語学学校研究
訪問日:97年11月25日
再訪問日:99年08月04日(主として日本語教師養成講座について)
ノースシドニーにあるこの学校の名前はTLCC。何の略かとパンフを開けば、Tokyo Language and Culture Centreの略なのですが、同時にTechnos Language and Commerce Collegeの略でもあり、しかも英語学校の正式名称はTLCC English Collegeというという。「あれ?」と混乱してきたので、まずは名称の由来と沿革を、創立者でもあるゼネラルディレクターのユーエン・アップストーン(Euan Upston)さんに聞いてみました。
母体は日本の学校法人田中育英会だそうです。東京工学院やエアトラベルカレッジなどを運営している団体で、資料によると他にもロンドンやパリに学校があるそうです。
ただしTLCCシドニー校については、現地サイドがかなり強い経営権、意思決定権を持っているようです。そのあたりの突っ込んだ関係はわかりませんが、1988年創立に携わったのは前述のユーエン・アップストンさんとその相棒二人だそうで、日本資本は背景にあるという程度なのかなという気もします。
さて、1988年、現地オーストラリア人を対象とした日本語学校(Tokyo Language and Culture Centre)としてTLCCは開校します。91年に留学生向け英語学校(TLCC English College)を併設。5年前には日本人対象に日本語教師養成コースを設けます(日本語学校の教師はここからいい先生を抜擢しているそうです)。97年よりビジネスカレッジも併設します。
冒頭で述べたように名前がいろいろ錯綜しているのは、この軌跡に沿ってのことで、日本語学校だったら「東京言語文化センター」でいいでしょうが、英語学校ともなると「なんで東京なんだ?」ということになる、ましてやビジネスカレッジまで広がっていくとますます「東京」が邪魔になる。というわけで「技術・言語・ビジネスセンター」と語呂合せのように帳尻を合せたとのことです。まあ、通例「TLCC」一発で通じますし、どうでもいいことなんですけど、名前のつけかたには皆さん苦労されているのだなという話でした。
現在のところ、現地オーストラリア人対象の日本語学校と、留学生対象の英語学校の学生割合が半々くらいで、これを2本の軸として「日本語教師養成講座」「翻訳家入門コース」「英語教師養成講座」など派生コースを創設し、さらには一般ビジネスコースまで手を広げていこうとしている、いう理解でいいと思います。
最初に日本語学校から始まったということもあり、受付の横にはドーンと日本の障子貼りの部屋があったりします。ちなみに、日本語学校と英語学校を併設しているのは、La Linguaと同じパターンですね(あそこは中国語もやってますが)。
現地の人を対象とする日本語学校は夜や土曜日だけのパートタイムコースであるのに対して(働きながら通える専門学校)、留学生がメインとなる英語学校は、午前中から午後3時くらいまでとなっています。日本語学校の学生と英語学校の留学生が時間帯ごとにきれいにシフトする仕組になっており、経営的に見れば、施設(教室)を有効に活用していることになります。
この学校は「ノースシドニーにある、100名前後(英語のみ)の中小規模の学校」ということですが、ロケーションと規模についてのコンセプトを聞いてみました。
立地について。設立当時は英語学校といえばシティかボンダイ、ノースシドニーには一つもなかったといいます。ノースシドニーはシティやボンダイに比べると、治安がよい、交通便利、ビジネスマン用の安いランチを購入できるなど生活上便利、緑豊かで公園にも近いなど、メリットが沢山ある。また、ホームステイが近くでアレンジしやすいことも選択理由のひとつだそうです。
余談ですが、確かにボンダイの7校に比べると、現時点においても、ノースには意外に学校が少ない。ちょっと離れますがセントレオナルドのMilton(紹介済)と、このあと紹介するBilly Blueくらいでしょうか。ボンダイよりも都心に近いし(というかそこ自体が一つの都心)、ボンダイよりもずっと瀟洒で洗練された雰囲気はありますし、オペラハウスやブリッジがすぐ見えたりして風光明媚だったりもします。日本人も多く住んでます。もっと学校があってもおかしくないと思うのですが、ボンダイと違って「泳げるビーチが近くにない」ということがそんなにも響くのでしょうか。興味深いところです。
規模面でいうと、法定キャパシティは最大150人まで収容可能ですが、英語学校に関してはこれ以上規模が増えるとケアが十分にできないので、英語学校としての規模拡大は余り考えておらず、むしろビジネス学校などの方向での発展を考えているとのことです。
ケアについてですが、生徒になにか問題があれば、まずは先生と話してもらう。カウンセリング内容は、個人的な問題であることが多いそうです。また、英語ではなく母国語でレポートを書かせて、それをスタッフやエージェントに訳させて問題解決を図る努力もしている。小規模だし、常に社長自らが校内を見回っているので、生徒が抱えている問題を拾い出すのはそう難しいことではないそうです。
またまた余談ですが、中高校生は別として、最も学生が「弱い」というか「手間暇かかる→だからケアが大事」なのは英語学校でしょう。それ以外の学校の場合(ビジネス学校や大学など)、学生さんはベーシックな英語が出来ているのが前提ですから、そんなに手間は掛からない。家探しや銀行口座の開設で右往左往はしないでしょう。ましてや現地のオージー相手の学校だったら、生活面でのケアなど限りなく必要ないでしょう。「学生のケア」というフレーズは、このシリーズで非常に頻繁に出てきますし、これが経営規模を限定づけたりもしますが、これも語学学校の一つの特色といえるでしょう。また、日本にある英会話学校と違う点でもあるでしょう。
ただし、ケア面で規模拡大を懸念するまでもなく、英語学校の学生数は最近減少してるそうです。現在60名まで落ち込みつつあるとか。特に、タイ、インドネシア、韓国の学生が減ったとか。言うまでもなくアジアの金融不安による影響ですが、これは多くの学校が予想しているところですが、来年は厳しい年になるだろうと。奇しくも山一証券自主廃業の日に訪問したわけですけど、「特に今日は大変な日ですね」「おお、そうなんだよ。どうなっちゃうんだろうね」てな話もしました。
99年8月追記:学生数ですが、その後着実に増え、現在時点で約90名、クラスは8クラスあるそうです。日本人割合は概ね20%程度とのことです。
教授法ですが、ELICOSスタンダードでコミュニカティブという定番で、4スキル重視ですが、下のレベルではどちらかというとオーラルに力点を置き、IELTS準備コースなどではライティング&リーディングに力を入れるというあたりもオーソドックスと言えるでしょう。
ただし非常に特徴的なのは、1人の学生が1週間のうちに5人(ないし可能な限り多くの)の先生から授業を受けられることでしょう。先生にはそれぞれ個性があり、授業の進め方や性格、アクセントも違う。南アフリカ、イギリス、ニュージーランド、オーストラリアなど様々な出身地の先生を集めることにより、異なるアクセントに慣れるのに適した環境を作っているとのことです。
アクセント云々ということもありますが、「語学学校最大のブラックボックス」である「担当教師のハズレ」という回避不可能の問題についての一つの解消策になるという意味で、僕個人は注目したいと思います。人間だから、どうしても合う/合わないはありますから。また、アクセント云々よりも、同じ出身地のネィティブであっても人によって多用するフレーズ、発音の癖などは本当に千差万別です。「この人の英語は全部分かるが、この人の英語は一つもわからん」ということも冗談抜きでありえます。これだけ個性の差があるからこそ「声帯・形態模写」というものが成立するのでしょうが、出来るだけ沢山の人の英語を耳にしておいた方がいいと思います。
テキストですが、一応利用もしますが、テキストには作成された国(主としてアメリカやイギリス)ごとにバイアスがかかっているため、テキストだけに沿うことはよくないと考えている。これは一つの見解でしょう。そういえばHeadwayなどのテキストやってて、
イギリスの写真や地名が頻繁に出てきて、「なんでオーストラリアでイギリスのことやらんとアカンのよ」と妙に思ったことがあります。その分、独自の教材開発には力を入れているとのことです。
また、スケジュール表のカテゴリー表現が他校とは違って、大体午前が「Language Input」、午後が「Skills Focus」という言葉で表現されています。前者は単語、表現、文法にかかわらず、新しいことを学ぶ時間という意味であり、机に向ってのいわゆる「お勉強」。後者は既に知っている知識を使って実戦力を高める時間を意味するそうで、より動きを伴ったアクティブな内容にするとのことです。
一般英語コースの最高レベルは「Upper Intermediate」まで。それ以上はEAP(大学進学準備コース)かIELTS準備コース、ビジネスコースに入ることになる。このレベル分けは他校とは違い、コマーシャリズムにのって名付けているのではなく、IELTSテストによる公式な定義にのっとって根付けているそうで、最高レベルの「Upper Intermediate」はIELTSの6.0-6.5にあたる。実際、このコース受講者が7.2を取得したこともあるそうです。だから実質Advancedクラスということでしょう。
レベル分けテストは、4スキルでペーパー&インタビュー。月曜日はオリエンテーションとレベル分けテストを1時間半ほど行い、その後銀行や町などを案内します。レベルチェックのテストが5週間ごとに行われ、その結果でレベルアップを決定するそうです。
教師の採用にあたっては、資格、経験はもちろん重視するが、やはり生徒からの評判が大切。試用期間中に時間単位で教えてもらい、生徒から意見を聞くことにしている。クラスオブザベーション(授業視察)はフェアじゃない(そのときだけ取り繕ったりした授業をされても意味がない)と思うので、やらない。これもまた一つの見解でしょう。
コースについては、EGP−6〜8クラス、EAP−1クラス、EBPは需要がある時のみ開講。高校進学準備コースは5〜6人いますが、中高校生を預かることにはユーエンさんはちょっと懐疑的でもありました。ケアが大変だということより、あまりにも未成熟なうちに親許を離れて留学させること自体に疑問を感じているようで、too youngを連発してました。
一般英語コースは6レベルだが、各レベルにA,B2つのステージがあるので、実質12レベルということになる。ほぼ時間ごとに先生が変わるシステムになっている。
コース間のターム途中の移動については、先生からの推薦でレベルアップすることもあるし、本人からの希望があれば「ちょっと無理じゃないかなあ」と思っても希望を通すようにしている。無理なら本人から「難しすぎる」と言ってくるので、とにかく本人のやりたいようにさせている。「自分でやってみないと誰だって納得しないでしょ」とのこと。
パートタイムコースは2種類。日本人駐在員の奥さん用コース(火・木の10〜12時、$325/40時間)、或いはフルタイムコースの午前中だけを取るモーニングコースがあります。前者は奥さんたちの社会ネットワーク的機能を果たしているそうで、なるほどそういう需要には合致してるでしょうね。現在は参加者10名ほど。後者は、主にワーホリの人がとる。週$190。
英語学校でもっとも多いのは日本人、韓国人でそれぞれ全体の20〜25%。その他、タイ、インドネシアに加えて、フランス、スロバキア、南アメリカ、中近東など少数派の国籍バラエティは豊か。
卒業後もビジネス学校、大学などへ進学する学生の率は現在のところ15〜20%程度。だが、ビジネスカレッジを併設したので、今後は進学指向の学生が増えるのではないかとのことです。
学生の出身国がある特定の国に偏らないよう調整している。全体の30%を越えた時点でエージェントに「現在はこれ以上受け付けません」という連絡をしている(個人応募者なら受け付けるけど)。どこの学校も同じように国籍バランスに気にかけているわけですが、実際に「ハッキリと断ってる」というのは特異な例だと思います。
よくある遠足などのアクティビティも企画運営しているが、日本語学校の現地オージーとの交流チャンスがあることが、ひとつの目玉になってます。毎週金曜日にはStudents Meetingがあるし、10週間に一度は、夕方全生徒が参加できるパーティーを催している。また、日本語と英語を教え合う、Language Exchangeの仲介アレンジもしているそうです。
ホームステイについては、Unique Australian Holidaysに外注している。この斡旋業者はNSW州立公立校のホームステイ手配もしているため、信頼できる。海外から申し込む留学生のうち、85%がホームステイを利用するそうで、ほとんどが始めの4〜5週間のみホームステイして、現地の生活に慣れた頃に自分で家やシェアアコモデーションを探して移っていくというのが通常の経緯だそうです。
ユーエンさんは「留学当初は誰でも不安なもの。空港出迎えサービスと当初4〜5週間のホームステイは海外生活に慣れる過程において、非常によいシステムなので、是非利用してほしい」と言ってました。
最後に、立ち上げたばかりのビジネスカレッジについてです。このカリキュラムは、西オーストラリア州TAFE(公立の職業学校)より買い取ったカリキュラム(著作権があるのでしょう)。ちなみに、このカリキュラムは非公開ないし公開しても非常に高額であったそうですが、民間の学校が「国民の税金を使って開発したカリキュラムを公開しないのはおかしい。良いものであれば官民を問わず多くの人にそのベネフィットが得られるようにすべきではないか」と運動を展開して、安価に公開するようになったそうです。なるほど、そういう部分で政治の問題もからむのですね。
さすがに税金注いで開発しただけにいいカリキュラムだそうで、TAFEカリキュラムに添ってやっているとなると、8割ほどの大学がこの学校での履修資格を公認(=卒業生には2年次編入を認める)するという動きにあるそうです。あとの2割はシドニー大学などの「お高い」大学で、時間かけて交渉するそうです(そういえば、シドニー大等の名門大学の腰の重さや異様に保守的な姿勢は、Universalの鴨粕氏も嘆いていました)。
ユーエンさんから、「MBA取りたかったらこうするといいよ」というメッセージがあります。
「海外留学を考える時、直接大学に入ろうとするのは賢いとは言えません。大学は留学生の世話までしてくれません。勉強だけでなく、生活習慣に慣れるだけでも大変です。実際、大学における海外留学生の80%は落第しています。私がお勧めする『もっとも安あがりなMBAの取得コース』はこれです」とのことで、
@英語学校4週間(期間は実力による)
↓
Aビジネスコース(Certificateレベル)1年
↓
Bセントラル クィーンズランド大学(一流じゃないけど留学生には馴染みやすい大学)2年生に編入し、1年間勉強する(Advanced Certificateレベル)。これが9000ドルと他の一流大学に比べて$2000も安い。そこで優秀な成績をおさめて・・
↓
C3年生からシドニー大学、メルボルン大学などに移籍。
この方法のミソは、大学に入る段階で大きなギャップがあり、そのギャップを段階的に解消していこうという点にあると思います。最初から一流大学に入ってついていけず、屈辱感と年間100万以上浪費するのは無駄だということですね。
現在「どのくらいの英語力ならビジネスカレッジに入れるか? あとどれくらいの期間、英語を勉強すればビジネスカレッジに入れるか?」を測定するための英語テストを作成中とのこと。出来たら世界のエージェントにも配るし、ホームページにも掲載したいとのことです。
もう一つ、ユーエンさんからのお言葉。「英語教師養成講座はいいよ」という話ですが、なんでかというと、日本でも英語教育カリキュラムをより実戦的なものにしようとする動きがあるし、この流れはより加速されるだろう。そうなった場合、机上の資格よりも、海外滞在経験がありかつ海外での英語教師コースを卒業していることは大きなキャリアとなるだろうということが一つ。もう一つは、アドバイスというより経営話ですが、各公立・私立学校で先生の海外研修が一つの流れとなるだろうから、そのニーズに応えていきたいということでした。
以上、TLCCですが、こうして改めてメモを起こしてみると、ユーエンさんという個人のパーソナリティがこの学校のバックボーンになっていることがわかります。実際、時折日本語を交えて話す内容も面白いのですが、ナショナリティバランスを取るために敢えて入学を断ったり、授業観察はフェアじゃないとか、テキストに作成国のバイアスがかかってる部分を指摘したり、若年留学に懐疑的であったり、目立たないところで独自の一家言やこだわりがあって面白いです。
そのユーエン先生に最近の語学学校の価格破壊路線や、割引料金を売りにするエージェントについてご意見をうかがったところ、それなりの不快感を表明しておられました。曰く、「安きゃいい」という間違った軸を与えて、真面目に質の向上を図ってる学校や、学生の選球眼を惑わすからとのことです。(後日注:ユーエンさんですが、「また新たな分野にチャレンジしたい」とのことで退任されたそうです。この種の話はこちらで日常茶飯事ですが=新聞広告で社長を募集するくらいだから、付記しておきます)。
まあ、安さだけを軸に学校決めるのは僕らも「安物買いの銭失い」との見地からオススメはしません。それは必ずしも低価格だから質が悪いという意味ではなく、自分に合わない学校に行ったって詰まらんよという意味からです。でも、値段と関係なく学校を決めたあとは、そりゃ安い方がいいというのも事実でしょうから難しいところです。
なお、日本語教師養成講座などについては、岡本さんという主任教師がおられます。また翻訳家養成コース、英語教師養成などいろいろなカリキュラムがあるようですが、まずは英語学校ということで本格的な取材はしてきませんでした。資料は沢山貰ってきましたから、メールで聞いてください。
ということで99年8月、UPDATE取材もかねて、TLCCに再訪問しました。今回は岡本さんに時間をとっていただいてゆっくり話を聞いてきました。この訪問記は別ページにして作りましたので、こちらを参照してください。
97年12月12日記
99年08月05日追記
文責:福島/田村
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