りがけにコンビニによって、その日に出たビックコミックスピリッツやら弁当やら烏龍茶のペットボトルを買い込み、家に着くや、弁当をチンして、見るともなくTVをつけて、「えへへ」といってマンガを読むというのがささやかな楽しみでありました(弁護士っつったって日常はそんなもんですわ)。で、ちょっと時間のあるときや、暇な週末とかは、近くのビデオ屋に行って2〜3本借りてくる、と。そういうライフスタイルにおいては、ビデオというのは非常に都合がいいというか、うまいことハマる遊び道具なのかもしれません。

     たかがビデオといえども、それがハマるライフスタイルというのがあって、その土台が変れば気分もまた変わるものなのでしょう。なお、念のために言っておきますと、僕はどちらかのライフスタイルがより優れているとか、より人間らしいとかいう気はないです。日本の居た頃のライフスタイルも、あれはあれで結構快適だったし、しばらく遠ざかってますから今度帰省したとき思いっきりそれをやってやろうかなと思ったりもします。

     ついでに念のために言っておきますと、このライフスタイルの違いは、極めて個人的事情によるものであって、「これがオーストラリアのライフスタイル」とか言うつもりもないです。オーストラリアに居たって、どっかに勤めて、都心のマンションに一人暮らししてたら、日本と似たようなライフスタイルになったでしょう。たまたま、知らない国で周囲が珍しく、且つAPLaCやってて、複数の人とワイワイ暮らしているから現在のようになってるだけの話でしょう。




     さて、そんなこんなでこっちに来てから全然ビデオを見ようという気にならなかったのでした。ならば、こちらでは誰もビデオを見てないのか?というと別にそんなことはないでしょう。家電店にいけば、型遅れではありつつも、ビデオデッキがそこそこ売ってるし、レンタルビデオのチェーン店もそこかしこにあります。

     また、ビデオはともかく、オーストラリアの家庭はよくテレビを見ているようでもあります。特にスポーツ中継とか人気ありそうですね。そういえば、これはオーストラリアではなくアメリカの話ですが、シンプソンズという人気アニメがありますが、あの家族っていっつでもテレビ見てるような気がしません?

     シドニー在住の日本人相手のレンタルビデオショップも結構あります。日本の連ドラなんかもすぐに手に入るようになってたりして。余談ですが、ワーホリなどで来た人のなかでは、日々日本のビデオを見まくっていて、日本人仲間とだけ付き合って、殆ど日本にいるのと変りがないような生活をしている人もいるとか。折角オーストラリアくんだりまで来てそれは勿体ないだろうという気もしますが、そこはそれ、人それぞれでしょう。別にとやかく言う気もありませんが、少なくともそういう生活も可能だということですね。



     しかし、しつこいのですが、オーストラリアのビデオには、日本に感じられる一種独特な雰囲気やカルチャー、ビデオフェティッシュな匂いがあんまりしません。なんか底が浅いというか、明るいというか、あっけらかんとしてるというか、乾いているというか、「個々人のパーソナルライフに深く食い込んだ存在」としてのビデオという感じがしない。カラッとしたエンターテイメントで尽きているような。

     で、ふと、気付いたのですが、こっちってそんなにアダルトビデオがないのですね。いやないことはないのだろうけど、行くところ行かないと手に入らないのではなかろうか。いや、よく知らんのですけど。少なくとも、日本のように、ビデオ屋には必ずアダルトコーナーがあり、下手すりゃコンビニでもセルビデオが買えて、それ自体が一つの巨大なジャンルとして成り立っていて、専門の雑誌なりメディアがあるなんてことはないです。村西とおる監督があそこまで有名になるとかいうこともないでしょう。週刊ポストなどの雑誌に「モザイク除去機」などの胡散臭さが爆発してるような広告や記事が載ってることもないでしょう(そもそも週刊ポストなどに相当する雑誌がない)。

     ビデオにせよ、パソコン・インターネットにせよ、エッチ系コンテンツの存在が、その普及に強力な影響力を持っていることは言うまでもありません。これがあるのとないのとでは、大きな違いが出てくるのではないか。

     オーストラリア社会というのは、そのテのエッチ系コンテンツがそこらへんに溢れているということはないです。いや、何度も言うように、行くところに行けばあるのですけど、行くところに行かないとない。普通の店先にそんなに氾濫しているわけではない。レンタルビデオ屋でも(あんまり入ったことないのでよく分からんのですが)、日本のように一種独特の賑やかさと華やかさでアダルトコーナーがあるという感じでもない。当然、TV番組でそのテの番組を期待して待ってたって全然やってくれない。それどころか、ちょっとでもエッチシーンが挿入されていようものなら(火曜サスペンス劇場ほどのものでもない)、「M」マーク付き(18禁みたいなもの)だったり、番組の始めに、おことわりのアナウンスが流れたりします。

     日本のビデオシーンから、アダルトコンテンツを一掃したらどうなるか?ビデオ屋行っても映画とか「ドラえもん」くらいしか無い、ビデオ雑誌なんか無い、AVクィーンなんか当然無いという状況。想像しにくいけど、無理やり想像すると、ビデオ文化も結構変わってくるかもしれません。妙にあっけらかんとして、妙に健全なシーンになっていきそうな。だから、オーストラリアのビデオ状況もそうなのかな?とか、ふと考えてしまったわけです。

     ま、ほんとかどうか自分でも分からないのですけど。どんなもんでしょう。


1998年03月09日:田村

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