以下に述べるのは、世界経済危機に関する一般的な説明であり、月日が経つにつれ”歴史的経過”でしかなくなっていきます。手短に留学やワーホリに関連した部分だけ読みたい方は、ここをすっ飛ばして2以降をお読みください。この際、事柄を正確に理解したい方のみ読み進んでください。
サブプライム・ショック
今回の世界経済危機の発端となったサブプライム問題は、実は2005年時点から発生しており、2007年の6月にアメリカのベアスターンズ傘下のヘッジファンドが破綻して世界的に大騒ぎになってます。このときは、今と同じように世界中の中央銀行が資金注入を行い、初期のパニックは抑え込まれました。しかし、サブプライムは「ウィルス」「時限爆弾」などと呼ばれるほど経路が複雑で、実態が見えず、感染した機関が破綻するまでのタイムラグがあるといわれていました。
このあたりのカラクリであるRMBSやCDO、CDSについては、2007年8月の
サブプライムローン・ショックで僕なりにまとめていますので、ご興味のある方はどうぞ。
しかしこのあたりは複雑な金融工学の話なので、経済や金融に明るい人でないと中々ピンときにくい領域です。2007年のサブプライム・ショックのときも、メディアで大騒ぎしたものの経済面に留まり、2008年末のように派遣村がどうのという社会面までは届いてませんでした。「なんか、エライことのようね」と皆が思い出したのが2008年の9-10月くらいで、それでも円高為替以外は、あんまりピンと来なかったでしょう。株式相場が総崩れになりましたが、それでも株やってる人は国民全体からすれば一部ですので「ふーん」くらいの人が多かったでしょう。それが年末に向けて派遣社員の解雇が増えるに従って、徐々に迫ってきたという感じでしょう。
景気というのは、そんなに一夜にして全てが変わるものではないです。日本の90年代バブル崩壊をリアルタイムにビジネス現場で体験した身で言えば、バブル崩壊から1年ほど経過してから「バブル」という日本語が新たに出現し、皆が言い出しています。それまでの日本語に「バブル」なんて言葉はなかったですから(あっても「お風呂の泡」とか文字通りの意味だけ)。ただ、このタイムラグの1年で、日本列島で壮大なババ抜きが行われ、今から思えば信じられないような高額でワンルームマンションを買わされた人も沢山いました。
今にしてみれば、2007年のサブプライムショックがバブル崩壊で、それが一般に浸透するのに1年かかったという感じでしょうか。ただ、それでもまだまだ浸透するには時間がかかるでしょう。2008年の年末・クリスマスがパッとしないなとか、年が越せないと言われ始めたあたりから徐々に実感的に広まり、年明け以降徐々に倒産とか失業が増え、「ウチ、大丈夫かな」と我が身に引き替えて心配になるのは2009年中期以降になると予想されたし、実際2009年10月以降になって日本は景況感は一気に悪化し、デフレ宣言などが出されています。
なんでこんなタイムラグがあるのか?それは不況というのはドミノ倒しだからです。
そもそもアメリカの二流どころの住宅ローンの破綻というローカルな話が、なんで「100年に一度」とまで騒がれる大事に発展したのか?ですが、そこが”金融工学”と言われるユエンです。細かい仕組みはともかく、住宅ローンなど貸付金債権を有利な投資先として商品化し、それをデパートの福袋のように詰め合わせ(ポートフォリオ)にして売り出したのですね。貸し倒れの危険のある債権や安全確実な債権について、そのリスクを高等数学を駆使して数値化し、値付けしてガンガン売り出し、皆(投資機関)もガンガン買い、ちょっとでも値が高くなったらガンガン転売する。これを猛烈な高速回転でやると。借金して株やら証券などの投資物件を買い、その投資物件を担保にしてまた金を借りて投資し、その投資物件を担保にして、、、というレベリッジです(テコの原理)。儲かるときは、市場で僅か1ドル上がっただけも莫大な利益を生みます。読んだだけの話ですが、数千億という途方もない資金をコンピューターを使って自動的に取引するという手法もあったらしいです。世界中のあらゆる情報をインプットし、それを独特の解析手法で数式化し、「○○の値段が○○ドル下がったら○○を○○万ドル買う」という形でプログラミングし、ほとんど1秒単位で数億円の取引を24時間やり続けていたという。確かに、まあ、「利益の極大化」という目的においては、合理的なやり方かもしれません。
こういった金融バブルに浮かれまくって世界の(主としてウォール街などアメリカの)金融機関が、鬼のように投資ゲームをやってました。投資総額は天文学的数値になってました。それでも儲かるからやる。儲かって儲かって笑いが止まらないってな感じでイケイケで邁進する。だから、潰れたリーマンの日本支店でも、30歳の社員に年収3000万円とかリアリティのない給与が払われたりしていたわけです。
それがサブプライムローンの破綻が相次ぎ、高等数学を駆使してはじき出した筈のリスク値以上にコケだしてから話はおかしな方向にいきます。デリバティブのような高等技法を使ってなかったら、一定のエリアの住宅ローンを損金処理すれば済む話でした。確かに損はするけど、範囲も限定されたし、対処もしやすい。しかし、福袋のようにごちゃ混ぜにし、さらにその福袋を集めてまた別の福袋に入れ、さらにそれを、、、という具合にやってるので、投資機関も自分が持ってる投資商品のうちにどこにどれだけサブプライムのダメ債権が入ってるかわからない。「過去1年で食べたニンジンを全て思い出せ」と言ってるようなもので、とてもじゃないけど分からない。だから「ウィルス」とか「時限爆弾」と言われました。
そうこうしているうちに食中毒のようにサブプライム菌に当たって、健全な大金融機関が突然死のように破綻するというショッキングが出来事が起き始めたのが2007年のサブプライム・ショックです。このときも大騒ぎして一気にもみ消したつもりだったのですが、サブプライム毒は各機関の投資案件の裏側でガン細胞のように密かに進行し、ついに2008年9月になって、毒が回ったアメリカの名だたる金融機関が総倒れ状態になりました。「くるかくるか」とヒッチコック状態でビビって待ってただけに、市場は一気にパニックになり、株価は急落、「えらいこっちゃ!」という騒ぎになります。この”密かなガン進行”が2007年から08年の1年間のタイムラグです
ここまでだったら、まあ、アメリカのリッチな金融機関がやりすぎて大火傷をしたくらいのことなのですが、これが一気に信用収縮(クレジットクランチ)を起こしかねず、世界経済が突然死するかもしれなくなってから、各国首脳が髪を振り乱して火消しに走り、ガン首揃えて連日会談することになります。信用というのは「お金を貸すこと」です。返してくれると”信用”するからこそお金というものは貸せるのですが、いつ何時、どこの金融機関がサブプラムウイルスにとりつかれて寄生獣のようにバタンと倒れるか分からないのですから、おっかなくてお金が貸せない状態になります。しかし、お金や金融というのは経済の血液のようなもので、ある日を境に流れなくなったら即死してしまいます。そうなったら連鎖反応で世界中大パニックになりますから、各国首脳は信用を取り戻すため、「国が税金ブチこんででも絶対に潰させない」という毅然とした姿勢を見せてパニックを押さえ込もうとしたわけです。
不況の連鎖 第一次ドミノ倒し
ここまでは金融経済のレベルの話で、実体経済までいきません。銀行とかファンドなどの金融機関や、そこに預けていた投資家が火だるまになっただけです。また、日本は十数年前のバブルの後遺症をまだ引きずっていたのが幸いして、この種の金融火遊びをそれほどやっていませんでしたから、この時点では殆ど無傷といって良いでしょう。しかし、金融という血液に障害が発生すれば身体がマトモで済むわけもなく、金融経済→実体経済へという不況の拡大が起きます。これが不況のドミノ倒しであり、ドミノが倒れるための第二のタイムラグが生じます。
まず危険な火遊びをしていた金融機関はグランドゼロ(爆心地)にいたのでケシ飛びます。次に影響を受けるのは、投資的な意味合いを多く含む経済活動、、、典型的なのが不動産ですね。特に値上がり期待の投機・投資物件は、皆がイケイケでいく=右肩上がりの値上がり期待を前提にして動いていますから、ここがコケたら一気に値崩れを起こします。そうなると不動産を買おうという人が少なくなりますからマンション不況が起き、マンションを建設して転売している不動産や建設会社が打撃を被ります。同時に建築資材を作ったり、売ったりという会社も被害を受けます。
また、これまで羽振りのよかった高給サラリーマンが会社が倒産して消滅したり、消滅しなくてもリッチ層の極楽気分が急転直下で冬の津軽海峡のようになりますから金持ち御用達の商品が売れなくなります。典型的な例は高級車ですね。アメリカでは(オーストラリアもだけど)、住宅ローンと連動した消費ローンがありました。住宅ローンを返済すると返済した分また別のものが買えたり、車のローンと住宅ローンを一本化させてくれるとか。数千万とか数億の住宅を買ってる人にとっては車なんか高々数百万で不動産売買の印紙代くらいものでしかなく、気が大きくなってるもんだから、この際ベンツやBMWに乗り換えようかなってなもんです。だから高級車がガンガン売れた。トヨタなんかレクサス売りまくってかなり美味しい思いをしました。それが一気に巻き戻しになりますから、高級車や大画面TV、高級家具などの金持ち用の高額商品が売れなくなります。日本の場合、リッチな世界市場に売りまくっていたお家芸の自動車業界、家電業界が先陣を切って影響を被ります。要するに世界の金持ちが一時的に落ち込んだから高級品が売れなくなるわけです。
加えて急激な円高があります。これまで世界の投資機関は、タダ同然の安い金利の日本からお金を借りて、海外に投資していたわけですね。
円キャリー取引ってやつです。だって日本から3%で借りて、ピーク時に8%ほどあったオーストラリアの定期にいれてるだけで丸儲けですもんね。皆が円を借り、借りた円を投資先のドルや外貨に替える=市場では円を売る人が多くなる→円安で推移していたわけですが、「投資なんか止め止め!」ってムードになったから、皆が円を返しにきた。皆が円を買うから円高になるということです。こう円高になると、今度は円そのものが新たな投資対象になったりもします。これと好対照なのが高金利や不動産バブルで投資先になっていたオーストラリアで、皆が投資から手を引くからオーストラリアドルが売りまくられ、豪ドル安になってます。
円高は自動車産業などの輸出産業にとっては致命的です。こんなに3割も4割も円高になったら、売っても売っても儲からない。100万円で売って利潤が20万というペースでやっていて、3割円高になったら70万円しか入ってこないわけですから赤字です。かくして、日本の自動車産業は、売れないわ、売ったところで赤字だわという泣きっ面に蜂状態になります。この厳しい状況を乗り切るため、自動車&家電など輸出産業界では生産計画の大胆な下方修正をし、工場の操業を短縮、あるいは閉鎖します。派遣社員や期間工などの非正規労働者の首切りが始まります。ついには雇用にもメスを入れるようになったわけで、これが08年年末の派遣村の背景事情です。
第二次ドミノ倒し
このあたりから次のドミノが倒れ始めます。巨大な輸出企業がビンボーになることで、数千・数万という単位で存在する下請企業や関連企業にも影響が走ります。また、減産体制においては、設備投資=新たに工場を新設するとか、工作機械を新規購入するというムードもグッと冷え込みます。09年1月のドミノ移動地点は、大体このあたりだったでしょう。例えば2009年1月23日付報道によると、「粗鋼400万トン減産 下半期、過去最大規模」などという記事がありました。
こうなると失業したり給与減額で可処分所得が減る層が加速度的に増えていきます。将来給料が上がらないどこか下がるかも、さらにクビや倒産するかもという不安が広がると、皆の財布の紐が堅くなります。これまでだったら使うべきお金を使わなくなる。例えば忘年会は予算ダウンにするとか、社員旅行は取りやめとか、服もカバンも買うのを見送りとか、CDも本も買わないとか、外食をやめて自炊しようとか。この影響によって次のドミノが倒れ始めます。売り上げが落ちた観光地、外食産業、出版、、、と、輸出関連に限らずありとあらゆる業種に不況の波紋が広がっていきます。増殖期ですね。正味僕らが「不況だ」と身に染みて実感するのはこの時点だと思います。
もっとも、08年以降メディア報道の激しさは、ちょっと情報先行しすぎではないかと思われるくらいです。そのため現実に自分の収入が全然減ってない層(日本人の大部分はまだそうだと思う)も、気分的に萎えてしまって財布の紐がコマ結び状態になったりして、益々不況を加速し、結果的に自分達の首を締めているということになります(実際に09年10月以降そうなっている)。
そしてこの連鎖反応が続くと、グルリと円環をえがいて無間地獄に陥ります。自動車・家電不況→関連企業不況→その他の業種不況→だから車やTVの買い換えも控える→自動車・家電さらに不況→関連企業さらに不況、、、という。これがいわゆる「不景気」「不況」といわれるカラクリです。
第三次ドミノ倒し
金融経済(第一次)→実体経済(第二次)に続き、第三次に波及するのは「基礎体力」だと思います。国家財政の健全さや国内企業の競争力が試されるようになる。
財政面でいえば、第一次の金融破綻を抑え込むために各国政府は天文学的なお金を火消しに投入しました。さらに第二次の景気対策にもドカドカお金を使います。要するに市場や民間の損を政府がひかっぶってくれたわけで、そうなると今度は国家財政そのものがヘコみます。これらの対策が功を奏して景気が回復し、また税収が伸びていけばめでたしめでたしですが、そのハードルは高いし、どんなに上手くいったとしても、そうなるまでにタイムラグがある。
ということで今度は国家財政がピンチになる形で第三次ドミノが倒れ始めます。ヨーロッパの中でも国家の体力が乏しいギリシャをはじめてPIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)がヤバいという話になりました。借金まみれの赤字財政が問題だということですね。欧州の場合、統一通貨ユーロをもつEUの結束度が試されるということで、問題は経済から政治に移行しつつあるという見方もあります。
しかしこれはヨーロッパという対岸の火事ではなく、日本にも飛び火するという観測もあります。国家財政の赤字度でいえば日本はギリシャの比ではないからです。日本政府の債務は対GDP比でいえば227%という世界最悪状態です(ギリシャですら113%程度)。それでもパニックにならないのは日本の国債の95%は日本人が買っており、自分が自分に借金しているようなものだから大丈夫ということです。しかし、それも無限に続くわけもなく、このまま借金が増え続け、国民の預貯金総額を超えてきたら国内消化ができなくなり(特に団塊世代が受け取りを開始する2012年あたり)、それを転機に一気に国債が暴落するという説もあります。真否はともかくとして、経済危機が蔓延することで国家の体力が試されるということです。
基礎体力が試されるのは国家だけではなく民間企業も同様です。不況が長期化するにつれ、体力のない企業から順に潰れていきます。ここで、企業経営の健全度、また将来の成長性、国際競争力などの諸点からガシガシとふるいにかけられていくということです。
発端は事故によって大怪我を負うようなもので、そのケガの度合いによって死ぬところは死ぬという金融レベルでの影響があり(第一次)、そのためにいろいろな内臓疾患が発生するという病気になり(第二次)、さらに長期にわたる療養をしている間に、基礎体力のないものから闘病生活に破れて没していくという第三次に至るということなのでしょう。
なぜ、「百年に一度」なのか〜「時代の気分」
しかし、上の説明だけだったら、単なる普通の不況と大差ないです。ではなぜ、「百年に一度」とか「世界史の転換点」などと大仰に語られたのでしょうか?
一つは単純に規模が途方もなく大きいからです。過去に何度も不況はありましたし、世界大恐慌もありました。しかし、世界恐慌と同じかそれ以上と言われるのは、昔は存在しなかった金融工学によって、レバリッジの上にレベリッジをかまして、、という、元金1億円で100億円とか1000億円の投資ゲームをやっていたから、損失額がべらぼうに巨大になってることです。各国政府は必死になって公的資金を注入して、集中治療室にいる第一ドミノの金融機関を救済しましたし、アメリカでは第二ドミノのビッグ3の自動車会社を救おうとしました。いかんせん赤字額が途方もない。こんなに援助してたら政府すらも共倒れになるという。また、景気刺激策(=なんとか皆にお金を使ってもらおうとする)のために、やれ減税はするわ、公共投資はやるわ、交付金などバラマキをするわで、前代未聞の巨額のレスキュー・パッケージを組んでいます。まず、このスケールが桁外れだというのが一つ。
しかし、単に量的な問題だけではなく、質的な問題もあります。
「なんでこんなことになったの?」と遡っていけば、レーガン&サッチャー(+中曽根)の80年代の新自由主義経済ってやつにたどり着きます。おりしも計画経済のソ連が断末魔の状態にあり、「ほら、人間社会に真の活力を与えるのは資本主義であり、市場なのだ」ということで、資本主義・市場経済の勝利が高らかにうたわれ、市場に任せておけばいいんだ、政府がグチャグチャ介入しなくても市場には自動バランス修正機能がついてるから大丈夫なんだ、市場を信じて小さな政府に徹し、つまらない規制は撤廃しようという流れです。以来30年、クリントン政権も、小泉政権も、みな基本的にこの路線を踏襲してきました。
しかし、資本主義といえども万能ではなく強烈な副作用があります。また資本主義というのはほっておけば金持ちはより金持ちに、貧乏人は相対的により貧乏になる二極ゲームですから、当然の帰結として貧富の格差が広がります。「金が儲かればそれが正義」という拝金的風潮を生み出し、ギャンブル同然の金融活動が広まります。金融工学を駆使したマネーゲームが一概に悪いわけではないし、投資は健全で必要な経済活動なのですが、あまりにも極端なところまでいってしまった。その大きな揺れ返しが来ているということですね。
例えば真面目にコツコツ公務員をやったり、夜も寝ないで修行に明け暮れていても、せいぜい年収500万円かそこら、あるいはもっと低い。それなのに、ワケのわからない帳簿上の操作で会社を買収したり転売したり、デリバテイブやら何やらで年収3000万、社長になったら年収数十億。「なにか間違ってないか?」という気分は結構世界の皆にあったと思います。実際、新自由経済&グローバリゼーションの30年で良い思いをしたのはごく一握りのエリートだけで、普通の庶民の実質所得はかえって減っているという話もあります。「これが人類の理想状態なのか、本当にこれでいいのか?」と。この状況を称して「社会なき経済」と言う人もいます。気の早い人は「資本主義の終焉」などと言ってたりするわけで、18世紀の産業革命以来足並みを揃えて発展してきた資本主義が終わるというなら、なるほど「世界史の転換点」でしょう。また、百年に一度の曲がり角でもあるでしょう。
もう一つ、第二次大戦後、なんだかんだ言って世界はアメリカがリードしてきました。特にソ連崩壊後、唯一の超大国になってからはその傾向が顕著で、アメリカ発の新自由主義経済というルールを世界に押しつけていたわけですが、イラク、アフガンの混迷に加えて、今回の経済危機を引き起こした張本人になったことで、「アメリカの時代は終わった」という人もいます。
付言すれば、世界経済危機が起きようが起きまいが、世界規模での「時代の気分」というのは、ここ10年でかなり変わってきていると思います。地球の温暖化や環境問題について皆が関心を持つようになりました。西欧社会でも東洋哲学などのニューエイジ系の発想やスピリチャルな事物が広がっています。自分の肉体をコントロールするという肉体改造にもハマります。日本はアンチメタボの痩身美白、西欧ではマッチョな肉体と微妙にベクトルは違うけど、鏡に写した自分を見る時間が長くなってきている。これらの現象で通奏低音のように鳴っているのは、メチャクチャ努力して一番になって、この世の富をかっさらって、贅沢三昧のゴージャスな生活をすることが、昔ほど”ドリーム”ではなくなってきたという点です。いや、一方ではプロセスをすっ飛ばしてその”結果”だけを追い求めるセレブブームなんかもあるので一概には言えないのだけど、そうやって社会的に”成功”することが、昔ほど”立派なこと”だとは思われなくなってきた。そりゃ本音の部分では誰だってそうなりたいし、羨ましいでしょう。でも、無条件で尊敬されるか?いうと微妙。モテまくってる同性に対する視線みたいなもので、羨ましいけど、尊敬はしないという。
オーストラリアでも、十数年にわたるバブル景気で、「強欲こそが美徳」という風潮もありました。が、一方では、「それでいいのか」という動きもあり、確かに給料は上がったけど物価もあがり、勤務時間も通勤時間も長くなり、ファミリー・ヴァリューも薄らぎ、「所得は増えたけど幸福は減った」という評論もありました。デカい4WDはこちらでもガンガン売れてますが、同時に「公道で最も憎まれている車」でもあります。このご時世にガソリンを馬鹿呑みし、排気ガスを撒き散らす車に乗るということ自体、環境意識に乏しいアホという見方もされます。実際、経済危機以前から大型車の売り上げが減り、小型車が逆に伸びています。また、自転車通勤を始める人もかなり増えています。
陳腐なフレーズでいえば物質文明から精神への回帰、清く慎ましやかで、内面的価値を重視するという一種のピューリタニズムのようなものが段々強くなってきているということです。ロハスなんかもそうでしょう。今回の世界経済危機も、「ほらみろ!」という受け止められ方をしている部分も感じますね。いろいろな評論を読んでみても「大変だ!」と騒ぎながらも、どこかしら「ザマみろ」「当然じゃ」という冷淡さが透けて見えたりして。歴史の転換点という意味では、そういう大きな流れもあるのでしょう。まあ、誰でも言ってることですけど。
補足
08年から09年にかけて世界各国首脳が集まって初動の火消しを必死にやったおかげで、初期の大パニックを抑え込むことは成功したと言えます。2009年中期頃から、「景気は底を打った」「回復基調にのった」という明るい言葉もマスコミ紙面でチラホラ見かけるようになりました。人々のマインドを上向きにさせる「大本営発表」的な要素もあるだろうから、皆も半信半疑であったのですが、2009年末になってくると、ほぼ確実に峠を越えたと思われるような状況になっていきました。
最初はもう爆死寸前でしたが、一気に集中治療→経過観察を経て、回復基調に乗ったと。過ぎてしまえば、09年中期以降は反転攻勢で再び景気は良くなっています。別項でも述べましたが、オーストラリアに関して言えば、初動の大規模な刺激策が功を奏し、先進国では最も上手に切り抜けた国として世界的に評価されています。数%の上昇を見込んでいた失業率も過ぎてしまえば1%も上がりませんでした。それどころか景気回復を通り越えてインフレ懸念のために09年10月から翌年4月までの7か月間に、なんと立て続けに5度も公定歩合を上げてます。一旦落ち込んだ不動産市況も09年終了時にはむしろ上昇しています。
とはいいつつ、世界が病み上がりであることに変わりはなく、上に書いたように第三次レベルの波及も懸念もされています。危機以前の健康体というわけにもいかないでしょう。しかし、全般的に言えば2年前の無茶苦茶な状況=先進諸国の主要金融機関がガンガン潰れていく”この世の終わり”みたいな状況=に比べたらギクシャクしながらも立ち直りかけている。結局のところ、100年に一度規模の大クラッシュが起きたのは事実ですが、世界の基礎体力も知らないうちにかなり強くなっていたのでしょうね。世界恐慌の頃に比べれば、中国、インド、ロシア、ブラジルというBRICs諸国をはじめとして体力のあるプレーヤーが増えてきていますし。
ところが!世界が峠を越え、回復に向けて徐々に力強く歩き出したまさにその頃(2009年秋頃)、なぜか日本ではデフレ宣言が出され、不況の二番底に向けて不気味に沈下を始めたかのように報道されています。不思議ですね。なぜここにきて、最も傷が浅い筈の日本だけが沈まねばならないのか?そもそも本当に沈んでるの?という疑問があります。
興味のある人は、
ESSAY 440/不思議な日本の不況〜本当に不況なの?なんでそうなの?
ESSAY 441/不思議な日本の不況(2)〜いわゆる「日本はもうダメだ」論の検証。ホントに?
ESSAY 442/不思議な日本の不況(3)〜内需と外需、雇用不安、グローバル化など
をごらん下さい。
一言で要約すると、日本以外の世界は、「危機は終わった」「大丈夫だ」とカラ元気のような強気な発言をし続けているうちに実態が追いついてきて本当にそうなってしまった。対照的に日本の場合は、「もうダメかも」とか皆で言いあっているうちに本当に病気になってしまったという。「病は気から」と言いますが、まんまその通りの展開です。でもって、第一幕、第二幕で弱気のためにモタモタしているうちに、国家財政や日本企業のグローバル競争力など基礎体力が試される第三幕になってしまったというところでしょうか。