(その5)


オーストラリアの車が高い理由


〜地元の雑誌記事(The Bulletin, May 13,1997) より


97年5月16日(5・27補)

     ここオーストラリアは、車がないと生活できないくらいの車社会なのに、車の値段が非常に高い。最近は、リッターカーなど新車で120〜30万円程度と手頃になりつつありますが(APECなどで毎年関税が2・5%下がっているからとか)、ちょっと大きめのセダンなどになるとたちまち200〜300万円いきます。

     じゃあ中古車なら安いかというと、これがまた、日本と違って新品信仰がないor実質主義なのが裏目に出ているのか、全然値が落ちない。日本ならとっくにスクラップになってる15年物でも平気で市場に出回っております。

     こちらの給与水準から考えて、購買力平価でいえば、日本の2倍くらいするのではないか。3年落ちの中古車1台買ったら年収がぶっ飛ぶんだから。どうしてこんなに高いのか?理由は「税金」。関税&物品税ですね。ここらへんのことを、最近のBulletinというオーストラリアの雑誌が特集しています。面白いので適宜抜粋翻訳して紹介します。





    Highway Robbery
    Why new cars cost too much


    (ハイウェイ強盗←駅馬車強盗(=昔はオーストラリアにも結構いたらしい)にひっかけたシャレでしょう。この雑誌のカバーは、駅馬車強盗に扮したピーターコステロ(大蔵大臣)のコラージュでしたし)。
    ※追注:オーストラリアスラング辞典を見てたら"Highway Robbery"というスラングを発見しました。意味は「unashamed swindlling,cheating,robbery,charging on exorbitant prices」、使用例は、" What she paid for that was highway robbery!"とのことで、まあ、「ボッタくり」あたりの意味でしょう。

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     オーストラリアのカーディーラショップには、ボッタクリ専門の商人が潜んでいるという。といっても、それは金鎖をチラつかせ、白い靴を光らせたセールスマンではない。それは、あなたの、あの”フレンドリーな”連邦政府だったりするのだ。

     車を買おうと思ったら22%の物品税(※1)を払わないとならない。この率は、物品税平均12%の約二倍であるし、おそらくは先進国のなかでは最高だろう。これ以上の税率がかかる「贅沢品」は、ワイン(26%)、電気器具、宝石、時計、カメラ、ポーカーマシン、そして毛皮(32%)に過ぎないし、言うまでもないが、そもそもこういった物品税がかかる商品は全体のほんの一部でしかない。そして、キャンベラ(首都、ここでは”連邦政府”の意)の一番のお気に入りの獲物は、高級車。なんと税率45%!

      ※1:英語はWholesale sales tax、卸売上税と訳してもいいし、日本風に車両税としてもいいけど、制度の詳細がよう分からんので、ここでは正確な税法上の定義は別にして、「要するに物買うときに払う税金=物品税」程度の意味で使わせていただきます。)


     これはもう、政治家の人々は、自動車をして、酒やタバコのような贅沢品と考えているとしか思えない。必要欠くべからざる生活の輸送手段やビジネスツールとしてではなく。

     車の購入者は、全商品の内わずか3%しか占めないのに、支払う税金は全体の物品税収の27%にも達する。これは納税犠牲者ナンバー2のアルコール飲者の2倍にもなる。ダントツなのである。Whitegoods(文字どおり電機業界でいう「白物」、冷蔵庫や洗濯機など)の税率は12%、旅行、住宅、衣料は無税だが、彼らもまた、車購入で残り少なくなった消費者の可処分所得をめざして争奪戦をしなくてはならない。
     
     もし車の税率が平均並みの12%まで引き下げられたらどうなるか?6気筒のファミリーカーの値段は2000ドル(20万円)以上安くなるし、毎年6万人の国民が新車を買えるようになる。しかし、他の殆どの(自国に自動車産業のある)国の売上税ないしVAT(付加価値税)の税率は、それよりさらに低いのだ。アメリカでは6%〜9%、日本では5% (消費税ですね)、韓国では10%。イギリスだけ17.5%と飛びぬけて高いが、その代りオーストラリアのように「高級車税率」というものは存在しない。

     もしオーストラリアにGST(Goods and Service Tax=一般消費税)が施行されたらどうなるか?おそらく全ての商品に12〜15%の消費税が課せられることになろうが、同時にうなぎ上りに嵩んでいるPayroll Tax(従業員に支払う給与便益の総額に応じて雇用者が支払うべき税金)や労災保険掛金などの負担を減殺するかもしれないから、企業収益からすればむしろプラスかもしれない。アメリカを除いたOECD諸国においては、オーストラリアは、一般消費税・付加価値税を持たない唯一の国である(なおアメリカの場合、各州ごとに6〜9%の売上税を施行している)。

     この自動車物品税の存在は、Mike Quinn三菱オーストラリア社長の言うように、「利益の全てを吸い上げられてしまう」ものとして、今や関税以上のネックになってきている。もっとも安いフォード・ファルコンを買うとしよう。この場合税金として4360ドルは連邦政府の金庫に直行、それだけではなく印紙税と登録税など約2000ドルが州政府に取られることになる。最も安いベンツの場合(C180)は、物品税9248ドル、印紙税その他が3484ドルだ。これに加えて関税がかかる。これが高級車だったらさらに嵩む。15万ドル(1500万円)の高級車などを買おうものなら、物品税3万2575ドル、その他に8000ドルだ。

    ★フォード・ファルコンGLというファミリーカーの価格を、アメリカとオーストラリアとで比較してみると−−−−

    アメリカの場合
     2万4900(オーストラリア)ドル(=約240万円)
     これは約30週分の週給に相当。税金は6000ドル(物品税611ドルを含む)

    オーストラリアの場合
     3万2080ドル(約320万円)
     約45週給分。殆ど年収。政府税金は1万ドル(物品税4360ドル含む)


    ★日米豪価格比較(オーストラリアドル)
    オーストラリアアメリカ日本
    チェロキーltd63,00047,51240,800
    フォード・トーラスV645,75030,68032,900
    BMW528i100,90054,65061,020
    MX−5 1.845,95027,47818,370
    ベンツ C280109,55549,83857,142
    ホンダアコード2.2VTi46,77729,20724,490





     それだけではないのだ。買った後にも税金はついて廻る。自動車会社が支払うものとしては、前述のPayroll Tax、Fringe Benefits Tax(※2)、物品税、関税などなど。フォードファルコン一台につき約1万ドルが税金に消える勘定だ。ユーザーは、ガソリン税や登録税を払う。そして社用車の場合は、雇用者は又ぞろFringe Benefits Taxを支払わねばならない。リースにしても安心できない。高級車リースの場合、連邦政府は、luxury tax, depreciation limit(※3), fringe benefit taxと3方向から攻めてくるだろう。

      ※2:会社の経費で飲食したり、会社の車を利用したり、早い話が「役得」的なものに課せられる税金。日本なら「経費で落とす」ものが、経費にも税金がかかるというキビシイ税金(らしい)。
      ※3:直訳すれば減価償却制限。何となく分かったような分からんような、でもよく分かりません。ごめんなさい。


     この物品税システムは、同時に輸出にも打撃を与えている。製造業に課せられる税金は、すなわち輸出価格をも増加させる。ところがこのコストは、他の競争相手国の場合払わなくてもいいのだ。なぜなら、VAT(一般付加価値税)システムのもとでは、輸出品には税金が掛からないからだ。Business Council of Australiaによると、オーストラリアの税制によって輸出コストを6.3%増大させているという。

     この高い税率システムは、オーストラリアが世界的にも「古い車の溜まり場」のひとつになっている原因でもある。多量の旧型車によって、安全性や排ガスによる環境問題などが惹き起されているのだ。この高税率は、過去20年にわたって新車市場を阻害しきた。その結果、オーストラリアの平均車齢は、アメリカ7.1年、西欧6.3年、日本4.6年なのに対し、なんと10.6年にもなる。





     この自動車の高税率を下げるための圧力は徐々にではあるが形成されつつある。Productivity Commissionから自動車業界になされた諮問に対して、現在のところ、製造業・輸入業界はGST(一般消費税)支持の方向を打ち出している。もっとも、彼らは暫定的にせよ、まずは物品税の範囲を広げ、一律12%にすることを望んでいる。

     財務省や政府の委員会に対する業界のロビー活動など、キャンベラ政幕の裏では、密かに税率カットのキャンペーンが展開されている。 先月、ジョンハワード首相が、John Oleson南オーストラリア州知事や、フォード、トヨタ、ミツビシの各社長と会談した際、この動きはより活発になった(ちなみに、これらの会社はオーストラリアに現地工場を持って生産してるので、法的にも皆の意識の上でも、「外車」ではなく「国産車」だろうと思います)。

     事態の進展の兆しは、産業科学技術省と連邦自動車業界会議との、税率が消費や産業に与えるインパクトに関する共同研究(公式な合意は未発表)であろう。重要なのは、ここで、他の業種や他国との比較において、自動車税率のカットがどのようなインパクトをもたらすかという、前向きなテーマで検討しようという点にある。業界は、政府に対して、オーストラリアの間接税体系はあまりにも課税品目が少なすぎるため、自動車など少数の品目に過大な負担がかかっていること、のみならず、ペイロールタックス、フリンジベネフィットタックスなど、あらゆる段階に重畳的に課せられる税体系が企業活動を阻害し、国際競争力を削いでいるのだと主張している。

     FCAI(前述の業界団体)のIan Grigg会長は、22%という高物品税率はもはや差別的とすら言う。「他にこんな重税を強いられている業界はない。自動車税率は15%〜22%の間をいったりきたりする政争の具にされ、我々にとっても非常に重いクビキなのだ。直ちにこの税率カットすることは、最もタイムリーな市場への刺激になるだろう」。

     Quinnミツビシ社長も同意見だ。「公平な土俵で戦うのが本当だろう?こと自動車税率に関する限り、我々は他国の競争相手に比べて公平だとは到底言いがたい。業界や消費者が払わされている物品税コストは、いまや関税よりも重くなり、全ての利益を吸い上げているのだ。確かに、今回の政府の任期内にはGST導入は無理かもしれないが、少なくとも自動車業界に差別的に課せられているこの重荷だけでも直ちに是正されるべきだ。より多くの投資を招くためには、市場規模を育てていくことはエッセンシャルなんだ。現在のところ、わずかばかりの成長では全部輸入車に取って食われてしまうんだ。」

     小売価格5万5000ドル以上に課せられる45%の高級車税であるが、業界としては、なんら理論的根拠にもとずかない、単なる「贅沢には税を」という理念的なものにすぎないと批判する。この制度は前労働党政権によって導入されたものだが、当時、業界は、却って歳入欠陥に陥ると指摘した。逆にいえば、22%の税率に戻すことによって、生産量は増大するのだから、政府の歳入もむしろ増えるということである。Bernt Schilickum メルセデス・ベンツ社社長は、「差別的でない市場」に戻ったら、高級車の出荷台数は、現在の1万3000台から2万5000台に倍増するという。FCAI(業界団体)は財務省に対し、高級車税廃止を説き続けているが、しかし、ハワード政権がそれをしないであろうことも予見している。なぜなら、前回選挙のとき、ハワード陣営は"Battlers(”生活の為に闘っている一般庶民”という程度の意)のために”をキーワードにして勝利を収めた以上、金持ち優遇とも受け取られがちな高級車税廃止は、「ヤッピー連中に媚びを売ってる」と見られるだろうからだ。




     
     ジョン・オルソン南オーストラリア州知事は、連邦税制改革の強力な提唱者である。彼は、関税を低下させることより、物品税をカットして業界に刺激を与える方が急務であると主張する。「西暦2000年には、コモドアのような車(クラウンクラスの車)の場合、関税は2000ドルまで落ちるのに、物品税は5000ドルにもなる。もし我々が真剣に自動車税体系を解決しようとするならば、そう、ミクロ経済や税体系全体を俯瞰しつつ、総合的に税制改正を考えていこうではないか。輸出競争力を阻害している邪魔物を取り除くために。」と、彼は、アデレードで行われた財界との会合で述べた。彼の主張には一理あるのだ。もし、Productivity Commissionの提言のように、関税が15%から5%に下げられるならば、連邦政府は6億ドルの歳入を喪うことになるが、この欠陥額は物品税カットによっても生じる額と同じでもある(つまり、同じ痛みを覚悟すれば二つの選択肢があるということでしょう)。

     Commissionのレポート草案が、GST施行を基本ラインに据えながらも、税制改革について今一歩踏み込んだ姿勢を示さなかったことは、業界の失望を招いた。特に、レポートにおいて、仮にGSTが導入されたとしても、なお自動車に関しては、(交通渋滞や排ガスなどの外部問題によって)一般よりも高い税率を課すべきだとした部分に、業界は落胆した。業界は、税率を下げて(排ガス規制の無かった頃に作られた)旧型車を路上から一掃してしていく方がより効果的だと主張する。また、レポートでは、オーストラリア製自動車にかかる諸々の税金は、輸入車に掛かる関税とほぼ同様の重圧になっているのであり、さらなる関税引き下げは、輸入車によりアドバンテージを与えるのだという業界年来の主張を、特に強調するものでもなかった。




     数百万のドライバーを代表するAAA(オーストラリア自動車協会)も、税制改革を主張する。「この高い税率が、より安全で、清浄で、燃費の良い新型車を招き入れるのを阻害している」と、AAAは前記Commissionに説くとともに、少なくとも安全に関する部分(エアバッグなど)については控除されるべきだと主張し、このままでは消費者はどんどん安い輸入車に向ってしまうと言う。

     しかしながら、連邦政府としては、仮にGST導入という方法でないとしても、、代替財源確保のために、それまで非課税だった品目を広く課税対象にするなど大幅な税制見直しをしない限り、この問題を片づけることはできないだろう。そして、「任期1期目には新たに税を課さない」という公約をしてしまった政府としては、これは殆ど無理な相談だろう。

     現実的なところで、業界が望みうる希望としては、今度の予算(今週発表された)において、過去3期そうであったようにドライバーに新たな負担をもたらすような事態だけは避けてほしいという程度だろう。彼らへの救済は、次の選挙の後ということになりそうだ。


翻訳文責:田村

     なんたら委員会とかいう固有名詞、税金上のテクニカルタームの訳などは、その場で適当にやってますので全然正式なものではないです(正式な訳というのは誰が決めるのだろう?)。また税・経済的な論理展開についても、「こうなんちゃうかな?」という程度でもので、正確さは保証しかねます。ま、大雑把な雰囲気だけつかんでいただければいいのではないかと。

     記事のトーンとしては、割と業界寄りなのかな?という気もします。環境や都市計画の見地から車社会に対する批判もあるわけですし(これ以上車を増やしてどうするつもりだ等の)、税金が高いといっても、車検は只みたいに安いし、車庫証明も要らないし、一歩都心を出れば青空駐車で間に合うし、高速道路は基本的にタダだし、保有コストは安いのですね。そこらへんも総合的に考えておいた方がいいかなという気もしますです。




    追記:遅々として進まぬ税制改革に業を煮やした業界は、政府に猛烈に働き掛け、2000年以降の関税引き下げを5年間凍結する妥協案を引き出しました。物品税を下げないなら、せめて関税引き下げを一時ストップせよということでしょう。消費者としては、国産車だろうが輸入車だろうが、安い方がいいのですが、そんなこんなで本格的に価格破壊するのはまだまだ先のことのようです。


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