第4章:宿泊
96年10月21日初稿、2010年04月09日更新

第4章:宿泊
4.2. 宿泊施設の種類


海外旅行の宿泊先というと、パックツアーに組み込まれている高級ホテルか、さもなくば一人旅用のバックパッカーズ(ユースホステル)系統の宿かという具合に最高値と最安値に二極分化(両者の料金差は十倍から百倍)してしまう傾向があるようにも思えます。もちろんの中間にも沢山の宿泊施設がありますし、むしろそちらの方が現地においては主流でしょう。


 たとえば、実際に夫婦や家族が暮らしている洋館の一室を借りるゲストハウスやB&Bと呼ばれる宿では、家具や調度など本当の現地の生活用式を味わうことができますし、自家製のジャムやパンの朝食でもてなしてくれる所もあります。カントリーにいけば、数平方キロの羊の放牧地に囲まれた開拓民の暮らしがそのままに残っている一軒家(コテージ)を借り、裏庭で薪割をして暖炉にくべて一日を過ごすという選択もあります。


 このように宿泊施設のバラエティは豊富なのですが、いざ系統立てて概括的に説明しょうとすると、これが中々に難しい。よく分からないので現地で売ってる旅行業者用の専門書を購入してきて読んでみたけど、やっぱりよく分からない。たとえば以下のような区分が書かれているわけです。



Hotels
Commercial hotels/Luxury hotels/Private hotels/ Transit hotels /All-suits hotels /Casino hotels / Resort hotels / Budget hotels / Suburban,near city and secondary centre hotels
Motels
Apartments
Guesthouses
Bed and breakfast establishment(B&B)
Rental holiday houses/chalet/flats
Farm and station houses
Hostels / Backpacker hotels
Caravan / Camping parks

("The Australian Travel Agency" Rob Harris and Joy Howard著,IRWIN、P246〜より)

それぞれに定義らしきものが書いてあるのですが、『一般には○○だが、そうでないのもある』といった具合でとっても曖昧。全然分かった気がしない。一方、他の文献やパンフレット、宿泊機関リストを見比べると、こっちではモーテルと分類しつつ、あっちではアパートメントに分類されてたりしてバラバラ。ずっと昔、ホテルガイドを書くために手当たり次第に各宿泊施設に直接出向いて「ちょっと部屋見せてください」と見て歩いたことがあるのですが、この分類や名称は「オーナーが雰囲気で名乗ってるだけ」「見る人によって分類が違う」という感じですね。あまり教条的に考えすぎない方がいいです。さすがに5スターホテルとバックバッカーが同列に扱われる事はないにしても、ホステルとゲストハウスなんか結構曖昧ですし、ホリデーリゾートといいながら、実はうらびれたモーテルだったりします。

 余談ですが、用語の混乱は日本のマンションの方がもっとヒドくて、「マンション」という英語の意味は「超」がつくくらいの豪邸です。召使いの部屋があって、舞踏会が出来て、門から玄関まで車で行くような家のことです。間違っても「日本では”マンション”に住んでました」と言わないように。同じく、「シャトー」はフランス語(だったかな)で城のことですから、「姫路城に住んでいます」くらいのニュアンスが出てきてしまいます。すごいですよね。

 話を戻してこれらの宿泊施設の雰囲気や設備の違いは、あとで述べるブッキングサイトなどで各宿泊施設の写真などをしばらく見てると、「ははあ」と段々飲み込めてくると思います。

 一つ一つベタ覚えするのも効率が悪いので、ここでおおまかなジャンルやシステムの違いを、日本の宿泊施設の種類と対比しながら説明しておきます。

 日本の場合、宿泊施設というと、@ホテル(旅館)、A民宿、B貸別荘(ロッジ)等、Cユースホステルや昔の木賃宿のような安宿系などに大別できるでしょうが、オーストラリアも事情は似たようなものと言えるでしょう。

@.ホテル系統

もともと「ホテル」という様式やシステムは日本が西欧から輸入したものですので、それほど大きく日本と異なりません。ホテルの中でも、帝国ホテルのような都心の高級ホテルから、比較的安価な駅前のビジネスホテル、温泉地の観光ホテルなど様々な種類やグレードがありますが、このバラエティも大体似たようなものです。

昔ながらの伝統的な雰囲気を大切にしているクラシックホテルもあります(よく広告にhistoric、traditionalなどと謳っている)が、これらは現代的な機能性よりも個性的な雰囲気を売り物にしてますので、その意味ではホテルというより「旅館」に近いと言っていいでしょう。

モーテルは、本来は自動車旅行をする人ために、街道沿いにある簡便な宿泊施設ということですが、実際には徒歩やタクシーでやってくる客も多いですし、必ずしも街道沿いというわけでもありませんので、「施設に必ず駐車場がある」という点を除けば殆どホテルと区別する意味もないでしょう。

酒場なのになんでHOTELと名付けられているの?
なお、オーストラリア独特のものとしては、単なるパブ(酒場)が「ホテル」と名づけられている場合があります。

 これは、その昔オーストラリアで酒類販売免許が厳しかった頃、お酒を提供して良いのは宿泊施設だけというキマリがあったそうです。そこで、酒場は免許を得るために「ウチはホテルでーす」と名乗っていたらしく、その名残が今も残っているようです。オーストラリアだけの風習だそうで、同じ英語圏でもアメリカやイギリスから来た人は、「なんでホテルなの?」と戸惑ったりするそうです。

 でも、酒場の上が本当にホテルになっているところもあります。階下が酒場のためにやたら喧しいところもありますし、逆に昔ながらの雰囲気(西部劇によく出てくるようなスタイル)で落ち着いた良い所もあります。


 ところで、日本で言うところの「ビジネスホテル」という概念はあまり一般的ではなく、むしろ「ビジネス」というと、飛行機のビジネスシートのようにやや豪華なものがイメージされるようです(予約をするとき「安いのでいい」というつもりで「ビジネスでいい」などと言ってしまうと誤解されかねません)。なお日本にあるラブホテルとカプセルホテルは、オーストラリアには存在しませんので、念の為。


A「民宿」系統

これは、ホテルのように大規模な設備投資をした純粋商業施設というよりは、自分の住んでる家をちょっと改造して宿泊できるようにしているもの−−という意味で日本の「民宿」に類似するように思われます。

この類の施設も沢山あります。ゲストハウス、プライベートホテル、B&B(ベッド&ブレックファースト)など呼び名は様々ですが、大体似たようなものでしょう。これらは概ね規模も小さく(一部屋だけというところもある)、その家のオーナーの個人的な生活様式や趣味が反映され、素人的で素朴な肌触りがするという点で共通しています。なお「B&B」はイギリス系の名称らしく、ヨーロッパでは「ペンション」と言うとも聞きます。

農地や牧草地の農家などで宿泊するファームステイも広い意味ではこの系統に入るでしょう。

これら「民宿系統」が良いのは、本当の地元の人々の生活に触れられる点です。なにしろ「他人の家」で寝泊まりするわけですから、ある意味ではどんな観光名所よりも面白いとも言えます。家の造り、家具や調度のセンス、朝ご飯のメニュー、庭の手入れからペットの躾にいたるまで、その気になって観察していると飽きないでしょう。


B貸別荘系、ウィークリーマンション系

 これはホテルや民宿のように、あれこれとサービスが予定されているのではなく、建物や部屋という「入れもの」だけをポンと貸して、あとは好きに過ごしなさいというものです。典型的なのはコテージ、キャビン、ホリディユニットなどで(ここでも名前は様々ですが)、主として郊外や地方にあり、一軒家(ないし一区画)を丸々借ります。当然食事から何から自分で用意しなければなりませんが、朝食がつく場合(卵やベーコン、パン等を届けてくれる)もあります。一軒家ではなく、ある程度(数棟)まとまった施設のものも多いです。


 さて、この貸別荘系統の中で、一軒家ではなくマンションの一室を貸すような場合が、(サービスド)アパートメントと呼ばれる施設です(日本では米国流にコンドミニアムと言った方が通りがいいかもしれません)。同じホテルやモーテルなどの施設の一角が「アパートメント区域」となっている場合もありますが、主たる違いはダイニングキッチン設備が備えられているかどうかでしょう(ワンルームのように寝室とダイニングが分離していないものをStudio(ストゥーディオと発音)と言ったりもします)。

 いずれのものも、基本的には内部に調理設備その他生活するための基本施設が備えられているのが一般であり、「中長期の生活体験」をするにはふさわしいジャンルと思われます。日本のガイドブックを見ると、主としてゴールドコーストあたりの高層ビルの高級コンドミニアムがよく紹介されているようですが、特にそれに限ることなく、上述のように様々なバリエーションがあります。

Cユースホステルやバジェットタイプの安宿系

 「安宿」という言い方は失礼かもしれませんが、要はお値段重視でお財布にやさしい、その代わり設備は簡素な宿群のことです。

 ユースホステル(YHA)が有名ですが、これも含めてバックパッカーズ・アコモデーション(日本語では通称バッパー)があります。また、もう少し宿泊客のプライバシーを重んじて、個室をメインとした簡素な宿としてホステルと呼ばれるカテゴリーがあります。ホステルは、ホテルとバッパーの中間のような存在ですが、日本でいえば湯治場でリーズナブルな値段で長逗留のできる木賃宿みたいな感じでしょうか。

 なお、バッパーとユースの関係、ホステル、さらにはキャパーと呼ばれるキャラバンパークなどの安めの宿についての詳しい説明は、ワーホリ実戦講座ラウンド編に述べておきましたので、ご興味があったら参照してみてください。

 バッパーやホステルですけど、意外と良いですよ。
 もちろん玉石混淆だし、「うげ!」と思うところもありますが、けっこうキレイな所もありますし、感じのいい中庭(コートヤード)やプールがついるバッパーもあります。また、バッパーでありつつも個室で泊まれるところもあります。若い人達が多いですけど、年配の方でも普通に泊ってます。大きなキッチンで皆それぞれ料理をして、泊まり客同士で味見をしあったり、ラウンジで自然発生的なパーティーになったりとか、和気藹々と楽しい経験も出来ます。



   色々見てきて思うのですが、生活体験のカナメとして「現地のスーパーで材料を買って自炊してみたい」という点を入れるならば(食材が豊富なので楽しいですよ)、自炊設備の有無がポイントになるでしょう。

 そうなると、いわゆるアパートメント形式の宿が相応しいかと思います。もっとも呼び名が何であれ、設備にキッチンがどれだけ配備されているか、です。モーテルと名乗っていても自炊設備がついているところは意外とあります。

 共同自炊も気にならず、お値段抑えめにしたいのでしたらホステルが良いでしょう。共同部屋でもいいんだったらバッパーですね。



 僕がいつも聞かれてオススメしているのは、キリビリというところにあるカーナボンという宿です。

 ハーバーブリッジの北のたもと、オペラハウスの真向かい、首相官邸すらあるという超高級住宅地なのですが、なぜか安宿があるという。5スターホテルとは比べるべくもありませんが、洋館をそのまま宿に使っていて、共同キッチンもあるし、感じは悪くないですよ。ちょっと歩けば絶景ビューだし、歩いてハーバーブリッジ渡ってシティに行くだけでも楽しいイベントになるでしょう(フェリーでも、電車でも行けるけど)。

 以前は週で泊ると280ドルでお安かったのですが、2011年4月現在で調べると329ドルに値上がりしていますので、以前ほどお値打ち感はなくなってきています。とはいいつも、今、オーストラリアの物価は相当あがってますので、相対的な安さは尚もキープしていると思われます。3人部屋(大人2人子供1人)のファミリールームは441ドルですので、まだ安いかなとは思いますが。一週間以上滞在する予定で、お値段重視で共同炊事やトイレはOKだけど、さすがにバッパーはちょっと、、、あまり雰囲気が悪いのもちょっと、、、という人には良いでしょう。

ブッキング会社や旅行代理店にコミッションを払わなくてもやっていけるという自信なのかポリシーなのか、単に無知なのか(^_^)。代々オーナーが代わって、今はチャイニーズの一家がやってたと思います。

 ただし、「安かろう悪かろう」というのは、ありますよ。同じ品質で安いということはありえず、安い分だけ何かがあります。例えば、ベッドバグ(ダニのような虫でオーストラリアのバッパーなどでは良く聞く)があったという報告も受けています(一件だけだけど)。

 その他トラブルはバグに限らず、そもそも予約が入ってなかった、間違ってクレジットで二重引き落としされていた、隣がどんちゃん騒ぎを していて眠れなかった、寝具が薄くて寒くて眠れなかった、ラウンジに置いておいた荷物を盗られた、、、などは、低廉なバッパーやホステルに限らず、結構高級ホテルであっても聞きます。世にトラブルの種は尽きまじ。「こういうときはこうする」という、それなりの対処法もありますし(常に成功するとは限らないが)、ある程度のトラブルは想定内のものとしてください。むしろそのトラブルを楽しみ、逆に学びの機会にするくらいの大らかでタフな気分でいてください。トラブル慣れすれば処理も手際よくできるようになるし、そうしてどんどん自由度が高まっていくのですから。



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