５年に一度のCensus−センサス、つまり国勢調査が昨年の８月に行われました。数えて13回目、今世紀最後のオーストラリア国勢調査です。
　集計が済んで、ようやくこの7月15日に調査結果が発表されました。

　余談ですが、この統計というのは、「1996年8月6日にオーストラリアに存在した人」を対象にして行われますので、その日にたまたまオーストラリアに滞在していた観光客も含まれますし、そのときオーストラリアから海外に出掛けていたオーストラリア人は含まれません。そういえば昨年観光で来ていた方もホテルで書かされたと言っておられました。乱暴な統計の取り方だなと最初は思いましたが、年中どの日をとっても同じような数の人が海外からやってきて、海外に出掛けているのだろうから、考えてみればこっちの方が「リアル」な実態といえなくもないですね。


　新聞記事を見ながら、「オーストラリアの最新の統計」をかいつまんで紹介したいと思います。

　まず最初に、概略の数字を−−。



1996年8月6日 （前回調査1991年） 人口　1789万2423人（110万人、6.2%増） 平均年齢 　男33歳（↑２歳） 　女34歳（↑１歳） 65才以上の人口比率　12.1%（11.3%から↑0.8%） オーストラリア生まれの人 73.9% 海外出身者のうち、36.2%がイギリス、アイルランド、ニュージーランド出身。その他の海外生まれの人のうち人口が多いのは、イタリア、ベトナム、ギリシア、中国、ドイツ。 先住者（アボリジニ） 35万2970人（↑8万7511人） 第一言語が英語の人　81.2%（↓1.4%） キリスト教信者　70.3%（↓3.7%） キリスト教以外の信者　3.4%（↑0.8%） 宗教なし　25.1%（↑2%） 持家保有者のうちローン完済組が40.9%、ローン支払中が25.5%、借家住まいは28.7％。この数字は5年前からそう大きく変わっていない。 平均年収　1万5537ドル(約132万円）(↑1120ドル）





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　自分を「先住民族（アボリジニ）である」とする人の数は、前回調査からなんと33%も増えている。いくらなんでもたった5年でこんなに急激に人口が増えるわけはないから、これは、｢アボリジニであることに誇りを持つ人が増えてきた」ということと解釈されている。つまり、イギリス入植以来200年、アボリジニと白人（ないしその他の人種）との混血の人々が沢山おり、なかには見た目白人と殆ど変わらない人もいる。これらの人にとって｢アボリジニの末裔である」と名乗るかどうかは、その人の意思次第だったりするわけです。また、設問も「あなたは先住民族ですか」ではなく「先住民族の血をひきますか(origins）」とになっている（1967年の調査からそう変わったそうです）。

　また、アボリジニの人達への「国勢調査に参加しましょう」キャンペーンが功を奏したのだろうという見方もある。

　過去、アボリジニ人口は、ほぼ一世紀の間8万〜10万人だったのだが、ここ30年で35万人まで増えている。その変化はアボリジニであることへのプライドの上昇と、アボリジニに対する当局からの迷惑な干渉（例えば、強引に子供を白人家庭の養子にするなど→Stolen Children参照）の減少などの理由もあると言われている。

　これで、全人口に対するアボリジニの割合は1.6%から2%に上昇したことになります。この傾向はＮＳＷ州ではより顕著で、5年前に比べて45%の増加、10年前(1986年)からは72%の増加。ＮＳＷ州内で増加率が高いのは、Gosford−Wyong（シドニーの北隣）地域で、増加率92%。シドニーで最もアボリジニの人達が多く住むのはRedfernというのが通説であるが、これは俗説に過ぎず、統計上はBlacktown - Baulkham Hills地域が最も多いとのこと。

　81.2%の人が英語を母国語としているわけで、依然として「英語圏国家」であることに変わりはない。しかし、「日本語を母国語とする日本人」率99.9%になるであろう日本の感覚からすると、「５人に１人は日本語ネイティブではない」という社会は想像しにくいだろう。

　これも地域差があり、ＮＳＷ州になると、英語を母国語とする人の数は70％を切る(69.5%）。ＮＳＷ州で二番目に多く話されている言語はArabic（アラビア語、11.3%）、続いて広東語とイタリア語（ともに9.9%）。シドニーにおいては、アラビア語(含むレバノン語）12.3%、広東語10.5%、ギリシャ語9.1%。以下、イタリア語、ベトナム語、スペイン語と続く。

　新聞では、ルーシャム（Lewisham、シティから約5キロ西の町。カソリック系のインテンシブスクール（詳しくは中高生留学の項参照））にあるSt Thomas Becket小学校を取材している。この学校では、生徒数110人のうち、80％にあたる87人が非英語圏の家庭から通学しており、その国籍は20ケ国を数える。人前で英語以外の言葉を喋るのをはばかっていた一昔前とは打って変わって、子供たちは異なる文化、言語に囲まれている環境をごく当たり前のものとして楽しんでいるとのこと。




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　シドニーにやってくる移民のうち、イギリス、アイルランド、ニュージーランドの英語圏出身者は、Manly、Mosman、North Sydney、Pittwaterエリアに多く住み、その比率は地域人口の12〜14%に達するという。

　一方、非英語圏の人々は、Botany BayからFairfieldにかけてのエリアに多く住むという。ここでは多くの人が海外生まれであり、トップはFairfieldでは半数以上、Auburn(48%)、Canterbury(45% )と続く。また、家で英語以外の言語を喋っている人の割合はそれ以上である（Fairfieldでは64％の人が英語以外の言語を家で喋る）。

　この反対に民族の多様性が少ないのがカントリーエリアで、ここでは英語以外の言葉を喋る人は人口比 1%以下だったりする。また、これらの地域では海外生まれの人の割合も10％以下である。シドニーの場合は、オーストラリア生まれの人口はわずか65%でしかない（シドニーの３人の１人は海外からやってきた人である）。

　月平均の住宅ローン返済額は、5年前に比べてズッシリ重くなっており、40%増の867ドル／月。22.5%が「ローン返済に苦しんでる」という。

　15歳以上の47%が年収1万5600ドル以下（132万円）であり、年収5万2000ドル（440万円）以上はわずかに5.3%でしかない。ただし、この数字は失業中の人も含むので、実際に職に就いている場合の年収はもう少し高いと思われる（但し必ず職に就けるというものではないけど）。




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　ＮＳＷ州では、この5年間で月額ローン返済額は618ドルから867ドルと40.3%も上昇。さらにシドニーになると687ドルから1000ドルにまで上昇している。一方では、平均週給額は、313ドルから343ドル/週と大して上がっていない。生活が苦しくなるわけである。

　シドニーにおいて、もっとも高給をとっているのがNorth Sydneyで597ドル／週、最も低いエリアはGosford−Wyongエリアで227ドル。週400ドル以上の平均高給をとっているのは、Lower northern Sydney（シドニーの北部のシティに近いエリア）で、Hunters Hill、Lane Cove, Mosman, North Sydney、Willoughby（470ドル）、東部郊外が424ドル、Hornsby や Ku-Ring-Gai地区や北部海外沿いが417ドル。北部、東部の山の手エリアは健在です。

　Inner Sydney（シティ周辺部）では、Leichhardt、Marrickville、South Sydneyエリア、あるいは東部や南部郊外（Hurstville、Kogarah、Rockdaleも含む）などでもローン返済額が1000ドルを超えてます。AshfieldやDrummoyne、Strathfieldなどの西部エリアも月1127ドルの返済。しかし、北部になると、月額1200〜1300ドルともっと厳しい。入るのも多いが出るのも多いということですね。

　家賃も同じく上がっております。5年前127ドル/週が中央値でしたが、140ドルになってます。シドニーでは北部東部シティ周辺など15のエリアで週200ドルを越えてます。一番高いのが、Ku-Ring-Gai地区で週300、つづいてシティ中心部の週270。ＮＳＷ州全体で一番安いのが、Murry地方というカントリーサイドのWindouran（なんと週10ドル）やConargo（20ドル）。



週給ベスト10 North Sydney($597/週）, Mosman, Inner Sydney, Woollahra, Lane Cove, Manly, Willoughby, Leichhardt, Ku-ring-gai,Waverley ワースト10 Fairfield($224), Auburn, Canterbury,Bankstown, Botany,Burwood, Holroyd, Strathfield,Parramatta, Liverpool

　全体としては圧倒的にキリスト教徒の国であるが、「無宗教」という人が25.1%もいる。5年前には23.1%%であったので、増加傾向にある。

　ＮＳＷ州の場合、無宗教の人の割合は21.5%で、平均よりは「信心深い」と言える。また、キリスト教徒の率74%、うちAnglicanism（英国教会）の比率25%といずれも高い（全国平均21%）。なおＮＳＷで一番多いのはカソリック（29%）。南オーストラリア州では、無宗教の人32%、クリスチャン66%となっている。

　日本ほど急速ではありませんが、オーストラリアでも高齢化社会は進行しております。ＮＳＷ州での65歳以上の人口は、11.9%から12.7%に上昇。

　

住民平均年齢 シドニーの高齢地域ベスト５ Ku-ring-gai(39),Hunters hill, Inner Sydney, Mosman, Pittwater 若い地域ベスト５ Cmapbelltown(27), Liverpool, Penrith, Blacktown,Camden

　上記の数値は、シドニーモーニングヘラルド新聞97年7月16日の記事、ならびに統計局のホームページなどを参考にしてます。しかし、特に新聞記事の場合、あっちの記事とこっちの記事とで数字が違ってたりして混乱しております。統計技術上の数値の前提条件が違うのか、単なるミスなのか分からんのですが、マジメなリポートを書こうとするなら、統計局のページ（上記）にいってきちんと出典を明らかにされたほうがかしこいでしょう。ここでは、「大体こんなもん」と大雑把に捉えてください。

　海外生まれ、英語以外のスピーカなどいろいろなカテゴリーがありますが、直ちに白人系−非白人系となるものでもないです。オーストラリア生まれのベトナム二世はメインには英語を喋りますし、家ではベトナム語を喋る（親が喋るから）し、フランス人は「非英語、海外生まれ」にカウントされます。だから、「海外生まれが多い地域」といっても、シドニー北部のようにイギリス出身が多かったら見た目全然エスニシティを感じませんし、文化的にもあんまりマルチじゃない。ややこしいのですね。
　これらを踏まえて、オーストラリア全土、あるいはシドニー内の土地カンで言うならば、まず第一に地方よりも都会の方がマルチカルチャルであると言えます。これはかなりハッキリ言えると思います。留学などで「白人のなかでアジア人ひとり」の環境が嫌だったら、都会にいた方がいいだろうと。

　さらに、都会の中でも、シドニーの場合、北部東部のリッチなエリアは、オーストラリアないしイギリスなど英語圏からの移民の比率が高く、西部南部はその逆です。まあ、非英語圏からやってきて、英語のハンデがありながらやってこうとすれば、どうしても最初は所得が低いですから、そうなるのも無理はないでしょう。したがって、非英語圏であっても所得の高い移民（香港の金持ち、そして日本人＝とりわけ日本国内並の給与が支給される駐在関係の方）は、白人系に混じってノースの方に好んで住んだりするわけです。マルチカルチャルな雰囲気が良いとなると、西部南部がいいのですが（物価も安いし）、今度は住環境が相対的に見劣りすると（家の前が海とか）。痛し痒し。

　ただ、このような文化民族的な地図のうえに、今度は世代的な地図がかぶさってきます。同じネイティブのオーストラリア人であっても、年寄りはリッチで若者はビンボーだったりします（こんなに地価があがったらまともに働いていて買えるわけがないのだ）。したがって、同じ白人系オーストラリア人でも、若いのは西南部へ、高齢者は従来のエスタブリッシュメントエリアにいるということになり、前者エリアは人口が増え、後者は漸減傾向にあります。

　若い人々が住むエリアは西部方面でもさらに遠い地域で、キャンベルタウン、ペンリス、ブラックタウン、リバプールとか、車でぶっ飛ばしても１時間くらいかかりそうなエリア。”Nappy Valley”（オムツの谷）とあだ名されるほど若い夫婦が住み、子供の数も多い。キャンベルタウンなんか住民平均年齢２７歳ですもんね。クーリンガイ地区（ノースのはずれ、日本人学校もある）なんか３９歳だというのに。

　大雑把に言ってしまえば、西部は、シティから５キロ以内程度のインナーシティは、ほぼシティと同じ傾向。中西部はエスニックエリア。遠西部は若いエリアの新興住宅地と言えるかなと思います。

　平均週給や家賃も、実際に住んでる感覚では、随分と安い感じがします。まあ、統計を取るとそうなってしまうのでしょうけど。

　また、面白い発見があったら書きます。

（文責：田村）

今週の一枚ESSAYより
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ESSAY 453／（２） 〜日本離脱の理由、海外永住の理由
ESSAY 454／（３） 〜「日本人」をやめて、「あなた」に戻れ
ESSAY 455／（４） 〜参考文献／勇み足の早トチリ
ESSAY 456／（５） 〜「自然が豊か」ということの本当の意味　
ESSAY 457 ／ （6）〜赤の他人のあたたかさ
ESSAY 458／（７） 〜ナチュラルな「まっとー」さ〜他者への厚情と冒険心
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ESSAY 519／放射能→海外というトコロテン式思考について - Lesser of two evils principle