第三章:シドニーの基礎知識
第3章:シドニーの基礎知識
3.4. 治 安
★概況と生活実感
最も興味がある問題ですが、最も答えにくい問題でもあります。一般にオーストラリア、シドニーの治安は「良い」とか「悪くない」と言われます。少なくとも世界の平均からすればかなり良い社会だと思われます。
しかし、日本と比べてどうかと言われると考え込んでしまいます。日本も治安がいいとは言われてますが、サリン事件に触れるまでもなく、全国各地に暴力団はひしめきあい、毎日のように殺人や強盗事件が発生しています。こちらには日本の暴力団に匹敵するような犯罪組織はないし、暴走族や若年層による路上での集団暴行事件やバラバラ殺人などあまり聞いたことがありません。それだけ見てたらむしろ日本よりも治安が良いのかもしれません。
そうは言っても、単純に犯罪統計でみれば、オーストラリアの犯罪発生率は日本よりも高いし、都会の宿命でしょうがシドニーはオーストラリア全体よりもさらに悪いです。オーストラリア便利帖/DOMOにも詳しく書かれていますので併せて御参照戴きたいのですが、NSW州の犯罪発生率は全体平均で日本の5〜6倍、殺人・窃盗は3〜4倍、強盗になるとなんと50倍という数値も聞きます。
ただし、個人的には、この数値はもう少し吟味する必要もあると思っています。例えば日本の刑法では強盗と恐喝を区別してますがこちらの法律ではどうか、また何をもって「強盗」とするかなどによって数字も変わるでしょう(「凶器を使用しない強盗」という類型もあるのですが、一体どういう場合なのか思い浮かばない)。また96年4月にはタスマニアで死者35人の史上最悪の乱射事件が発生しましたが、実はそれまでのタスマニア州の殺人発生率は日本よりも低かったという数字もあります。はたまた夫婦喧嘩で夫が妻に手を上げた場合、それがいちいち警察沙汰になれば「暴行傷害」発生率は増大します(家庭内暴力の社会的関心は一般に日本より高い)。したがって数字だけで把握するの自ずと限界があり、これは今後の課題としたいのですが、ここでは、まず統計数値の面から言えば「決して安心すべからず!」という一般原則を確認するに留め、さらに立ち入って考えてみたいと思います。
個人的な生活実感でいいますと、まず普通に暮らしている分には正直言ってそれほど恐いと思うことはありません。歩いていていきなり銃で撃たれるということはまずないでしょうし、夜中に女性が一人歩きするのも避けた方がいいでしょうが、そんなに珍しいことでもないです。これはこちらが油断してるからかもしれませんが、少なくとも「油断してしまうような雰囲気」ではあります。
しかし、それでも親しいオーストラリア人達は口を揃えて「気をつけろ」と忠告してくれます。夜の電車では安全のためガラガラの車両は閉じて入れないようにしたり、係官のいる車両(blue light)に乗るように指示したりしています(青いライトが点灯してます)。駐車してある殆どの車両には、特別なハンドルロック(長い棒でハンドルを固定する)をつけているか、警報装置を搭載しています。普通の民家でも殆どのドアがオートロック式ですし(よくうっかりして閉め出されるで注意)、長期の旅行に行く時は近所の人に郵便物を取っておいて貰うようにしたり、敢えて洗濯物を干しっぱなしにしておいたり、夜中に電気をつけておいたり、番犬を飼ってる家も多いです。
では何をそんなに警戒しているかと聞くと、泥棒、空き巣、ひったくりの類の盗犯のようです。これは実際日本よりも頻発しているように感じますし、直接は目撃しませんでしたが取られた直後の状況は遭遇したことがあります。「主としてどんな連中が犯行をおかしているのか?」という「犯人像」ですが、一概に言えないでしょうが、失業との関連があるでしょう。先進国共通の悩みとして、景気が良いいとか言いながらも失業率は高く、特に若年失業率は平均の2〜3倍に達します(日本もそうなりつつありますが)。福祉の厚いオーストラリアでは失業保険がほぼ一生支給されますので、失業といっても直ちに生活に困りはしませんが、それでも失業してる若年層などのうち、タチの良くないのが小遣銭欲しさにこの類の窃盗をするとも言われています。つまり「冷酷な凶悪犯」「強大な犯罪組織」による犯罪というよりも、盗犯、とくに小遣銭狙いのコソドロの類が多いと言えるでしょう。
★犯罪類型
個別的な犯罪類型でいうと、まず殺人については、屋内の犯行や顔見知りの犯行が多く、路上での通り魔的な犯行は少ないそうです(数年に1回の割合で無差別乱射事件が発生してるようですが、こんなものは確率的に言えば「事故」でしょう)。強盗は、24時間営業のガソリンスタンドでのものが比較的多いそうですが、日本のコンビニ強盗のようなものでしょう。銀行強盗−篭城パターンはあまり聞いたことがないです。ただし路上強盗もありますので注意(形態で言えば、後述の「ひったくり」がもっと粗暴になるようなものでしょう)。
住居侵入窃盗ですが、これは多いです。特に空巣が多いのは、共働きで留守が多く、侵入しやすい住環境(家が広いのも良し悪し)も一つの原因でしょう。プロのような住居侵入窃盗の話もよく聞きます(事前調査を完璧にやって、留守の間にあたかも引越屋のように装って一切合切持ち去るなど)。よく聞く盗品は、自動車の他に、携帯電話や家電製品(日本ほど家電が安くなく、また中古市場が発達しているのが皮肉に作用するのでしょう)などでしょうか。
「ひったくり」ですが、これも多く、生活体験者にとって最も注意すべき類型の一つでしょう。2〜3人のグループで、1人がバッグをひったくって、付近で待機している仲間の車に乗って逃走するパターンが多いと聞きます。
自動車関係ですが、まず車そのものの盗難の他に車上盗に注意すべきでしょう。車の外から見える位置に貴重品や珍しい物を置いておかないことです(ダッシュボードに5ドル札を置いておいたが為にフロントガラスを割られて取られたという話も聞きます)。買物途中で車から離れるときは、座席下やトランクに荷物を入れておくのは、基本でしょう。
★エリア(地域)
次に地域的な問題ですが、「ここが危ない」というほど明確な線引きも実はなく、例えばこの元旦(96年)では東部のボンダイ(前述の有名な観光住宅地エリア)で終電後までたむろしていた若者が騒ぎを起こして警官隊が出動したとか、また北部の静かな郊外地で店に侵入した強盗を店主が射殺したという事件もありました。結局、「ここが危ない」も「ここが安全」も相対的なもので、月並ですが、繁華街、夜道、人気のないところには注意しようということに落ち着くでしょう。なお前述のカブラマッタとレッドファーンですが、具体的に何が問題と言われているかというと、カブラマッタでは路上での麻薬取引が盛んという点で、レッドファーンでは貧困層のアボリジニーが酒に酔って乗車拒否したタクシーに石を投げるとかその程度の話のようです(いずれも見たことないですが)。いずれも日中は特に危険視することはないですが、日没後は控えた方がいいでしょう。
日本人を対象にした犯罪ですが、最近(と言っても96年前半ですが)シドニーでは、日本人女性を対象に、「売ります買います」などの広告を見たといって部屋に入り込んで暴行等を働くケースが連続3件発生してます(同一犯と思われる)し、ブリスベンでは車の中に誘拐されそうになった(近くの人が助けてくれた)日本人女性のケースが報道されています。他にはトランプ賭博に誘い込んであり金を巻き上げるなどのケースがあるそうです。あとは、「結婚詐欺」ですね。流行ってるみたいです。
このように犯罪ケースだけをまとめて読むと、いかにも危険な無法地帯であるかのようなイメージを抱き、気分が暗くなりそうですが、一般的に言えば、昼間普通に歩いている限りでは、ひったくりに気をつける程度で、必要以上に神経質になることはないです。かといって路上に荷物を置きっぱなしにして目を離すような行動は盗まれても仕方がないと言われるでしょう。兼ね合いが難しいところですが、言い方としては「オーストラリアは安全な国と言われているが、あまり安心し過ぎないようにくれぐれも注意しましょう」という文脈でしょうか。「命さえ無事だったら幸運」などというほどひどくないですし、「犯罪に遭うのは飛行機が墜落するようなもの」というほど安全でもないです。
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以上をまとめて、具体的な「対策」をもう一度整理しましょう。
まず第一に押さえておくべきは、@日本にいる時よりも自分が犯罪に対して「弱い」立場にいることを自覚すること。つまり犯罪リスクが日本と全く同じだとしても、日本以上に気をつけろということです。
その理由の一つは異国においては全てに「不案内」であること。日本でしたら、いわゆるチンピラ然とした人物が前から歩いて来たら因縁をつけられないように注意するとか、「なんとなくいかがわしそうな雰囲気の店」というものが分かりますが、こちらでは世界中の民族がいますので外見で区別することはほぼ不可能ですし、店でも他人の態度でも「怪しい」と判別することも難しいでしょう。
第二の理由は、やはり言葉です。警察に被害届を出そうにも、言葉がネックになりますし(通訳サービスもありますが)、付近の人に助けを求めようにもとりあえず英語は必要です。ちなみに「ひったくり(行為)」はスナッチ(snatch)といい、強盗はロバリー(rubbery)と言いますが、咄嗟に言えるかどうかは疑問。なお当地の警察の番号は「000」です(消防も救急も同じ)。シドニーには都心(CBD)に日本総領事館があります(Japan Consulate General, level 34, State Bank Centre, 52, Martin Place,Sydney 2000, NSW/Tel:(02)9231-3455).。
第三に、実際に被害に遭ってしまったときの事後処理や被害回復を見知らぬ異国でやることの大変さです。ざっと思い付くだけでも、警察への被害届、日本領事館への連絡、海外保険の申請手続、パスポートを取られた場合の再申請、クレジットカードなどの支払停止の通報などが浮かびます。特にクレジットカードの場合、当地では電話でカードの番号を告げればそれで買物が出来るなど、便利な反面危険でもあります。これらの手続の鬱陶しさと心理的な衝撃、さらにその後の滞在計画は目茶苦茶になること(予約していたホテルやフライトのキャンセルなども含めるとこの損害の方が大きいでしょう)を考えると、やはり「犯罪に弱い」立場にいるのだと考えた方がいいでしょう。したがって、治安云々以前に、あるいは仮に治安が日本以上に良かったとしても、犯罪が絶無ということはありえない以上、注意を怠るべきではないということになるでしょう。
さらに個別的な対策としては、Aひったくりや空巣、置き引きなどの盗犯が多いので気をつけること。「気を付ける」というのは、一つには人気の少ない裏通りや夜間など、自分が犯人だとして「犯罪をおかしやすい場所」にはあまり行かずに済ますこと。特にひったくりは交差点の角や壁の陰に待ち伏せするパターンが多いそうなので、見通しの悪い角などでは不用意に通り過ぎず、心持ち距離をおいておくなど。また、電車も夜間には乗らずに出来ればタクシーにすること。
しかし生活体験の場合で、最も有効で最も根本的な対策は、Bそもそも取られて困るようなものは極力持ってこないことでしょう。持ってなければ取られることもないし、取られても知れてます。また必要な物も、分散して持っておくと良いでしょう。これは犯罪対策だけでなく、忘れ物/落とし物対策としても重要でしょう。
※なお、留学生さん、ワーホリさん向けに書いた、シドニー語学学校研究/現地生活Q&A/治安とリスク対策についてに、さらに突っ込んだリスク管理の詳細を書いておきました。ご興味のある方は、あわせてご参照ください。
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