現地生活についてのFAQ 治安論
2006年06月
治 安 (その1/傾向編)
まず大原則としては、「オーストラリア(海外)だからといって、特に必要以上に神経質になる必要はない」ということだと思います。日本にいたって治安が万全ということはありえませんし、特に昨今は安心しにくくなってるようです。その日本に比べて、オーストラリアが格別治安が悪いということはないと思います。12年生活してきた感覚でいえば、むしろ日本よりは良いんじゃないか?とすら思えますし、実際今では日本に帰るときのほうが緊張します。いや、マジに。
ただ、こんなのは僕の感覚ですので、できるだけ客観的に考えてみたいと思います。なお客観的といっても、単純な犯罪統計だけで見ても生活実感とはまた違います。それに、犯罪統計というのは、国や法律によって犯罪の種類や定義が違いますし(例えばオーストラリアで「強盗」と訳されている犯罪行為の全てが日本刑法における強盗になるわけでもなく、日本だったら「恐喝」レベルのものまでこちらでは「強盗」として統計処理されているように思います)、また皆が泣き寝入りしてたら表面上犯罪はゼロになりますから、その種の暗数も考慮に入れねばなりません。例えば、レイプなどでも、こちらはメインにはいわゆるデート・レイプがメインで、要するにナンパして、その勢いで「いいじゃないか」で無理やりセックスしてしまうような場合ですが、ここで被害者が「まあ、しょうがないか」とか泣き寝入りするか、断固糾弾する!と警察に駆け込むか、これはその社会の文化の違いでしょう。そしてその違いが統計結果になって現われたりしますので、単純に数字だけ比較しててもそれほど絶対的なことではないです。ちなみにデートレイプに関しては、NSW州のHPで独立にAbout Date Rapeというページがありますので、ご興味のある人は参照してください。
なお、世界各国の犯罪率の統計は、たとえばhttp://ms-t.jp/Statistics/Data/Crimerate.htmlなどに書いてあります。これをみるとオーストラリアは日本に比べると危なそうに思えます。しかし、別の見方をすると、犯罪率の比較でアジア諸国で日本よりも治安が悪いのはモルジブと台湾だけで、あとは日本よりも犯罪率は低いです。日本の犯罪率は2.24%となってますが、殆ど軒並み1%以下であり、ベトナム0.08%、バングラディッシュ0.09%、ネパールにいたっては0.01%で日本の200倍安全だということになってます。でもネパールをよくみると、最も多い犯罪が窃盗ではなく殺人であり、殺人の検挙率は50%だという。一方、かなり危ないといわれている南米でも、例えばコロンビアで0.41%だったりします。ちなみにアメリカは4.16%、オーストラリアは7.48%になっていて、するとオーストラリアはアメリカの倍近く危険だということになりますが、これは実際に住んでる感覚からはかなり乖離しています。要するに統計の取り方一つって気もしますよね。
警視庁のホームページには東京都の犯罪情報マップという興味深いページがあります。これを使って新宿の各地域の全刑法犯の発生率をみると、2006年4月末時点の統計で、歌舞伎町1丁目は犯罪発生率173以上の最高率なのに、歌舞伎町二丁目になると91-172に減少します。また花園神社から東の新宿5丁目は25-48になります。また、新宿3丁目は173以上の最高率なのに対し、新宿四丁目の交差点の南側の新宿四丁目エリアはいきなり11-24の安全エリアになり、その東隣の新宿御苑になると1-10の最安全エリアになります。新宿を日常的に歩かれている方は、犯罪発生率が100倍以上に増減する統計的現実を実際に体感してください。
統計は大事なことですし、決して軽視して良いとは思いませんが、統計数値と現実的感覚との間にズレがあることもまた事実だと思います。統計だけで全てを語ったり、統計数値のみを根拠にリスク対策を考えるのは、ある意味危険ですらあります。もっと突っ込んで考えてみる必要があるでしょう。
まず、オーストラリアの(常習的、職業的)犯罪者・悪い人はどういう人達かというと、ドラッグのお金欲しさに小遣い稼ぎをするようなケースが多いと思います。すなわち粗暴犯というよりも「盗犯」が主体でしょう。すなわち、空き巣、置き引き、スリ、車泥棒&車上狙い、恐喝&強盗で、「お金が欲しいから」という実質的理由があってのことのようです。最近日本でよく見られるような、「人を殺してみたかった」「イジメるのが好き」という精神的に病んでいるものよりも、もっと「わかりやすい」伝統的なコソ泥系が多いように思います。
あと、日本全国津々浦々まで存在している、組織暴力(暴力団)、少年非行の暴走族のようなグループですが、日本ほど居ません。というか、居ないこともないって程度でしょう。それは、エスニック・マフィアみたいな存在は時々聞きますし、問題にもなってますが、普通に生活してたらそんなに出くわすこともないです。暴走族もいるそうですが、やってるのはマッド・マックスみたいなオッサン系で(あんまり見たことないけど)、大体こちらでは親は子供にバイクなんか買えるほどのお金を与えないでしょうし、バイクの免許はクルマよりも取るのが難しいです。そもそも「ガラの悪い人達」がタムロしそうな、「夜の繁華街」というのが少なく、日本的な意味でいえばキングス・クロスやシティくらいしかないかもしれない。ただ、クルマをシャコタン等いわゆる「ゾク車」風にして(タケヤリ、デッパは日本の伝統芸だから無いです)、駅前やビーチあたりで、カーステレオのヒップホップを大きな音で鳴らして流してる連中はいます。まあ、それも、「ふーん、こっちにもそういう奴もいるんだ」という程度で、それほど社会の脅威になっているというほどのこともないです。
組織暴力団が少ないのは、簡単に言えば経済的に成り立たないからです。専門用語で言うと「シノギ」が少ない。日本の暴力団がなんで成り立っているのかというと、単にドンパチ喧嘩してるだけだったら一銭にもなりませんから、当然収入源があるからです。その収入減は、覚醒剤などの麻薬取引や違法な風俗営業というイリーガル系と、民事暴力系に分かれますが、巨額の収入を得るのは民事暴力系です。つまり、企業に食い込んで総会屋をやるとか、インサイダー情報を引き出すとか、その昔は地上げ屋とか、倒産処理とか、マチ金など違法高金利を取るとか、借金の取り立て(キリトリ)とか、、、その種の稼業の方がはるかに儲かる。億単位で稼ぎ出せます。ところが、オーストラリアの場合、市民の権利意識が高いこともあり、あんまり民事暴力の付け込む隙が乏しいように思います。総会屋が成り立つのも、企業の経営陣が出来るだけ穏便に総会を済ませたいというニーズがあるからですが、こちらではインベスター(投資家/株主)こそが主役ですし、社長の首なんか半年でボンと飛ばされたりします。シャンシャン総会など望むべくもない。だから総会屋も成り立たない。サラ金や高利貸しは、こちらでもローンシャーク(借金鮫)という英語の名前があるくらいですから、いないことはないけど、日本みたいにいたるところにサラ金の看板があるということはないです。それにサラ金で借りて破滅的な自転車操業をするのは、異様に外聞を憚る日本人の習性に基づくのであり、こちらは金が廻らなくなったら別に破産すればいいだけってカラリとした部分もあります。社会保障も手厚いし。
そうなってくると、結局イリーガル系で儲けるしかないです。麻薬と売春です。でも売春はこちらではリーガルですし、売春宿が株式上場するとかいう土地柄ですから、もっと普通のビジネスになってしまっている。あるとすれば、「永住権を取らせてやる」ともちかけて、東南アジアの女性たちを騙してつれてきて働かせているようなケースでしょう。これはちょこちょこ新聞に出てます。あとは麻薬系。しかし、いずれにしても海外の犯罪組織がこちらに乗り込んできている部分も多く、「地場産業」としてのオーストラリアの生粋の暴力団は少ないように思われます。
よく聞くのが、結局のところ、麻薬代の欲しいジャンキーが置き引きやかっぱらいをやるようなケース、あるいはプロの窃盗団が引越しを装って家財道具丸々持っていってしまうような場合でしょう。いずれにせよ盗犯系が多いです。
さて、こういった概況は背景構造として頭に入れておくにとどめ、より実践的な話をします。
まず、こちらに着いてから3ヶ月くらいは、「そんなに心配しなくてもいいよ」と申し上げておきます。なぜかというと、日本人というのは世界一の引っ込み思案民族で、ネガティブな話が大好きで、平和慣れしてるから(そんなに安全な国だとは思わないけど)やたら「安心」「安全」と唱えたりしがちな人々ですから、そういった人にあれこれ言っても、余計にビビって何もしなくなってしまう恐れがあるからです。実際、ビビッて何もしてない人も多いだろうし、何もしてない自分を正当化するために治安を持ってくる人もいるでしょう。だから、大原則としては、別にそんなに危ない国ではないってことを言っておきます。事実、カントリーリスクで言えばそれほど高い国ではない、というかこんなに低い国は珍しい方なんじゃないですか?
もちろん、単に「安心してろ」と大雑把なことを言うつもりはありません。これから、より具体的にリスク管理の方法を申し上げます。ただ、留学生やワーホリさんの活動姿勢としては、「動き回ってなんぼ」なんですから、単純に恐がってばっかりだったら何も出来なくなっちゃうよ、だからもっと緻密に考えようよってことを言っておきます。
かくいう僕自身、最初に入った(借りた)フラットのドアに鍵が三つもついてたもんだから、「これはヤバイ」とビビッて、しばらく暗くなってからは出歩かないように大人しくしてました。ある日、オーストラリア人の友人と晩に出かけることになり、帰宅が夜の11時を廻りました。結構ビビって夜の町を歩いてたのですが、なんのことはない、レストラン帰りの家族連れが笑いさんざめいてたり、女性が一人でジョギングしてたり、犬の散歩してたり、全然平和で、「なんだ、ビビって損した」って思った記憶があります。
気をつけるべきは、むしろ3ヶ月を経過して、ワーホリさんなどは学校で知り合った友達と夜な夜なパブやクラブに踊りに行ったり、夜中の2時、3時に女性一人でナイトライド(終電後に出る各駅ごとに止まって行く代行バス)に乗って帰ったりするようになってからです。これってそんなに珍しい話じゃないです。「オーストラリアって、ぜーんぜん恐くないですよねっ!」とか言ったりするわけですけど、そんなことを口走りだしたら要注意!です。トラブルは気が緩んだときに起きます。交通事故も免許取立てよりも、しばらくして慣れてから起こすでしょ。「なんだ、全然大丈夫じゃないか」と思ってるアナタには、「や、でも、気をつけなあかんよ」と申し上げます。
オーストラリア人は、日本人からすると概してレイジーとかいい加減とか批判されたりしますが、逆にいい面もあります。人懐こくて優しいこと、特に弱い人に優しいこと、見てみぬふりをしないこと、イイコトをするのに躊躇わないこと、です。これはこちらに現地の人々に混じってしばらく暮らしてたらすぐに分かると思います。車椅子や乳母車を押している人が階段にさしかかると、周囲の誰かが必ずといってもいいくらい助けます。そしてそういうイイコトすることに、日本人みたいな自意識過剰な衒い(てらい)がないです。「やった方がいい」と思ったら人目を気にせずどんどんやります。だからこそ、5人に一人はボランティアをしてるとか言われる状況になっているのでしょう。
これをこと治安面に応用しますと、周囲にオージーがいるような場面では、犯罪者に絡まれたり、脅されたりすることはまず無いと思っていいってことです。殆どの場合、周りの人が助けに入ってくれるでしょう。この点、日本の車内暴力でも、誰も立ち上がらず、見てみぬふりをして、見殺しにされるのと極端に対照的だと思います。だから、日本に帰るときに恐いんですよ。やられたら誰も助けてくれなさそうだし。
ということは、周囲に人がいるような環境では、スリとか置き引きなど「こっそり系」の犯罪に注意しておけば良いということになります。
また、深夜に帰る場合、バスと電車だったらバスにしなさいとオージーに言われたりしますが、バスというのは最低もう一人の他人がいるからです。つまり運転手。"help me!"と運転手に聞こえるように大声だせば、大抵はなんとかしてくれるでしょうし、だから逆にバスの中ではそんなに強迫的な犯罪が少ない。一方電車の場合は、客車によっては自分の他に誰も乗ってないというケースもありえます。また、こちらの電車は二階建てですから見通しが悪く、恐喝されたりしても誰にも見えないというリスクがあります。故に、電車の場合、ブルーライト(電車の横についている青い灯)のある客車に乗れとか、ホームに NIGHT SAFE ZONEと書かれている所から乗れということが言われたりします。その客車には車掌が乗ってるということもありますが、人々を集めておけば犯罪はおきにくいということからも頷けます。
じゃあ、周囲に人がいない場合はどうするか、特に住宅エリアは昼間でも閑散としていますが、そういうところはどうするのだ?という点が疑問になるでしょう。例えば、僕の家から近くの商店街まで歩いて10分ほどですが、10分歩く間におそらく3人の人にすれ違えば多いくらいでしょう。そんなところを夜に歩くのは自殺行為のように感じられるかもしれません。でも、大丈夫です。なぜか?それは、人は歩いていないかもしれないけど、人は居るからです。家の中に、です。もし、あなたがこういう住宅街を夜歩いていて、後ろからあとをつけられているとか、前で待ち伏せされているなど、危険を感じたら、ためらうことなく、近くの家に入って下さい。玄関をノックして、"Excuse me! Soryy, but I think somebody's following me, just overther, could you please call the police?"と言えば、「おお、それはエライこっちゃ」と対応してくれるでしょう。他人の敷地に入ったらいきなり銃でズドンなんてことはないです。
ちなみに、オーストラリアはアメリカと違って銃砲に対する忌避感が強いです。その意味ではアメリカ的というよりは日本的です。かなり前にタスマニアのポートアーサーでオートライフルなどを持ったイカれた人間が、観光客30数名を射殺して大事件になりましたが、その後数ヶ月で強力な銃規制法案が採択され、指定されている範囲の銃を税金で買い取りました。反対する人も多少はいましたが、圧倒的大多数は銃規制賛成でした。なお、銃器は都市周辺よりもむしろ農村地帯で多く用いられています。これは害獣駆逐など生活の必要のためです。あと、ラウンドなどするときに、夜中にうかつに農家の敷地に入り込んだりしない方がいいです。こっちの場合の方がぶっ放されてもしょうがないです。以前、どっかの農場の敷地内で勝手に野宿してたら、銃を突きつけられて、立ち退きを迫られた人もいますから。
ところで、どうしてオーストラリアでは見てみぬふりをしないのでしょうか?健全素朴な正義感をより多く持っているからとか、コミュニティ意識が強いからとか色んな理由があると思いますが、その一つの理由としては、オーストラリアでは「悪い人」よりも「いい人」の方がナチュラルに強いからではないかなと思います。日本では、「いい人」よりも「悪い人」の方がナチュラルに強いです。暴力団員Aと銀行員Bとで喧嘩をしたら、まあ普通は暴力団員の方がフィジカルに強いでしょう。でもオーストラリアは必ずしもそうではない。
というのは、オーストラリアというのはまれに見る健康優良児の国であり、スポーツクレイジーな国だからです。これだけビーチや公園がありながら、どこの町にもフィットネスジムがあるという、「スポーツしてなきゃ死ぬんか、キミらは?」と言いたくなるくらいスポーツが好きです。実際、人口わずか2000万人、日本の6-7分の1しかいないくせに、オリンピックでメダルを50個以上かっさらっていきます。もしオーストラリア人が日本人くらいいたとしたら、メダル獲得数は単純計算で300個を超えるでしょう。
逆にいえば、オーストラリアではちょっとやそっと強かったり、スポーツができたくらいでは全然プロになれません。層が厚すぎるんですね。国技のようなラグビーのメジャーな選手だったら、身長2メートル近く、体重120キロとかそんな体格でありながら、100メートルを10秒台で走るというバケモノみたいな連中がいます。それにはちょっと劣るけど、それでも準バケモンみたいな連中がアマチュアでガンガンでやってます。そういう人たちって、普通に生計を立ててますから、実は高校で社会を教えてたり、税理士だったり、歯科医だったりします。これがいわゆる「いい人」。で、悪い人は、さっきも書いたように麻薬中毒のジャンキーとかそんなんです。朝からジョギングしてるジャンキーなんか珍しいでしょう。だから、普通の人が、日本ほど悪い人を恐れていないように思います。そのあたりも背景事情の一つなのでしょうね。
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