シドニー雑記帳


芝 生





     オーストラリアの町には公園が多い。シドニーにも多い。
     最初住み処を決めたとき、「いやあ、近くに公園があって、環境が良い所でラッキーだったなあ」と喜んでいたのであるが、徐々に到るところに公園はあり、なにも自分のエリアだけが恵まれているわけではないことが分かるようになった。

     日本にも公園は沢山あるのだが、決定的に違うのは、「ほとんど全部芝生」という点だと思う。敷地全面にわたって当たり前のように芝生になっている。なんとなく「公園の芝生」というのは、柵がしてあって「芝生に入らないで下さい」となってるものだという感覚でいたから、一面の芝生を誰はばかることなくどこでも自由に歩き回れるというのが、やたら嬉しかったのを覚えている。

     芝生は公園だけではなく、どこの家の裏庭にもあるし、歩道に植えられているところもある。このように何処もかしこも芝生があるというのは、色彩的にとても潤った感じがする。また、オーストラリアの陽差しは強く、且つ空がウソみたいに青いので、「青と緑」という色のコントラストがことのほか印象的である。これに加えて、「だだっ広い空間がそこかしこにあること」「湿度が低くカラッと爽やかな空気」が重なって、訪れる人をして「いいところだねえ」という感想を抱かせるのだろう。色彩的気候的に夏の軽井沢みたいな感じがするのだろう。

     もっとも、芝生がふんだんにある風景というのは、オーストラリアだけのことではなく、広く西洋社会一般に見られることなのかもしれない。そういえば、いつぞや野茂のインタヴュー記事で、「アメリカは芝生が豊富にあるから、野手は怪我を気にせず思い切りプレーできるので、その点が大きいと思います」と答えていたのを記憶している。また、中学校の美術の教科書に載っていたスラーの点描画などに、よく芝生の上でくつろいでる人々が描かれていたが、こっちに来てから「なるほど、あれは、ありふれた光景だったのか」と納得した覚えもある。

     


     芝生というものは、ほおっておいても適当に生えて適当に枯れてくれるものかと漠然と思っていたが、やはりそれなりに手入れは必要のようである。こっちに来てすぐに覚える英単語に、ローンモーニング(芝刈り)という単語がある。英語が壊滅的にダメだった(今でもダメだが)当初は、ローンモーニングと聞いても、「え?借金の朝?え?」と狼狽していたものである。こんなんでよく来たよな俺も。

     芝刈りは、そこかしこで行われている。ウチの裏庭も、大家さんから芝刈り機を借りてときどき刈るが、生来の不精のため、すぐボウボウ状態になってしまう。今もなっている。「ふーん、芝生ってほおっておくとこうなるか」てなもんである。いつの間にかウチに住み着いている野良猫の姿がスッポリ隠れたりしている。そして彼らは芝生でたっぷりノミを拾ってきてウチにあがりこんでくるのだ(ノミは芝生にいるらしい)

     芝刈り機の音は、かなりけたたましく、ブォーンと響き渡るのであるが、皆さん生まれてから聞きなれている音なのだろう。聞きなれてるといえば、時折、街路樹の枝をカットしているが、切り取ったかなり大きな枝を、今度は高速で回転している脱穀機(じゃないけど)みたいな大きな機械に入れ、粉々に粉砕している風景にも出会う。こっちは、バリバリバリバリ!!!ともっとやかましい。知人のオーストラリア人は、「シドニー(オーストラリア)の特徴的な音」といえば、こんな音がそうじゃないかなと説明してくれた。彼らにとってはとても懐かしい音なのかもしれないし、僕も日本に帰国したときには、懐かしく思い出すかもしれない。

     芝刈り機の種類は様々で、よく自宅に配られるハードウェアの店(日曜大工用品などを売ってる店、こっちはやたらと多い)チラシには、定番のように芝刈り機の広告がされている。あと定番でいえば、バーベキューセットである。広い公園や公共の場所では、市役所などが手入れしているが、これはゴルフの電動カートというか、野球でブルペンからピッチャーが乗ってくる車というか、あんな感じの小さな車になっていて、それに乗ってオジサンが運転しつつ刈っている。あれ、面白そうなので一遍やってみたいのだが。またスプリンクラーなどで散水もしていたりする。

     ハードウェアの店に行くと、いやそこらへんのスーパーでもそうだが、園芸コーナーがあり、しげしげと見ていると芝生関係のグッズが結構あることに気付く。芝生に生える雑草(クローバーなど)をとる除草剤やら、芝生用の肥料やら、芝生用の土など。確かに、自分の裏庭も、「緑だったらOK、苦しゅうない」とか能天気な感覚でいたが、よく見ると、クローバーやらビンディとかいう小さな雑草やらが生い茂っており、芝生が徐々に駆逐されていることに気付いた。なるほど、需要あるところに供給ありということか。まあ、猫の額のような狭い庭なので、雑草も薬剤買うより手で引っこ抜いた方が早いのでまだトライしてないが、効くのかどうか興味があるので、いずれやってみようかと思っている。



田村:1997年2月27日



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